187.煙を飲む
まずは近くで焚火を作る。それでも、まだ震えは止まらない。もっと近くにいけば暖められるだろう。
それに黒いもやも小さくなったから、大丈夫と思って湖から狼の身体を引き上げた。しかし、そのもやは少し湖から動かすだけで大きくなった。気づいてすぐにもやを手で追い払い、狼の身体を元の位置に戻す。
これ以上動かせない。俺はせめて、身体をさすりながら体温が上がることを祈った。
そんな俺を見かねた先生はある物を取ってきてくれた。
「これを食わせろ」
それはあの火柱を作り出した圧縮木炭だった。あの穴に残っていたアイテムなのか、先生が新たに作り出してくれたものか分からないが、俺は先生の言葉を信じて狼の口に入れた。
最初は口を閉じる力もないのか、外に転げてしまう。砕いてみようかと思ったが、先生はそのままで食べさせろと言う。仕方なく、口に入れることを繰り返しているうちに、狼は飴玉のように口の中で転がし始めた。しかし、未だに噛む力が無いようだった。
「どうしよう」
俺の言葉に先生は呆れてフンッと鼻を鳴らした。
「お前のスキルを忘れたのか」
スキル?何かあったかな?俺はステータス画面を開いて、スキルを確認する。
もしかして、これか?
愛煙家
煙を吸いながら行動出来る
煙を掛けた相手に煙の効果が付与される
俺のいつも吸っているものは魔素を含んでいて、それを身体中に張り巡らすもの。もし、この狼も俺と似たような症状が出ているなら、俺の煙も有効ってこと?
当たり前に吸っていたが、その効果を試したことも無い俺は一か八かで狼に吹きかけた。
白い煙は狼の顔を覆う。狼は鼻をピクリと動かし、次の瞬間、煙を一息で吸ってしまう。あっという間に煙は無くなり、それからゆっくりと口元を動かした。ガリガリと音と共に圧縮木炭は削られ、飲み込まれている。ほんの少しずつだけども、大きな一歩だ。
良かった!俺は嬉しくなって、また煙を吹きかける。それを何度も繰り返す。煙は狼に吸われ無くなり、そのたびに狼の噛む力は強くなっていく。
圧縮木炭を食べ終わり、これでもう身体も寒くなくなるだろうと思っていたが、そうはならず。依然として、狼の身体は冷えたままで震えている。
俺は少しでも温かくなるように身体を摩った。結局、最後はこういう事しか出来ないのか。俺は自分に落胆する。
「‥‥?あれ?」
摩っている場所がじんわりと温かいような気がした。それは氷から冷たい水くらいのささやかな変化だが、確かに変わっていた。
それに狼も気づいたのか、すりすりと俺の手にすり寄り、しまいには這いながら俺の身体を押し倒し覆いかぶさった。
「ぐえっ」
押しつぶされた俺の悲鳴にエリマキは「にゃー!!!」っと抗議の声を上げた。




