第七六話 意外な場所での再会
愛用の長杖を振り、掃くようにマッドマンを薙ぎ倒していく。大雑把な攻撃だがこの際仕方がない。出来れば魔石を狙い打ちたい所だが、今は要救助者の元へいち早く向かうべきだ。
「全部倒す必要はないッ! 生存者を助ける事だけ考えるぞ!」
「「「はいっ!」」」
三人の声音が重なった。
ソフィは一体一体確実に仕留めていたが、俺の指示に従い、先に生存者の元に向かうようだ。マッドマンを踏み台にして、軽業師の如く飛び越えていく。
流石にソフィのような動きは出来ない陽は、大剣を大きく振り回してマッドマンを吹き飛ばし道を切り開くことにしたようだ。
陽の横に陣取り、俺も共に道を確保するようにマッドマンを薙ぎ払っていく。
「せつなはマッドマンを攻撃しなくていい! 直ぐに〈ライトヒール〉を使える様にしておいてくれッ!」
「判りましたっ!」
せつなの声は直ぐ後ろから聞こえた。よし。せつなも自分の役割をちゃんと理解しているな。
陽と共にマッドマンの群れを蹴散らしていく。すると、奥からソフィの姿がチラリと見えた。
「ソフィッ!」
俺が叫ぶと、ソフィもこちらに気付いた。間にいたマッドマンを吹き飛ばし、俺たちの元へ。
ソフィの背後には二人の生存者が。それを視認した瞬間、俺は驚愕に目を見開いた。
乱れに乱れながらも目を引く艶やかな橙髪。泥に汚れても失われない気品漂う美しい風貌。
「セレン!?」
「リュウヤ様!?」
どうやら驚いたのは、俺だけじゃなかったらしい。セレンも俺と同じくその瞳を大きく見開いていた。
「リュウヤ様、何故ここに!?」
「いや、それは俺のセリフだよッ! セレンこそなんで迷宮に」
セレンスティア王女。かつて王城にて俺が迷ってしまった時に、偶然出会ったアトリニアの王女様が、何故迷宮なんかに……。
「リュウヤさんっ! 今はそんなこと話している場合じゃないですっ!」
「そうだよっ、りゅうちゃんっ! とにかく、安全な場所に逃げないとっ!」
群がるマッドマンを退けながら、ソフィと陽が俺に慌ただしく言った。
そうだ。今はそんな事を悠長に話し合っている場合じゃない。とにかく、マッドマンの群れから脱出しなければ。
「ゴメンッ! 二人を中心にして、守りながら脱出するぞ! 陽が先頭、ソフィが左右から迫る奴らを頼む! 殿は俺だ!」
「判りましたっ!」
「おっけ~! あたしに任せてっ!」
即座に行動を開始する。先頭の陽が道を切り開き、その後にセレンともう一人の生存者、せつなが続く。ソフィが左右から近付くマッドマンをけん制し、俺が殿を務める。
「しっかりして下さいっ! 〈ライトヒール〉っ!」
移動しながらも、せつながもう一人の生存者――血だらけの老兵士に〈ライトヒール〉を施す。
「爺や、お気を確かにっ!」
セレンが老兵士に肩を貸し、せつなが治療を施す。だが、当の老兵士の顔色は芳しくない。
「ひ、姫様……儂はもう助かりませぬ。捨て置いて下され……」
「何を言っているのです!? 爺やを見捨てるなど、私には出来ませんっ!」
セレンが声を震わせながらも、老兵士を懸命に励ましていた。だが、せつなが懸命に治療を続けても、一向に老兵士の顔色は良くならなかった。
群がるマッドマンを蹴散らしながら俺たちは急ぐ。
「抜けたっ!」
喜色に富んだ陽の声が耳朶を打つ。
「おし! 陽は爺さんを担いで走れッ! ソフィ、先導を頼むッ!」
陽が即座に満身創痍の老兵士を背負い、ソフィが先導を開始。急いでマッドマンの群れから離脱していく。
殿の俺は、皆が離れたのを確認した後、急反転。火魔法をぶっ放す。
「〈火焔〉ッ!」
――ゴウッ! 燃え盛る炎が迫るマッドマンの行く手を阻む。
