第三百九十九話 関東管領 平将門
賀茂忠行の宣戦布告を受け、俺達は対応を強いられる。
色々としなければならない事は多い。だが、まずは目の前の平将門をどうにかしなければならない。
「・・もう一回お願いする。力を、貸して欲しい。」
敵はもう目の前まで来ている。東京が危ない。ただその事実だけで、動く理由になるはず。
「そうさな・・・。」
だが、将門は未だ渋っている。一体何が不満なのだろう。
「まだ、何かあるんか?」
「・・いや、そうではない。生前の自分を少し思い出していたのだ。」
「アンタが生きていた時・・・?」
「ほんのわずかに前まで、私は国賊として扱われていた。当然だ。
この国の王にたてついたのだからな。」
悪霊として名を馳せていた事が物語っていた。東京を護るためにこの地に残っていたのにも
関わらず、あまりに粗末な扱いだろう。
だが、それでも残り続けてきた将門の思いは本物。その力は、俺達に必要だ。
「・・貴方と奴を同じにてはいけませんよ。」
思いに更けていた将門に向かって、兼兄が言い放つ。
「使っている言葉は同じかもしれませんが、その志には大きな違いがある。
貴方は貧困に苦しむ民のために立ち上がった。だからこそ今も強い信仰を受けている。
ですが・・・奴は違う。賀茂忠行は自らの野望の為、民を力づくで抑え込もうとしている。
”新皇”などと名乗っていましたが、あなたの方がよっぽどその名を使うに値するはずです。」
悪霊と呼ばれているいたのは結局の所当時の体制から日ノ本が変わっていなかったからであり、
それだけ平将門が皇に恐れられていた事が分かる。
「・・もう一度、私が反旗を翻すかもしれんぞ?」
「そうでしょうか?少なくとも・・・今のあなたが皇を狙うことはあり得ない。
何故なら・・・目の前にいる彼女達は日ノ本ために戦おうと決意をしているからです。」
兼兄の言葉を聞いた将門は、決意の灯った目を再度こちらに向けてくる。
あれだけの光景を見てしまえば、決意を固めるのは当然だろう。
では何故、一歩踏み出せないのか。それはきっと・・・大義名分が必要だからだ。
「・・俺達は、賀茂忠行に”決死”の覚悟で挑みます。」
将門が動く理由。それは・・・東京の民である俺達だ。
俺達の覚悟が力に繋がる。兼兄の言葉から察した俺は、強さを語る。
「・・・・・強い言葉だな。」
「ええ。それほどの覚悟を持っています。何故なら、我々が倒れた時は東京どころではなく、
日ノ本がという陽が沈む時だからです。」
強い言葉を重ねていく。賀茂忠行に負ければ日ノ本が終わる。
それは覆しの無い真実であり、俺達はそれを阻まなければならない。
「・・・・・・・・・。」
将門が俺の眼をじっと見つめてくる。桃子の中から成長を見てきたという事は、
同時に俺の事も見ていたはず。
今まで俺が引っ張ってきたと自信を持って言う事は出来ない。
「力を・・・貸していただけませんか。」
ここまでみんなの力を借りてきた。だが、ここだけは譲れない。
ここでみんなの前に立たなければ意味がない。桃子の前に立たなければ・・・意味がないんだ。
「・・・・・いいだろう。」
じっと俺の眼を見つめて来た将門は申し出を承諾する。
まるで俺の心の奥底を見透かすように見つめた結果、納得してもらえたようだ。
「・・よくやった。」
承諾の言葉をもらった後、聞こえてきたのはこの場で聞こえてきてはならない声。
声の元へ振り向くと、そこには皇の姿があった。
「じいちゃん・・・!?」
「今出てきたら・・・!!」
賀茂忠行の狙いの一つ。いや、本命が前線に出て来てきてしまうのはマズイ。
この場が緊張に支配される。だが、当の本人は覚悟を決めた表情で将門を見つめていた。
「臆病の者・・・とは言えないな。歴代の皇の中でも随分と勇ましい。」
「日ノ本の危機に、太陽であるわしが皆を照らし続けないでどうする。」
太陽・・・。確かに、日ノ本の象徴であるこの人は太陽そのものだ。
賀茂忠行から指名手配を受けているのに姿を現すなんて愚行としか言えないが、
それでも戦う俺達を照らそうとしてくれている。
「それにだ。わしの力が必要だろう?なあ、平将門よ。」
威厳ある姿に臆することなく話しかける皇。
「・・・・・・・・。」
「わしがいるからこそ、お前は真の力を発揮できる。
頭は垂れん。それが・・・王としての定めだ。」
何かを頼むつもりなのだろうが、この人は頭を下げてはならない。
もし、それが必要になれば代わりにいくらでも頭を下げよう。
皇の言葉を聞いた将門は何も語らない。一体何をしようというのか、まだ俺達には分からない。
「・・この戦いだけだ。それだけであれば・・・受け入れよう。」
「それでいい。我らには埋めることができない確執がある。
だからこそ、それでいい。我らは手を組む時はそれ相応の事態だけでいい。」
将門が膝を着き、皇に頭を垂れる。その姿はまるで主君から命を受ける臣下。
「・・平将門よ。貴様に任を与える。」
俺が思った通りの光景が皇によって作り上げられた。
そして・・・軍門に下った将門に向けて言い放つ。
