196.虫の山
蝉擬きの声は頭の中で響き渡り、割れそうだった。徐々に吐き気や眩暈がしてくる。立っているだけでもやっとだ。音だけなのに、こんなにも苦しめられるなんて思わなかった。
「にゃあ!」
エリマキも怒って、抗議の声を上げるが、蝉擬きの声の方が大きくかき消されてしまう。
「にゃん、にゃん」
エリマキは手を招くような行動して、何かを伝えたいようだ。もしかしたら、うるさいから俺に耳を塞いで欲しいのかもしれないと思い、彼の耳を俺の手で覆うように塞いであげた。
「みゃ!」
「あれ?」
しかし、エリマキは身体を後ろに引いて、俺の手から逃れようとする。何か違ったらしい。
「みゃん」
「ぅわぉん」
またエリマキの声に、ワダカミが気怠そうに返事をした。
ワダカミは俺の肩に乗っていた前足を動かして、爪で俺の口元をちょいちょいと触る。
口?‥‥煙を吸えってことか?
俺は煙管を取り出して、煙を吸い込んでワダカミにかかるように吐き出した。
ワダカミは腹が膨らむほど息を煙ごと吸い込んだ。
「ワオオオオオオオオオ」
ワダカミは森中に響き渡るほどの遠吠えをする。耳元での遠吠えはうるさかったが、蝉擬きの声はワダカミの声にかき消されて、一気に静かになった。体調も一気に回復する。
パタパタ
草むらに何かが落ちる音が聞こえる。一つじゃない、もっと数が多い。
「みゃん!」
エリマキは目を輝かせて、草むらに潜ってどこかに消えてしまった。と思ったら、すぐに何かを咥えて戻って来た。
「げぇっ」
それを見て、俺は顔を顰めた。それは蝉擬きだった。ピクピクと足が動いているのを見るに、まだ生きているらしい。
エリマキはそれを置き、草むらの中に潜っていき、また虫を取って来た。さっき虫を置いた場所に置き、それを繰り返し、あっという間に蝉擬きの山を作る。
「エリマキ、それはもう良いから、こっちにおいで」
手招きして呼ぶ。しかし、エリマキは虫の山を何度も見て名残惜しそうにしている。
「エリマキ!」
ちょっと強い口調になってしまったが、俺は早くここから抜け出したい。生きているということは、また動き出して鳴き出してしまうかもしれないし。もう一度あのうるささは耐えたくない。
「にゃぁ‥‥」
エリマキはしょぼんとした声で返事をする。ゆっくりと俺のもとに向かって歩き、俺の腕を伝って渡り首に巻き付く。
「んみゃあ」
丸まりながらも、エリマキは首元で不満なのか、文句なのか分からないが、みゃあ、みゃあと鳴いている。
俺は慰めるようにヨシヨシと頭を撫でた。そして、俺は虫の山から遠ざかるように反対側に歩き始める。




