第三百九十七話 再び現れた化け物
比留間の体が突然引き裂かれ、何もわからないままの俺達の耳にノイズの様な音が響く。
突然の出来事に辺りを見渡して警戒を行うが、特に異変はない。
「何だってんだよ・・・。」
突然命が絶たれた比留間。まるで・・・拷問の時に口を割らない様に口封じをした様に見える。
「・・・・・・・・。」
あまりの出来事の連続に、兼兄も辺りを見渡すだけで動けない。
連絡をしていた業にも返事が出来ずにいたが、耳に入ってくるノイズに意識を戻されていた。
「・・ひとまず、平将門公の協力を仰ぐ。まずはそれからだ。」
業にノイズの原因を探るように指示を出した兼兄は俺達に指示を出す。
まずはそこから。比留間が現れたことで優先順位が変わったが、
俺達の役目を全うするためにみんなの元へ歩いていく。
後ろで見ていた全員も、訳が分からないという表情でこちらを見つめてきたが、
俺達から引き出せる情報はない。
「将門公。御見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ない。」
平田さんと黒川の後ろに立っていた平将門は、兼兄の謝罪を気にするなと一蹴する。
「さて、色々ありましたが・・・あなたにお願いしたいことが———————」
咳ばらいを師、兼兄の申し出を話し途中で止めてしまう。
「体から離れたとはいえ、我が主との契約は途絶えていない。」
「・・・・・失礼いたしました。」
将門の言葉を聞いた兼兄は、俺の隣に立つ桃子に視線を送ると道を開けるために足を動かす。
どうやら将門は、式神としての筋を通すつもりだ。
使命を受けた桃子だが、足が動くことは無く代わりに俺の手を握りしめてくる。
長い付き合いではあるが、今までまともに姿を見る事が出来なかった式神を前に
緊張しているのかもしれない。
(・・ここだな。)
ここだ。不安な桃子に俺の背中を見せる絶好の機会だ。
俺の手を握ったという事は人の助けを受けてでも前に進まなければならないと思っている証拠。
足が動かないのであれば・・・俺が手を引いてあげなくてはならない。
やっと助けることができると手を握り返し、将門の前まで歩いていく。
近づいていくと共に、将門の力がどれだけ強大なのかが伝わってくる。
ただ立っているだけなのに辺りに放つ力は今まで戦ってきた神にも引けを取らない。
「はじ・・めまして・・・。」
ちゃんとした名。そして姿を見た桃子はよそよそしく挨拶を交わす。
握られる強さが増し、緊張と不安が最高潮だ。
「・・初めましてとは心外だな。いつも近くにいただろう。」
「いや、そんな威厳ある姿違ったし・・・。」
「それは封印されていたからだ。あの小娘が良く成長したものよ。」
名を変えられ、その上で封印されていたが記憶はあるようで
桃子の成長を感慨深いと返す。その姿はまるで父親。子供から純恋の中にいたのだから
親心を持つのは当たり前なのかもしれない。
「主を支えると意気込んだいたが・・・なかなか泣き虫が治らなくてな。
人知れず毎日泣いて————————」
「も、もう!こんな状況で何を言ってんねん!!」
・・本当に父親を相手する様に平将門の肩を勢いよく叩いてしまう。
真の姿を見ていないのにも関わらず、仲睦まじいのは大変よろしいのだが
今はそんな事態じゃない。
「・・桃子。」
「わ、分かってる!」
「そして、また面倒な男を捕まえてきたものだ。賀茂家の子孫。そして・・・
主の恋人でもある。」
「も、もう!!!」
「分かっている。我に”役目を果たせ”というのだろう?」
元関東管領であり、悪霊となってまで古くからこの地を守ってきた平将門に
力を借りなければならない。
「そ、そうや!ふざけるのは辞めて早く・・・。」
これ以上自分の恥ずかしい事を話させまいとする桃子だったが、
将門は話しを聞かずにどこか遠くを見始める。
「・・嫌な力だ。」
そして・・・不穏な一言を呟くと、俺達に向き直した。
「手を貸したいが、少し場が悪い。」
「場が・・・悪い?」
「お前達の耳にも届いているだろう?この耳障りな音が。」
先程から響いているノイズ。この正体が何なのかを突き止める前に
兼兄は将門の力を借りる選択を取った。
