195.蝉擬き
ジッとは見られないから、瞬きしつつ、薄目にして、そうしてようやく観察出来た。巨大な虫を観察してみると、半透明の羽が擦り合わさって音が鳴っているらしい。蝉のようだが、胴体は細く長い。でも、トンボではない感じもする。蝉とトンボを合体させたような虫だ。
色は光沢のある緑。緑であるせいか、木にいるであろう虫たちは俺には見つけられない。
足が6本あって、デカイ。そして、
「うん、キモイな」
よく観察しなくても、それは変わらなかった。こうもデカイと忌避感も強くなるのは何故なんだろうな。それがこの音全部の正体だと思うと、今すぐにでもログアウトしたい気分だ。
「にゃ?」
エリマキは首を傾げた。自分が取って来た獲物をなんで受け取らないのかと、疑問に思ってるようだった。俺がどう対処したらいいかと思案していたら、エリマキが虫に顔を近づける。
「まっ!」
バリッバキッ
気づくのが遅くて、すぐに伝えられなかった。
後悔しても時遅く、蝉擬きの頭はエリマキに齧られた。つい先ほどまで動いていた羽や足はぴたりと止まり、鳴き止んだ。
しかもエリマキが口の中に入れた蝉擬きの噛み音がおかしい。硬いものようだった。例えるなら、せんべいや骨を噛み砕く音のようだ。
なんで虫からそんな音が、と疑問に思ったがそれよりが薄れるほどの異常が生まれ、恐怖感が襲う。
なんで、静かになったの?
さっきまでギシギシとうるさかった虫の声が、一斉に静まり返った。
息を吸う事さえも慎重になるほどの張り詰めた空気。周りにいる虫たちが俺達を観察しているような、さっきまでと立場が逆になったような感じだった。
バリバキ
「え、えりまきさん?」
漂う緊張感を無視して、エリマキはバリバリ、ムシャムシャと虫を食べている。
エリマキに引きつつも、エリマキが食べているっていうことは美味しいってことなのか?とちょっと興味がわいてきた。
そんな俺達に虫たちは気づいたのか、今度はつんざくような音で鳴き始めた。
その音はまるで、飛行機が離陸するときのようなあの高音で大きな音だった。その音で一斉に鳴き始めるから、うるさいを通り越して、耳が痛くなってきた。
「うぅ」
俺は耳を塞いで頭を下げて、身体を丸めて、耐え忍ぶ。いつ止むのかも分からないし、ログアウトをしようかと思ったが、どうなるのかも分からないのに、離れられるわけが無かった。
この音が攻撃ではないことは、体力の少ない俺が死んでないことから分かる。しかし、攻撃じゃないからと言って、敵意がないわけでない。




