第三百九十四話 桃子の不安
式神契約とは・・・魂に繋がりを持つ事だ。
深ければ深いほど、相手の心情を理解できたりする。
純恋と千夏さんとより深い繋がりを持ったが、それでも分からない事もある。
(多分・・・俺が未熟なんだろうな。)
長い付き合いの楓は契約が深くなくとも俺の心情を分かってくれる。
それを二人が察するのは難しい事は分かっている。だからこそ、寄り添わなければならなかった。
二人は既に俺に寄り添ってくれていた。未熟なのは俺の方。
だが、もうそんな言い訳は出来ない。
体液を交わし、契約を探っていく。魂の繋がりは俺の意識を桃子の中へと深く誘っていく。
「・・・・・・・・・・。」
そして・・・行きついた先。桃子の魂の中に刻まれた封印。
そこには・・・桃子と対峙する平将門がいた。
「アンタ・・・ここから出たいんか?」
苦しんでいた姿とは真反対に、冷静に誰かと会話をしている桃子。
会話の相手。相対しているのは綺麗な鎧に身を包む武将。恐らく・・・平将門だろう。
「ああ。我には役目がある。その役目を果たすためにはここから出なければならん。」
「でも・・・出るって言ったって・・・。」
平将門は関東守護の任を全うするために出たいと訴えていた。
だが、それに対して迷っているのは桃子自身に見える。
「・・アンタがいたから、私が存在しているんや。アンタがいてくれたから・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
護国人柱とは強い力を持つ妖怪や悪霊を体に封印する非人道的な手段。
だが、その存在が自分の価値を高めてくれていた。だから出ていくことに抵抗があるのだろう。
自己評価の低い桃子らしい一面だ。だが、今は平将門の力が必要。
それに・・・例え力を失ったとしても、桃子の実力なら問題ない。
護国人柱の力を持った桃子ではなく、伊勢桃子として認識されるほどの実力を有している。
「・・・・・桃子。」
そのことを伝えるために、式神契約を通じて桃子に声をかける。
聞こえるはずの無い声を聞いた桃子は驚いてこちらを向くと、つま先から頭の先までを
じっくりと確認するように視点を動かしていた。
「そんなに不安か?平将門公を失う事が。」
どうやら・・・俺の意識は姿となって桃子の前に現れているらしい。
ゆっくりと近づき、両手で不安そうに下がる肩を優しく掴むが視点は交わらず下を向き始める。
「・・龍穂は分からんよ。私はこいつと居たから・・・。」
「そんなことはない。」
本来なら・・・寄り添ってあげるべきだ。でもそれでは桃子は不安を抱えたままになってしまう。
なら、その不安をポッキリと折ってしまった方がいい。そして・・・自身という新たな柱を
立ててやるのが俺の仕事だ。
「桃子は桃子だ。俺は・・・護国人柱の桃子じゃなくて、伊勢桃子として見てきたんだよ。」
自信を持てと桃子に語り掛けるが、それでも前を向くことは無い。
純恋のために受け入れた護国人柱。辛い経験もいっぱいしてきたはずだ。
だが、その存在がいつの間にか桃子を支えていたんだ。それを失うと言うのことは
今までの道のりを全て失う。
「でも・・・。」
「俺がいるだろ?桃子は一人じゃないんだ。力を失った事がなんだ。
また力をつければいい。」
ゆっくりと、そして力強く桃子に語り掛ける。すると・・・下に突き刺さっていた視線が
こちらに向く。
「それでも・・・怖いか?」
もし、まだ足りないのなら・・・俺の全てをかける。
それほどまでに桃子が俯いたままなのは嫌だ。
「・・・・・なんで。」
「・・・?」
「なんでそんなことを言えんのに、さっきまで私達から逃げようとしたんや・・・。」
俺の態度が気に食わなかったのか、桃子が呟いた芯の食った一言は俺の胸に突き刺さる。
「まあ・・・それは・・・。」
言い訳も浮かばず、必死に取り繕うために頭と口を空回りさせていると
唇に何かが押し当てられる。
「アホ。素直に謝れば・・・それでええ。」
目に涙を溜めた桃子が腕を伸ばし、人差し指の腹で俺の唇を塞いで来た。
そして、全ての不満を吐き出すように大きなため息をつく。
「はぁ・・・。なんだかバカみたいやわ・・・。」
「いや、そんなことは・・・。」
「これから龍穂のために力を振るおうと思ってたのに力を奪われるなんて、
私は必要ないやんなんて思ってたんやで?それを・・・さっきまで弱弱しく泣いていた奴に
自分がやるから大丈夫何て言われたら・・・そう思わん?」
・・言い返せない。ど正論。ど真ん中を行く正論を受け、俺は固まってしまう。
「さっきその姿をしてくれていれば、純恋も辛い思いをせんで済んだのに・・・。」
「・・・・・ごめん。」
もう謝るしかない。絞った声で呟くと、桃子はそっぽを向いて両手を高く組んで背伸びをする。
「はぁ・・・。でも、それだけ龍穂が私達を大切に思ってくれていたことは事実や。
だからこそ、もっと私達が”強ければ”こうならんかったことも事実。」
「それは・・・。」
「違うなんて言わせんで?純恋が未来から帰ってきた意味がなくなるやろ?
