第四百一話 護国神社で待ち受けてる者
兼兄からの指示を受け、俺達は護国神社へと向かっていた。
先ほどまでの亀の様な速さをもう必要ない。戦場は大きく動いており
迅速な対応が必要だと青さんの背中に乗って空を駆ける。
「・・・・・見えるか?」
その移動速度も当然だが、辺りの状況を確認するためも青さんの背に乗る必要があった。
そしてその結果が龍穂達の目に飛び込んできたが・・・見えた湾岸は、衝撃そのものだった。
進もうとする巨人。その周りを飛び交い上陸を防ぐ竜次先生達。
小さな液晶ではなく、自らの眼で見た景色はあまりに現実離れをしていたが、
頬を抜ける冷たい風が夢ではないと証明してしまう。
「ええ・・・。」
「あまり深く考えるな。あそこは竜次達に任せておけ。」
俺達には俺達の役目がある。今はそれだけに集中しろと青さんは言ってくれる。
東京が脅かされている現状を見てしまえば加勢したいのは山々だが・・・
もっと大局を見なければならない事も理解している。
「・・・・・・・・・・・。」
そして空を見上げると再展開した東京結界が張られており、その近くに浮かぶ将門の姿が見える。
クトゥルフの落とし子は竜次先生達に任せて、新たに現れる敵に対応するために
東京の様子を伺っているのだろう。
「しかし・・・護国神社ですか。」
その姿を見つめていると、近くにいた楓が呟く。
「国防の象徴と言っていましたが、あそこは英霊達を弔う場所です。
将門公の様な神ではなく、戦死者達が眠る場所で何かが起こるのは避けたいですね・・・。」
どういう経緯であれ、俺達にとってしてみれば日ノ本のために戦った人達に変わりはない。
当時の情勢などを含めると、確かに静かに眠らせたいが・・・その力を理由される可能性もある。
「・・行って何もなければそれでいい。その時はすぐに立ち去ろう。」
「そうですね・・・。」
いつどこが戦場となってもおかしくはない。だが・・・出来れば戦地として使いたくない場所も
多くある。出来れば避けておきたいが・・・割り切らなければならない部分もある。
こうなったら敵が現れない事を祈るばかりだが・・・そんなことをしていてはその隙を
狙われてしまうかもしれない。全ては覚悟の上だ。英霊達には目を積もってもらうしかない。
「・・少しいいですか?」
俺達が会話を終えるのを見計らっていたのか、途切れたタイミングで千夏さんが尋ねてくる。
「比留間の事ですが・・・。気になりませんか?」
比留間・・・。あのような姿でやってきたこと自体が不思議だが、
白達との戦闘を終え、平将門の顕現を阻止するためにやってきたのだろう。
「・・・・・そうですね。」
だが、千夏さんの言う通り不可解な点はある。
竜次さん達との戦闘からかなりの時間が経っている。それなのに・・・手当をしていなかった。
あれだけの傷を放っておくことは考えにくい。
「どれも生傷でした。それに・・・宇宙の神の力を使わなかった。
使う余裕がなかったとはどうしても考えにくい。」
「何かあったのは間違いないね。でも、今その答えを知ることはできないよ。」
気になるのは分かる。だが、答えが導き出せない事を分かっていながらも悩むのは辞めろと
ちーさんは言ってくれる。
時間があるのなら答えを探しに行くくらいの事は出来たが・・・宣戦布告をされた今、
そんな悠長な事をしている場合じゃない。
「・・そろそろつくぞ。」
見えてきた社。そして・・・静かな境内が俺達には見えている。
「異変は・・・無い様に見えますね。」
高度を落としても特に異変はない。
何かあるのかもしれないと言われたが、ここを護るようにと指示を受けたわけじゃなく
境内に降りるか悩んでいると、謙太郎さんが口を開く。
「・・降りてくれ。」
「えっ・・・?でも、敵の姿は見えませんよ?」
「・・・いや、”いる”。確実にな。」
一体何を感じ取ったというのだろうか?謙太郎さんは強い殺気を境内に向けている。
実力があるが無駄な戦闘を避ける人だ。そんな人が殺気を向けると言う事は
それだけの理由がある。そう確信した俺は青さんに降りてくれと指示を送る。
「・・龍穂。一つだけ聞いておいて欲しい。」
指示を送った俺に対し、ちーさんが肩に手を置いて語りかけてくる。
「さっきまでは敵を動かすための陽動部隊だった。それは確かな事実だ。
でも・・・その役割はついさっきで終わったんだよ。茜と平田が離れたことでね。」
役目を終えた平田さんと黒川は、師匠である平さんの悲願の行く先を見届けると言って
俺達と別れた。少しでも味方が欲しい状況で付いてきて欲しくもあったが・・・
師匠の悲願という言葉を聞いてしまえば、引き留める事は出来なかった。
「私達は”本隊”の一つになった。兼兄や竜兄も当然主力の一つだけど、
ハスターの力を持った龍穂は私達が切れる中でも一番の切り札だよ。」
「・・揚げ足を取りたくはありませんが、では何故陽動に使ったんですか?