「この音に力を乗せて辺りの力の阻害を行っている。
それに・・・何かを呼び出している様にも聞こえるな。」
まずは基盤を整える選択は正しい。だが・・・この音を扱っている者は
その思惑を手に取るように阻害しに来ている。
「では・・・この音が止まなければ動けないという事ですか?」
「俺を舐めてもらっては困る。この音を発している者など他愛もない。」
「じゃあ・・・!」
今すぐにでも頼みたいという桃子に対し、将門は首を横に振る。
「重要なのはそちらではない。何を呼んでいるかだ。」
ノイズの様な呼び声。俺には何と言っているのか見当もつかないが、
確実に千仞の仕業だ。
嫌な予感しかしない。これほどの力を持っている人が様子を伺うほどの何か。
この戦況をひっくり返す何かを呼び出そうとしているのかもしれない。
「・・・・・兼兄!!」
対処する順番が再度変わった。この音をかき消す方が先の方が良いと判断し、
兼兄の方を向く。
「・・ああ。それで頼む。」
既に携帯を使い指示を送っている姿が写る。その隣に居る毛利先生も同様であり、
この何気ない音が事態を大きく変えようとしている事などこの場にいる誰でも分かり切っていた。
「・・・そちらは?」
「状況はあまり良くない。だが、対処は可能だ。」
真剣な表情で語り合う兼兄達。俺の声は聞こえていないようだが、
こちらへ向かってきている。
「龍穂。そちらはどうだ?」
「いや、それが・・・。」
将門がこの声が気になっている事を報告する。
一体何を呼んでいるのか。そしてまずそちらを対処したほうがスムーズに力を貸してもらえる
と思うと素直に伝える。
「・・そうか。」
「兼兄は他の部隊と連絡を取っていたんだよな?この声の正体について何か知らないか?」
一体東京で何が起きようとしているのか。兼兄に尋ねた所でちーさんが駆け寄ってくる。
「兼兄!!」
どんな状況であっても冷静であるちーさんが分かりやすく焦った様子でこちらに合流してくる。
そして、手に持っていた小さな液晶を携えた機械をこちら見せてくる。
「これは・・・?」
「携帯用のテレビだよ。情報を得るための道具として持ってきたんだけど・・・
まさかこんな所で役に立つとはね。」
液晶には砂嵐が舞っているが、うっすらと何かが写りだす。
「これは・・・人・・・ですか?」
「人だったらどれだけ良かったんだろうね・・・。」
どう見たって人だろう。これが人でなければ・・・化け物にしか思えない。
その正体を見るために砂嵐を凝視していると、人影の正体が現れる。
「こいつは・・・!!!」
テレビに映った人影の正体。あまりに長い時を過ごして黒くなった肌。
まるで猛禽類の様に鋭くとがった爪と眼。その画面に映っていたのは・・・賀茂忠行。
闇に潜んでいるこいつが何故テレビの画面に写っているんだ?
「・・ちー。これは全国放送か?」
「そうだよ。避難勧告の中でも残っていたキャスターが生放送で東京の状況を
伝えていたんだけど・・・突然倒れてね。
その後から画面が徐々に砂嵐になってきたんだけど・・・完全に包まれる瞬間に
こいつの姿が写ったんだ。」
東京全土に避難勧告がかかったことは様々な情報媒体で多くの人が知っている。
だが現地に人がいないため、詳細な情報を得ることが出来ずにいた人達は
命を賭して東京に残り報道を続けるキャスターが読み上げる原稿に耳を傾けていただろう。
「今さら・・・表に出てくるのか?」
そんな中、突然倒れたキャスターを目の当たりにしたと思えば人とは思えない姿をした
老人が画面に映れば一体何が起きたのかと画面に釘付けになる。
多くの人が見ているはずだ。賀茂忠行は・・・一体何をしようというんだ?
「・・春。竜次に連絡だ。”東京湾”周辺に警戒網を敷けと言ってくれ。」
東京は海に面しているとはいえ、警戒を広げれば手薄になる所が出てくる。
そんなことを兼兄が考慮しないはずがない。
「・・・・・日ノ本の諸君。」
ノイズ。誰かを呼ぶ声。そして・・・姿を現した賀茂忠行。
この放送がその意味を知らせるのかと不安を抱きつつ、画面に映る化け物に視線が奪われていた。
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