結果を確認することなく、俺は急いで皆の後を追った。
◇
「はぁはぁはぁ……んくっ、はぁ……ここまで……来れば……一安心……だね……」
陽が荒く息を弾ませながらも辺りを見渡し、敵影が無い事にホッと胸を撫で下ろす。
どうやら最後に放った〈火焔〉が上手い具合にマッドマンの足を止めさせたみたいだ。背後を振り返って確認しても、追い縋る影は見えなかった。
ふぅ~……なんとかなったな。正直、ちょっとキツかった……。
「爺や! 爺や! しっかりして下さいっ!」
一安心していると、悲鳴じみた声音が耳朶を打つ。
横たわる血塗れの老兵士。セレンが縋り付き、必死に声を掛け続けていた。
「〈ライトヒール〉」
セレンとは反対側に膝を付いたせつなが深刻な表情で賢明な治療を施している。老兵士の胸元に当てた血塗れの手が淡い光を放っていた。
だが、横たわる老兵士の顔色は蒼褪め、目も虚ろ。もはや誰の目から見ても、助からないのは明確だった。
「もう……止し……て……下され……」
掠れた声で老兵士がせつなを留める。己の死期が近いと誰よりも悟っているのは、この老兵士自身であった。
それでもせつなは暫く治療の手を止めなかったが、一瞬悔しそうに顔を歪め、そして震えながらもゆっくりと手を引いていく。
「そんな!? お願いします! どうか、どうか爺やを助けて下さいっ! お願いします!」
セレンが涙を湛えながらせつなに懇願するが……せつなは俯きながら首を横に振るだけ。
「あぁ……」
セレンが悲嘆に暮れる。倒れてしまいそうになったセレンを咄嗟に俺は受け止めた。
「リュウヤ様……爺やが……爺やが……」
受け止めた手からセレンの震えが伝わって来るが……俺は何も言えず……どんな言葉を掛ければいいのか判らなかった。
それは俺だけではなく、陽もソフィもせつなも同じで、誰もが沈痛した面持ちで口を閉ざしている。
セレンの震えた声だけが響く中、ふと掠れた小さな声が。
「姫様……」
虚ろな目にはもはや何も映していないだろうに、しっかりとセレンに顔を向けた老兵士。これが最期の言葉になるだろうと悟ったのは俺だけではないだろう。
「姫様……申し訳御座いません……最期までお守りすることが出来ず……」
「爺や、謝らないで……爺やが居なければ、私はもう……」
あの絶望の中、最後までセレンを守り抜いた老兵士。彼が身を犠牲にして、セレンを守り抜かなければ、セレンは死んでしまっていたのだろう。あの惨状を見る限り、俺たちが駆けつけるのが少しでも遅れていたら。老兵士が身命を賭さなければ、セレンは助かっていなかっただろう。
「どなたか存じませんが……冒険者殿……姫様を……よろしく……お願い……しま……す……」
「あぁ、約束する。絶対に守ってやるから」
俺は力強く老兵士に頷く。すると、微かに老兵士の頬が安堵したかのように緩んだ。
「姫様……いつまでも……見守って……おり……ま……」
いつまでも見守る。そう残して、老兵士は息を引き取った。その死に顔は、セレンを慈しむ穏やかな死に顔であった。
「じい、や……爺や……爺やぁぁぁぁぁぁああああ!」
セレンの慟哭が響く。セレンは血に汚れるのも厭わず、老兵士に縋り付き、嗚咽を漏らし続けた。
セレンが落ち着くまで、俺は暫く彼女の背を撫で続ける。声を掛けるなんて野暮なことは出来なかった。俺たちに出来るのは、ただただセレンを見守ることだけだった。
暫く泣き続けていたセレンだったが、少しばかり気持ちの整理がついたのか、ゆっくりと顔を上げる。
「皆様……お見苦しいところお見せしてしまって、申し訳御座いませんでした」
気丈に振舞おうとするセレンだが、泣き腫らし赤くなった目許が痛々しい……。
