第四百三話 十二天将主神 貴人
青さんから出た十二天将の主神の名。俺達が対峙しているのは・・・貴人。
「一体何故・・・!!」
こんな所にいるはずがない。ましてや対峙するはずがないと言いたげな
青さんに対し、口元を隠しながら妖艶な笑みであざ笑いながら言い返す。
「一体何故?はて、なんでだろうな。お前達と私が対峙している理由。
考えてみてもよいが・・・答えが出るのか?」
青さんの様子を見るに、敵対するような間からではないのだろう。
それもそのはず。十二天将は安倍晴明に仕えていた。
その晴明を吸収した人物に協力する事など、白虎と騰蛇の様に狂わなければあり得ない。
「ぬぅ・・・!!」
考えるだけ無駄。だが・・・考えざるおえない。そんな葛藤が式神契約から伝わってくる。
「阿保。何してんだ。」
そんな青さんの様子を見て、いてもたってもいられなくなったと言わんばかりに
龍へと姿を変えた騰蛇が翼を羽ばたかせて一歩前へ出る。
「戦うんだろ?そこにたいした理由はいらねぇ。
どうしても気になるんなら、ぶっ殺す前に聞けばいいだけのは話しじゃねえか。」
短気な騰蛇にしては的を得ている。少なくとも、俺達と貴人は敵として相対している。
それだけは事実であり、それ以外の事に思考を割くべきではない。
「アンタは変わらんねぇ・・・。だから忠行様は手放した。
白虎もそうだ。お前たち二人は狂気に染まった上で暴れることだけを考えて
手が付けられなかったそうじゃないか。」
「・・飼いならされるのは一人だけだと決めている。
あんな下衆の下で働かせられるなどごめんだ。」
「分かってないねぇ・・・。まあ、今はいいよ。”後”でどうにでもできる。」
こいつ・・・。俺達とただ戦うためだけに出てきた訳じゃない。
あの黒い雲の中で、何かを企んでいた。身内話の中で俺が唯一理解できた事だ。
「さて・・・ひとまずアンタらには用はないよ。あるのはそこの坊や。
忠行様の血を引く坊やさ。」
貴人は俺を指名する。当然だ。賀茂忠行狙いの中の一つは俺。
逃げ場も無いが、たとえあっても逃げる気は全くない。
堂々と立ちあがり、みんなの前に立ち離れた貴人と向かい合う。
「・・・・・なんだ。」
「堂々としているねぇ。良い男だ。こんな状況でも怖気づく気配さえ見せない。」
ここまで来て言葉で俺を仕留めようとしているのか?そんなはずはない。
むしろ油断をしてくれているのなら好機だと、貴人の周りの空気を固める。
「残念。”もう手遅れさ。アンタの事は忠行様から聞いている。
近づかれてしまえば終わり。仕掛けるならあらかじめってね。」
急いで動きを止めるが奴が生み出したであろう黒い雲から何かが落ちていく。
黒い雲に身を包んでいたが、それは気を逸らすための罠。
「アンタ達は知っているかい?晴明が陰陽師になるきっかけをさ。」
ぼとぼとと落ちていく何か。それは魔術や神術ではない。
「お前達も知らないだろう?なんせ、まだ使役される前の事だ。
師である忠行様と歩いていた時、突然道を変えようと清明が提案したんだ。
一体何事かと思った忠行様が何かあったのかと尋ねるが、幼い晴明は何も答えず
黙って手を引き道を変えた。一体何があったと思う?」
有名な話だ。神道を語る上、そして安倍晴明を語るうえで必ず耳にする逸話。
「・・百鬼夜行。」
「そうさ。当時の日ノ本は荒れていてねぇ。今みたいにあちらこちらに結界が張られている
訳じゃなかったのさ。多くの人が行きかう京では人襲う群れである百鬼夜行が頻繁に起きていた。
それを察知できるのは限られた者のみであったけど、さすが晴明だ。
その頃から見鬼の才があったのさ。」
安倍晴明の存在を境に神道の歴史が語られるほど、その存在は当時の日ノ本にとって大きかった。
人の血肉を狙った鬼どもがいつどこで現れるか分からないほど京の都は無防備だったが、
晴明が京に現れたことによってその被害はほぼ収まったと言われている。
「・・・・・何が言いたい?」
この状況と関係の無い会話だ。わざわざ言う様な内容ではない。
