185.鎮火
スネアテが切った傷口から血が流れて、血だまりを作った。そこからさらに、炎の柱を作っていた穴に流れ込む。元々、獣が食べていたおかげで小さくなっていた炎はその血で鎮火した。
もぞもぞと逃げようとするたびにスネアテがさらに切り傷を作り、エリマキはきつく締めあげる。
まるで空気が抜けていく風船のようにその巨体は、徐々に小さくなっていった。丸太のように太かった足は木の枝のように細くガリガリになり、筋肉が乗っていた胴は、骨が浮き上がり皮だけを纏っているだけのようになる。吊り上がりキリッとした目や耳は垂れ、息が荒くなる。その息は興奮からではなく、生きるための呼吸のような気がした。獣の殺気も消えていた。
「エリマキもスネアテも、離れてあげて」
俺の言葉通りに二人は獣から距離を取る。獣は二人が離れても、起き上がる気力もないようだ。
直せない傷口が未だ鮮血が流れる。体長は俺の身長くらいになってしまった。
「どうする?」
先生に問われた。俺は一瞬何のことかと疑問に思ったが、すぐにこの獣の処遇を聞かれたのだと分かった。
俺はどうすればいいのか、獣を見た。ガリガリの身体は必死に生きるために、呼吸していた。息を吸うたびに体が膨れ、吐くたびに体は細くなる。そして、ガタガタと寒そうに震える身体。その姿に闘病生活を続けていた父の姿がかぶってしまった。
俺は、助けたいと思ってしまった。必死に生きてるこの獣を。エリマキを傷つけてしまったこの狼を。
「エリマキ、この子を助けてもいい?」
「んにゃー」
エリマキは猫の姿に戻り、返事をしてくれた。血は流れていなかったが、背中に歯形が残っていて痛々しかった。俺はすぐに草を取り出して、エリマキに与えた。
「ありがとう」
草を食べると、エリマキの傷口は徐々に塞がっていく。完治とまではいかず、あとは残ってしまった。その場所をヨシヨシと撫でる。気持ちが良かったのか、撫でた手にエリマキはすり寄ってきてくれた。