「見苦しいだなんて……大切な人だったんでしょ? 悲しむのは普通だよ」
「そうですよ。わたしも貴方のお気持ちは充分に判りますから」
「有難う御座います……皆様方」
陽もソフィも少し目を潤ませながらも、暖かな笑みを浮かべてセレンを励ます。せつなもそっとセレンに寄り添い、彼女の背を優しく撫でていた。
「辛いところ申し訳ないんだけど……『姫様』って、あたし聞えちゃったんだけど……。それにりゅうちゃんと知り合いみたいだったし」
陽が本当に申し訳なさそうにセレンに訊ねた。
「あぁ、度々申し訳御座いません。名を申し上げるのが遅くなりました。私はアトリニア王国が王女、セレンスティアと申します」
セレンが居住まいを正しながら、気品溢れる所作で名乗った。それに驚いたのは、俺以外の三人である。
「えぇ!? ホントに王女様なのっ!?」
眼を見開く陽とソフィ。そして、せつなはサッと撫でていた手を引き、固まってしまった。
「ご、ごめんなさい……王女様だと知らなくて……馴れ馴れしくて……」
「いえ、お気になさらないで。とても暖かな手で、心が癒されましたわ。それに、爺やの為に懸命な治療して下さいました御恩が御座いますわ。手厚く治療を施して下さいまして、感謝の念に堪えません。有難う御座いました」
まだ辛いだろうに、セレナは精一杯の微笑みをせつなに向けている。
「えっと……気になったんだけど、ちょっといいかなっ? あ、いや、いいですか? なんで――何故、王女様が迷宮なんかにいる――いますのですか?」
セレンが王女だと判り、陽が必死に敬語を使おうとして、しどろもどろになっているわ……。
「ふふ。ヒナタ様、私は王女の地位を頂いておりますが、庶子で御座いますし、王位継承権は御座いません。出来ましたら、友人の様に接して下さると嬉しいですわ」
結果的に陽の変な口調が、セレンの笑顔を引き出した。やっぱり美少女には笑顔が一番だと思う。
「あ~と……王女様がそう言うなら、あたしとしても楽でいいんだけど。うんっ。なら普通に喋るねっ」
「ヒ、ヒナタさん!?」
あっさりと了承した陽にソフィが驚く。ソフィとしては王女に砕けた言葉遣いをするなんて、理解出来ないことなんだろうな。下手すれば、不敬罪で打ち首だろうし。
「ふふふ。有難う御座います、ヒナタ様。ソフィ様も出来ましたらセレンとお呼び下さいね」
「あっと……えっと……善処します……」
穏やかな微笑を向けられ、ソフィは困惑気に頷くことしか出来なかった。逆に陽はすっかり順応している。
「じゃあ、あたしもセレンって呼ぶね。というか、あたしたちの事知っているんだぁ」
「えぇ、勿論存じておりますわ。ヒナタ様、セツナ様、ソフィ様、それに……リュウヤ様。皆さまは先日、王家主催の祝賀会にいらした方々で御座いますし、王家に連なる者として、皆様のお名前はしっかりと記憶しておりますわ」
はぁ~……流石、王女様だな。そう言えば、俺が王城で迷った時も、直ぐに俺の事に気付けていたよな。事前に確認していたってことか。
「それと、ヒナタ様の先のご質問にお答えします。何故、私が迷宮に赴いたかということを」
それはずっと疑問に思っていた。セレンはどう見ても、可憐な王女だし、戦闘なんて出来なさそうなくらい細身だ。危険極まる迷宮に入る理由が全く思い浮かばなかった。
「結論から申しますと、私が迷宮に赴いたのは、古くからある王家の風習で御座います。アトリニア先代国王様が冒険者だったのは皆様ご存知でしょうか」
「あぁ、そういえば、そんな話も聞いたことがあるな」
確か、その話を聞いたのはスフェーンだっただろうか。
