186.鈍色の狼
休憩を挟んでログインする。休憩中は弱った狼が死んでしまうんじゃないかと気が気でなかった。
狼の呼吸は浅く、寒そうに震えている。黒いもやは未だに漂っていて、まるで命を蝕んでいるかのようだった。
口を閉じる気力さえないのか、舌が垂れて地面につき、よだれが流れる。俺は草を取り出して、狼の口に放り込んだ。これで回復してくれるだろうと。しかし、狼は食べることなく、草は口から落ちてしまう。
「なんで」
その様子にショックを受けたが、そうかと思い直す。もしかしたら順番が違うのかもと、狼をあの湖に連れていくことにした。
狼は、俺が持てるくらいには軽くなっていた。勿論、煙を吸っているから持ち上がるのだが。
狼をフレッドの背中に乗せて、一緒に連れて行ってもらった。エリマキは俺の首に巻き付き、スネアテは足のふくらはぎ辺りに巻き付いている。多分、俺を心配しての事だろう。しかし、この狼に俺を襲うような体力は無いだろう。
徐々に弱っていく呼吸に俺は狼の背中を優しく摩る。
「大丈夫、大丈夫、きっと何とかなる」
魔法の呪文のように言葉をつぶやいた。それは狼に聞かせているようだったが、その実、自分への暗示だった。
フレッドに乗っているのが長い時間のように思え、ようやく到着し、狼をその背中から降ろした。ズルズルと引っ張りながら、湖に狼の体を浸す。
俺も湖に入り、優しく丁寧に黒いもやを追い払っていく。早く綺麗になれ、早く綺麗になれ。そう念じながら、狼の体を撫でる。
黒いもやは想定よりも早く消えて、徐々に狼自身の色を取り戻していった。狼の毛色はまるで、鈍く光る刃物ような色をしていた。つまりは灰色。エリマキが猫の時の色より、濃い灰色だった。
これで大丈夫だろうと、もう一度、狼の口の中に草を入れた。しかし、狼は食べることは無かった。それどころか、震えがひどくなり、体温も下がっている。
「ど、どうしたら」
黒いもやも払ったのに、食べる元気もないなら、もう俺には手段は無い。俺はただただ狼に謝ることしか出来なかった。
「ごめん」
エリマキが心配そうに「にゃあ」と鳴いて、俺の頬にすり寄る。俺はエリマキを撫でて、今度は狼を撫でる。
エリマキの命ある温かさと狼の失われていく命の冷たさの温度の差で、ひどく心が痛む。本当に手段がないのか?俺は自分自身に問いかけた。ギリっと歯ぎしりがなった。
「いや、まだだ」
そうだ、寒いのならば暖めてあげれば良いんだ!なんでこんなことに気づかなったのだろうか。俺は本当にポンコツだ。