龍穂を引き留める嘘かもしれへんけど、そんなことをしなくちゃいけないほど
追い込まれていたんやろ?」
今度は後ろで手を組み、ゆっくりと距離を詰めてくる。
俺の目の前まで来ると、ちょこんと顔を突き出し問い詰めてきた。
「・・・・・そうだよ。」
「そんなに追い込まれていたのに、私を助けられるんか?」
いつもと違う桃子の姿に、驚きを隠せない。言葉だけを聞けば嫌味ったらしく聞こえるが、
俺の反応を伺う様に詰めてくる姿は、純恋の後ろで一歩引いて発言する大人な桃子から
は考えられないほど子供で、年相応な姿だと感じさせる。
「・・・・・大丈夫だ。何とかする。」
きっと、これが素なのだろう。情けない俺の姿を見て何か変化があったのかもしれない。
それか、純恋やみんなもいないこの精神状態の中でしか見れない姿なのかも。
だからこそ、俺はしっかりと答えなければならない。次は失敗しない。
二度と仲間を失いかける事さえしない。今度こそは・・・みんなを護り、みんな共に歩むと。
「・・・・・ふぅん。」
俺の答えを聞いた桃子は、二コリを笑って一歩後ろに下がる。
俺の答えに満足したのか。それとも、戸惑う俺の反応を見て満足したのか。
どちらにせよ、少しは信じてもらえたのだろう。
「何とか・・・するか。それでもええな。でも・・・。」
「でも・・・?」
「私達も何とかしたい。龍穂を救いたいし、龍穂の隣に居たい。だから・・・。」
俺の右手を掴み、両手で包み込んで胸に引き寄せる。
「一人で抱え込まんでや?助けてくれるのはありがたいけど、私も力になりたいんや。」
こちらを見つめる瞳は先ほどまでの微睡んだ眼ではなく、強い決意を秘めた力強い眼だ。
俺の瞳をしっかりと捉えており、その決意に俺の視線も飲み込まれてしまう。
「ダメ・・・か?」
「・・・・・いや、桃子の言う通りだ。」
俺の力を強大だ。今までの戦いで自信は付いている。
一回不意を突かれてしまったが、そんなことで自信を失えばみんなを失いかねない。
「頼らせてもらう。そんで・・・頼ってくれ。
桃子が苦しい時は俺が助けるし、俺が苦しい時は桃子が助けて欲しい。
だから・・・今回は俺が何とかする。傍にいて欲しい。」
皆がいて、俺がいる。だから俺には桃子が必要だ。素直に伝えると、
笑顔の桃子の頬に溜まった涙が伝う。
「本当は・・・もっと、早くに言って欲しかったんやで?でも・・・
私達が頼りなかったから・・・。」
・・情けない俺の姿を見て、桃子も思う所があったのだろう。
俺は首を横に振りながら、桃子を抱きしめる。
「ごめんな・・・。もう、しないよ。」
不安な気持ちを抱え続けた結果が、桃子をこんな姿にしてしまった。
謝罪、そして安堵。この二つを桃子に伝えるために、ゆっくりと桃子の頭を撫でる。
きっと・・・他のみんなも同じ気持ちを抱えているのだろう。
「・・・・・大丈夫か?」
感情があふれ出した桃子が落ち着いた所で声をかけると、胸の中で頷いて返事をくれる。
ゆっくりと離れ、桃子の顔を見るために優しく顎に手を添える。
そしてこちらを向かせると、見つめる桃子が目を瞑る。
僅かに残った桃子の不安を取り除くため、顔を近づけ唇を重ねた。
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「大丈夫なんやろうか・・・。」
苦しむ桃子に龍穂が口づけをした後、二人の意識が無くなった。
力は抜け、その体を楓が支えているが反応を見せない。
「安心しろ。龍穂ならやってくれる。」
「そうは言っても・・・。」
純恋と楓は意識を失う二人にどうしても不安を拭えない。あれだけ弱みを見せた龍穂と
我慢を続けてきた桃子。共に長く歩んできた二人だからこそ、不安定な二人への心配は尽きない。
「・・見つけたぞ。」
後少しで将門権限の条件が揃う。二人の帰りを待つのみ。
だが、その場にいる全員の耳に入ってきたのは歓迎されていない声。
「・・・・・戦闘準備だ。」
手練れが揃う境内の中。足音を立てずに入り込んだ強者。
だが・・・その姿は強者とは真反対の血まみれの姿。
「殺す・・・。」
長野を殺し、国學館の学生寮を襲った主犯。ボロボロの比留間刃の姿がそこにはあった。
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