「初代様は大層ご立派な冒険者であり、魔物にも決して屈しない勇敢さを持ち合わせていたと、王家では伝えられております。アトリニア王国は迷宮を中心として発展した王国であり、いつ何時、魔物による反撃があるか判りません。そのような事態に陥った時、国民を守るのは王家の務め。先陣に立ち、立派に戦って民を守ることこそが王族の義務で御座います。その為、王家に連なる者は、初代様の勇敢さを見習うべく、成人になる年に迷宮へと赴き、勇敢さを身に付けるという風習が御座います。私が迷宮へ赴いたのはこの風習によるものですわ」
古くから続く王家の伝統。それが成人になる年に迷宮に赴くというものらしい。王女であっても、この風習は必ず受けないといけないとセレンは続けた。
「でも、王家に生まれた王族であっても、全員が全員、戦えるような戦闘能力を持っているわけじゃないだろ?」
「えぇ、そうですね。事実、私は、戦いは不得手で御座います。幼き頃より訓練は続けておりますが……全くからっきしですわ。ですが、王家に連なる者としてこの伝統を避けるなど決して出来ません。ただ、お父様は私の身を案じて、多くの護衛を付けて下さいました。ですが……」
セレンは沈痛な面持ちで少し俯く。その表情から、多くの命が失われた深い悲しみが見て取れた。
「まさかこのような結果になるとは思っても見ませんでした……。皆、私の様な者の為に尊い命を散らし……勇者様も多くの敵を引き連れて……」
うっと、セレンは耐え切れず、両手で顔を覆った。だが、俺たちの意識は聞き逃してはならない言葉に集中する。
「ちょっと、待ってっ! 今、勇者って言った?」
陽が驚いてセレンの肩を掴む。その表情は普段の陽からは想像できない程、真剣なものだった。
「……は、はい。私が迷宮に赴く際、ちょうど勇者様がアトリニアにお越しになられて」
「その勇者って……聖国からの?」
「え、えぇ。そうで御座いますわ。ですが、勇者様がお越しになられたのはつい先日。どうしてヒナタ様がご存じですの?」
セレンが眉を顰めながら困惑気に頷いた。俺は思わず天を仰いでしまう。
聖国の勇者。それは俺たちの学友の事に違いない。まさか、このアトリニアに派遣されているとは……。いや、想像していなかったわけではない。出来ればそうであって欲しくなかった。新たな悩みの種の出現に頭が痛くなる……。
陽はがっくりと項垂れ、せつなは震えソフィに抱き着いていた。俺たちの急変に、セレンは不安げに呟く。
「……どうか致しましたか? 私、何か粗相を……」
「いや、セレンは何もしてないよ。ただ、勇者の事がな……。セレン、その勇者の名前は?」
「勇者様のお名前ですか? 『ノリアキ』と名乗られておりましたが」
その名を聞いた時、俺と陽はとても深いため息を吐き出してしまった。
よりにもよってアイツかよ……。
今宮憲明。俺と陽の同級であり、性格最悪な調子乗り。いつも調子のいい事ばかり言って、肝心な時には全く頼りにならない腐れ野郎だ。上に見た人にはとことん謙り、逆に下に見たものは、まるで人間扱いしないクソ野郎。
「もしかして、リュウヤ様とヒナタ様は、ノリアキ様とお知り合いなのでしょうか」
まぁ俺たちの反応を見れば、そう思うのは不自然ではないけど……。
「一応、知っているよ。ただ、友人ではないけどな」
「うん。りゅうちゃんの言う通り。あんな奴の友人なんて、ホントに嫌」
口許を歪めてげんなりする陽。多分俺も相当嫌悪感丸出しの顔をしているだろうな。
そんな俺たちの様子に気付かず、両手を合わせてまぁと声を上げるセレン。
「お二方は、勇者様のお知り合いだったのですね。素晴らしいことで御座いますわ」
キラキラとした眼で見詰めて来るセレン。そんな彼女の純真さに、俺と陽は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