切り札とはいざという時に切るものでしょう。」
「陽動で使う事で龍穂の見え方も違ってくるからだよ。雑に扱う事で
本命ではないと思わせるのも一つの狙いだ。だからこそ、大胆な行動は控えて欲しい。」
なるほど・・・。そういう狙いもあるのか。だが・・・それでも俺は止まる事はしない。
「・・結局戦うんです。敵がそこにいるのなら倒すだけ。」
俺が本体であれなんであれ、いずれ戦う敵は倒しておくのが一番だろう。
それに・・・ここまで来てこそこそ行動するなんて方が間違っている。
青さんが護国人社の境内に着地すると、いの一番に飛びおりた謙太郎さんが
辺りを見渡し始める。何か感じ取っているのだろうが・・・辺りに人の気配はない。
「・・・・・師匠。」
俺達も周りの様子を見るために降りようとすると、謙太郎さんが青さんに向けて声をかける。
ただ間柄、関係性を示すだけの言葉だが、その言葉を聞いた青さんはただ黙ってうなずき
なんと空を駆けようとし始めた。
「なっ・・・青さん!?」
止めようとするが、答えることなく空へ飛び始める。
「・・アホ。ここは謙太郎に任せておけ。」
敵の幹部がいるのかもしれない状況。いや、あの口ぶりからしてあの画面に映っていた中の
一人なのだろう。
謙太郎さんとはいえ。流石に一人では分が悪い。そう思い無理やりにでも背中から下りようと
するが、誰かが俺の肩を掴んで引き寄せると、その反動を使って勢いよく
飛び降りていく。
「ったく・・・世話が焼けるな!!」
「まったくだ。」
飛び降りたのは伊達さんと藤野さん。謙太郎さんを一人にしないために身を投げ出した。
あの三人の実力を疑うわけじゃないが・・・それでも勝てるのかは分からない。
「くっ・・・!!」
二人を追うために俺も降りるか・・・。だが、そんなことをしてしまえば
謙太郎さん達に怒られるのは分かっている。
「・・馬鹿な事を考えるのは辞めや。」
必死に考える俺を引き留めたのは純恋。俺を服を引っ張り飛び降りさせないようにしている。
「純恋・・・。でも、謙太郎さんが・・・。」
「あの人達が簡単にやられると思うか?安心しろ。大丈夫や。」
そんな事よりと純恋が再び空へ駆ける青さんの背中どこかを指差し俺の視線を奪い去る。
「そんな事より・・・あれを見いや。」
指を差した先・・・。そこには、見たことも無いような漆黒の雲が浮かんでおり、
その不自然さは新たな刺客であると物語っているように見えた。
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境内の中に立つ老人。頬には無数の傷、そしてその分厚い手は歩んで来た道のりの
激しさを物語っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
そして相対するは顔の似た若武者。図体は大きく、頬に傷はないがその分厚い皮は努力の賜物。
それ相応の道のりを歩んで来た事察しさせる。
「・・じいちゃん。」
昔の様に語りかけた若者に対し、呼ばれた老人は返事もしない。
口を開くことなく振り向いたその手は・・・自らの息子に血で汚れていた。
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