「分からないのかい?ついさっきまで、東京結界を失ったこの場所は当時の京と
同じ様な状況だったのさ。」
東京結界は退魔の結界。内側にいる日ノ本にとって危機となる存在の力を抑える効果を持つが、
それはあくまでオマケに過ぎない。
本当の強みは結界内部に入り込ませないようにするための外殻の硬さにある。
結界内部へ入り込ませず、そして万が一入り込んだとしても実力を抑え込み、
弱った所を神道省の職員達が刈り取る。
それが東京結界の強み。長きに渡りこの都市を守り続けてくれた世界でも有数の強固な結界だ。
「まさか・・・!」
「そのまさかだよ。アンタのおかげで準備は万端だった。
今から始まるよ。”百鬼夜行”がさ。」
落ちていったのは・・・鬼達。雲の中に隠されていたのは召喚の術式。
俺達と戦うために結界が壊れた隙に術式を組み、今まで隠れていたんだ。
「・・・・・それがどうした?」
だが、今の状況で街中を鬼の群れが闊歩したとしても被害は少ない。
発展した街々が壊されるぐらいだが・・・再度展開した東京結界によって
本来の強さを生かせないだろう。
「賀茂忠行から俺を聞いているのなら・・・知っているだろう。
百鬼夜行程度で止められるとでも?」
「そうだね。ただの百鬼夜行ならアンタを止められない。
だから・・・アンタには相手をさせないよ。」
黒い雲の中から落ちていく鬼。その肌には鱗の様なものが生えている。
ただの鬼ではない。恐らく・・・賀茂忠行の手が入っている。
その鬼達は街に向かっていくが、風に流され謙太郎さん達がいる護国神社周辺に
落ちてしまっている。今すぐにでも倒しに行きたいが、殺気を向けている貴人は
俺達を自由にさせる気はない。
(・・・・・どうする。)
選択肢は二つ。一つは隊を分けて下にいる鬼達に対応する。
人への被害は少ないとはいえ街への被害は甚大だ。それに・・・謙太郎さん達や、
地上で行動する仲間達への障害となるだろう。
「・・・・・戦いましょう。」
僅かな時間で必死に考え抜き、もう一つの選択肢である全員で貴人と戦う事を選ぶ。
相手は十二天将の主神。少ない人数で戦った所で苦戦を強いられるのは確実。
奴があの鬼を召喚しているので戦いが長引けば長引くほど数が増えていく。
まずは元凶を倒してから鬼達を倒すことが最短で最善だと判断した。
「空を飛べる人達は俺の周りへ。それ以外の人達は青さんの背中でお願いします。」
空気を操り空へと足を踏み入れる。
神融和を使えば翼を生やせる人もいるが・・・今は俺だけでいい。
「男だねぇ。流石、賀茂家の血を引く男だ。」
「あんな奴と同じにするなよ。」
空を飛べないと錯覚されることが出来ればこっちのもの。
俺が空気を固めて目に見えない足場を作り上げられれば不意打ちが出来る。
「大口を叩くね。でも・・・私にとっちゃ好都合さ。」
俺だけが前に出てきた光景を見て、貴人は嬉々とした表情で俺を見つめる。
「やっと・・・。やっとだよ。私の物に出来る・・・。」
その中に差す闇。自らの意志で賀茂忠行に従う貴人は何か目的がある。
そして、それを叶えるには俺を倒すほか選択肢が無い様だ。
伝説の式神、十二天将。青さん達共に安倍晴明を支えた存在。
それが・・・日ノ本征服を狙う賀茂忠行に手を貸すのか。よほどの事情があるのかもしれないが、
どんなことがあるにしろ、俺達の敵である事には違いない。
「・・・・・頼みます。」
八咫烏様を呼び出し、イタカを六華の中に込める。
・・何故だろうか?ここまで共に戦ってきたはずのに共に戦うのがずいぶんと久しく思える。
「強敵だな。」
「ええ。ですが・・・」
辺りの空気を支配し、六華を握りしめて空気を踏みしめる。
「これくらい、倒して見せますよ。」
ここで苦戦するようであれば賀茂忠行の元へたどり着いても勝利はもぎ取れない。
皆を護るためにも、前線を張るために貴人に向かって得物を振り下ろした。
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