「出来れば、勇者様を私と共に探して頂けませんか? 勇者様は私たちの為に、多くの魔物を引き連れて下さいましたし、出来るのならばお助けしたく思います」
俺と陽が勇者と知り合いだと判り、セレンはそんな要請をしてきた。だが、俺と陽は、あんな奴を探す気は全くなかった。セレンには申し訳ないけどな。
「いや、セレン。今宮――その勇者を探す必要は無いよ」
「うん、あたしもりゅうちゃんと同意見」
「な、何故です? お二方は勇者様とお知り合いなのでしょう?」
「うん、知り合いだからこそだよ」
知り合いだからこそ、探す必要は無いんだ。セレンは勇者だからと聖人君子として色眼鏡で見ている感じがする。
勇者は素晴らしい人だ。勇者が私たちの為に多くの敵を引き連れ、犠牲になってくれた。
そんな風に良いように解釈してしまっている。だが、今宮憲明の事を知っている身としては、そんな事は絶対にあり得ないんだ。アイツが自分を犠牲にして誰かを助けるなんて想像できないしな。
「セレンは勇者の事を心配しているんだろうけど、俺としてはその危惧は忘れてしまっていいよ。アイツがむざむざ死ぬなんて考えられないからね」
「あぁそうで御座いますわね。リュウヤ様の仰る通りだと思います。勇者様ならば、このような窮地、必ず乗り越えてしまわれますわね」
いやぁ~……そういう意味で言ったんじゃないんだけどな……。アイツのことだから、自分が生き残るために、少数の敵を引き連れて、ただ逃げただけだと思う。セレンの眼からは、それが自分の身を犠牲にしたように見えたんだろうけど。十中八九、俺の想像通りだと思う。
まぁ正直、アイツの事など、どうでもいい。今、セレンを無事に地上へと帰還させることが大切だ。老兵士にも約束したしな。
「とにかく、今はセレンを無事に帰還させることが大事だ。リビアに戻ってワープゲートを目指そう」
「うんっ、異議なしっ!」
陽が明るく肯定して、ソフィとせつなはコクリと首肯した。
「皆様……ご迷惑をお掛けして申し訳御座いません……」
「誰も迷惑だなんて思ってないよ。だから、セレンは気にしなくていいんだ」
「うん……迷惑なんかじゃないですから……」
「うん、うんっ。気にしない、気にしないっ。でも、そろそろ移動した方がいいと思うからさっ。セレちーは立てるぅ?」
重くなりがちは雰囲気を明るく吹き飛ばすのはいつだって陽だ。だけど、陽? セレちーはないんじゃないかな? ソフィを見てみろよ。ビクッとして、目が真ん丸になっているぞ? いや、当のセレナも目をパチクリしているな。
「セ、セレちーですか? その様な名で呼ばれたのは、は、初めてですわ」
「ニシシっ、セレちーの初めてをゲットだぜぇ~!」
陽は拳を突き出して歓喜しているけど……これ、止めた方がいいのか? まぁいつものことだし、セレンも微笑んでいるし、いっか別に。
「ふふ、ヒナタ様は明るいお方な――あ」
ゆっくりと立ち上がったセレン。だが、身体に力が入らなかったのか、フラついてしまった。
咄嗟にセレンを受け止めようと俺は一歩踏み出す。
――カチッ。
「え?」
「へ?」
何かを踏み抜いた感触。そして、続く浮遊感。
「りゅうちゃんっ!?」
「リュウヤさんっ!?」
「――っ!?」
驚く三人の顔が視界から流れていく。
一瞬、ソフィが手を差し伸ばしたのが視界の端を掠めたが、俺はセレンの身体を支えようとしていた為、その手を取ることが出来なかった。
落とし穴トラップ。まさかこんな場面で踏み抜いてしまうとはつくづく運がない。
落下していく中、俺は自分の悪運を呪うのであった。