「”関東管領”職を貴様に命ずる。敵の脅威を防ぎ・・・民を護れ。」
関東管領。関東全域の守護を担う役割であり、現代の日ノ本では廃止された職だ。
だが、今の将門にはあまりに打ってつけな役割であり、ここでしかないタイミングでの
任命を言い放つ。
「・・受けたまわった。」
将門が任命を受け入れたその時。体に秘めた力が何倍にも膨れ上がる。
これが・・・平将門。本来の姿か・・・。
「このわが身は今から関東の民の物だ。民のために・・・力を振るおう。」
関東管領へと変わった将門は立ち上がり、広がる空を見上げた。
「・・桃子、龍穂。」
見上げながら、俺達の名を呼ぶ。
「この姿になれたのは・・・お前達のおかげだ。」
そしてゆっくりとこちらを向くと、桃子の肩に手を置いた。
「いや、私達は何も・・・。」
「もし私がここに収められていたとしたら、何もできなかった。
どういう形であれここまで導いてくれたからこそ、私は民の力となれる。」
封印を施されていたからこそ、将門は顕現を果たすことが出来た。
確かに・・・桃子の力があったからこそ、ここまで来れたのは間違いない。
「そして龍穂。桃子がここまで強くなれたのは確実にお前のおかげだ。感謝する。」
「・・それは違うな。」
将門が感謝を述べてくれるが、さすがにそれは受け取れない。
「俺がどうとかは関係ない。桃子が頑張ったからだよ。
だから俺への感謝も桃子に上げてやってくれ。」
俺がいなかったどうかなんてことは分からない。だが、
桃子は桃子自身の努力でここまでやってきた。その事実だけは否定してはいけない。
「・・優しいな。そんな所に桃子は—————————————」
何かを言いかけたその時。桃子が再び肩を叩く。
そんな嫌な事を言おうとしたとは思えないが・・・。
「さて・・・では、行って参る。」
桃子が残した痛みに笑顔を浮かべた将門は、神力を体に込めると体を浮かせ
空へ飛び立っていく。
「・・よし。こちらもやろう。」
その姿を見送った兼兄は、どこかへ連絡を取るとここら一体に強い神力が込められていく。
「奴が深き者ども達だけで東京を制圧するなんて思えない。
何かを持っている事だけは分かっていたが、それが何か分からない以上こちらに動けなかった。」
そして・・・その神力がどこかへ集まると、空高く張り巡らされていく。
「だが、平将門の顕現に成功した今であれば張ることができる。東京結界の再展開だ。」
俺達とは別行動をしていた武田さん達は東京結界を張る準備を整えてくれいた様で、
強力な結界が都市を覆っていく。
「これは・・・。」
今まで張り巡らされていたよりさらに強力な結界となっていたことに驚く。
これであれば・・・外部からの侵入を抑えられることができるだろう。
「さて、最低限やるべきことは終えたな。」
東京結界。そして・・・平将門の顕現を終えた。ひとまず、これで戦いの基盤は
作れたのだろう。
「次の一手をどうするかだが・・・。」
敵の本体がやっと現れた。賀茂忠行を倒せば全て終わるのだろうが・・・その道のりを
簡単に歩ませてはくれないだろう。
東京へ上陸を企む奴らと戦うのも選択肢に含まれているが、それでは埒が明かない。
「・・じいちゃんの元へ行かせてくれ。」
賀茂忠行の元へ行くしかない。そう提案しようとしたその時、
謙太郎さんが珍しく口を開く。
「親父を殺したんだ。仇を討たせてほしい。」
こういった時、謙太郎さんは自らの意見を控えて周りに合わせる。
当然それが最善と思っているからだろうが、自分の感情を優先した発言を聞いた兼兄は
少し考えた後、口を開く。
「本来であれば、その気持ちを優先したい。だが・・・難しい部分があることも理解してくれ。」
「・・分かっている。」
「俺達は白と業から選抜した部隊を率いて賀茂忠行の居場所を探す。
龍穂達は・・・そうだな、靖国神社へ行ってくれないか?」
靖国神社・・・?他の部隊から襲撃を受けている報告がない場所だ。
一体何故そんな場所に向かわなければならないのだろうか?
「あそこには日ノ本を守ってきた英霊達が眠っている。
いわば・・・国防の象徴の様な場所なんだ。」
大戦で命を散らせた者達が眠る場所。
この国を支配しようとしている賀茂忠行にとってしてみれば邪魔な場所だろう。
「そこへ行って何もなければそれでよし。敵の動きがあれば・・・そのまま戦闘を行ってくれ。」
「分かった。」
「ちー、ゆー。二人は白からの情報を龍穂に伝えろ。俺からの指示が無かった場合は、
独断で行動してもらって構わない。」
兼兄は指示を出した後、毛利先生と皇と共に影に沈んでいく。
宣戦布告。ついに・・・決戦が始まってしまった。
他の場所では戦闘が起きているのだろうが、俺達はその渦中にあるとは言えない。
「・・行きましょう。」
全員に指示を送り、駆け出していく。
俺達が日ノ本を守らなければならない。そう強い決意を心に秘めて
指示の有った靖国神社へと向かい始めた。
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