↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/82

第七四話 貴重な情報

更新が遅れてしまってごめんなさい!

体調不良でしばらく更新できませんでした……。


 ――翌日。俺は西街にある場末の酒場へとやって来ていた。

 奥まった席に俺とロノアが並んで座る。俺は蜂蜜酒(ミード)を、ロノアは蒸留酒を呑みながら、ある人を待っていた。

 ある人というのは、サリアの協力者だそうだ。『早めに顔合わせだけでもしてほしい』とロノアを通じて聞かされた。


 ただ、待ち合わせの場所がこの西街にある酒場というのが、少々不安である。店内を見渡してみれば、野卑た笑みを浮かべ、粗悪な態度で酒を煽る男性客ばかり。冒険者、というよりは荒くれ者といった印象が強い。


 見た目はちんちくりんのロノアだけれど、可愛らしい女性だし、こんな場所に居ていいものではないと思う。出来るだけ、ロノアを壁側に寄せ、俺がその横に座り、不測の事態に備えることにする。


「リュウヤ様、その、近くはありませんか?」


 ロノアがキュッと身を縮めながら、チラチラと恥ずかしそうに俺を見ていた。

 確かに俺はロノアにピッタリとくっついて座っているが……こんな場所だから仕方がないんだよな。


「ちょっとだけ我慢してくれよ。ほら、見てみて。あいつらチラチラとロノアの事見ているでしょ?」


 俺が顎でクイッと示すと、ロノアは顔を上げ、うへぇと嫌そうな表情を浮かべた。そして、ロノア自身から俺にすり寄り、ギュッと俺の腕を掴む。

 複数の下卑た視線を受ければ、そうなってしまうのも仕方がない。俺はロノアを安心させるように、手をギュッと握ってやる。


 暫くすると、カランカランと入店を告げる鐘の音が。両開きの扉をバンッと勢いよく開けて、一人の女性が入店して来ていた。

 腰まで伸びたストレートの髪。スッと通った鼻梁に、少し吊り上がった大きな瞳。こんな場末の酒場には似つかわしくない華やかな印象の女性だ。

 前開きの外套から覗く、大きな胸元に引き締まった腰。店内の全ての視線がその艶やかな身体に注がれている。


 ヒューと下手くそな口笛は、客の誰かだろう。見れば、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべ、その女性を舐るように見ている。


 ふと、ギュッと手の甲が抓られる。振り向けばロノアがぷぅ~っと頬を膨らませていた。


「やっぱりリュウヤ様は、大きい方が好きなんですね。それと見過ぎです」


 どうやら俺は凝視していたらしい。ロノアに咎められ、あははと作り笑いで誤魔化しておく。


「ここ、いいかな?」


 声を掛けられ、視線を向けると、そこにはニッコリと明るい笑みを浮かべる先程の女性。親しげな様子から、多分この女性がサリアの協力者なのだろうと、俺は小さく首肯する。


「ありがと。おばぁちゃぁ~ん、大麦酒(ペールエール)一つ!」


 俺にニコッと微笑み掛けた後、その女性が、店主に注文する。


 届けられた大麦酒(ペールエール)をグイッと一口。ぷはぁ~と、親父臭い仕草で息を吐いた。綺麗な人なのに少し残念だなと思ったのは秘密にしておく。

 ドンッとジョッキをテーブルに置くと、俺の方を向く。


「で、キミがサリアの言っていたリュウヤって人だよね? ロノアが一緒にいるって事は」


 どうやら、この女性で間違いないらしい。それにロノアとも面識があるそうだ。ロノアは小さく頭を下げて挨拶をしている。


「ええ、俺がリュウヤで間違いありませんよ。それであなたは?」

「ありゃ、これは失礼。私はサティ。よろしくね、リュウヤ」


 ニヒッと人の良さそうな笑顔を俺に向けながら手を差し出すサティ。艶やかな見た目とは違って、人懐っこい性格のようだ。

 差し出された手を取り、握手を交わす。早速本題へ移ろうとサティが口を開いた時……。


「よぉ、そこのエロいねぇちゃん。ちょっくら俺たちに付き合ってくれねぇか?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、俺たちのテーブルへと無遠慮に近付いて来たのは、先ほど下手くそな口笛を吹いていた男だ。見れば、他の客もニヤニヤとこちらを見ている。


 サティがサッと店内を見渡す。そして、ナンパ野郎に振り向くと、ニコッと微笑を向けた。


「ごめんね。あたし、安い女じゃないの。あんたみたいなクソ野郎に付き合ってあげる暇はないんだ」


 にこにことした表情から飛び出す辛辣な言葉。ナンパ野郎の額にピキッと青筋が浮かぶ。


「あぁん? ねぇちゃん、今何て言ったぁ?」

「聞こえてなかったの? 顔も悪けりゃ、耳まで悪いのね」


 サティさん? なんで、そう煽る様な事を言うの?


 ナンパ野郎は更に青筋を追加して、「おいッ!」と声を荒げた。すると、ニヤニヤとこちらを見ていた男性客が立ち上がる。どうやら、ナンパ野郎の取り巻きらしい。


 複数の男の視線に晒されて、ロノアが小さく震えるのが伝わって来た。はぁ~……こうなっちゃあ仕方がない。こいつらにはご退場頂くか。

 そう思って立ち上がろうとした俺を、サティが押し留める。


「リュウヤ、あたしに任せて」


 俺にウィンクを送るサティ。彼女は立ち上がると、状況を確認する様に、首を回した。


「ん~、ぶっ飛ばして痛い目に遭わせたいところだけれど……流石にお店に迷惑掛けちゃダメだよね。うん、仕方がない」

「あぁん? ねぇちゃん、何言ってやがんだ? この数を相手に――」


 馬鹿にされた男は苛立ちげに、サティへと手を伸ばし――。


「〈魅惑(チャーム)〉」


 サティの瞳が一瞬、キランと光った。その瞬間、怒り心頭だったナンパ野郎の表情が抜け落ち、眼から光が消える。伸ばされた手もだらんと力なく落ちていった。いや、このナンパ野郎だけじゃない。取り巻きたちも同じく、瞳が虚ろとなり、表情が抜け落ちている。


「あんたたちクソ野郎は、そのままお会計を済まして、回れ右。寄り道せずに帰宅して」


 パンパンと急かすようにサティが手を打つと、ナンパ野郎たちは言われた通りに酒代をテーブルに置くと、ぞろぞろと出て行く。


 最後の一人を見送ったサティは、店主のおばちゃんに両手を合わせて謝る。


「おばちゃん、ごめんね。売上減っちゃって」

「まぁいいさ。代わりにサティちゃんが売上に貢献してくれるんだろ?」

「あははは。あたし、そんなにお酒強くないんだけど……仕方がないかッ! おばちゃん、おかわり!」

「はいよ」


 何でこんな場末の酒場が待ち合わせ場所なのかと思っていたけど……サティの行きつけの店だったのね。それにしてもさっきのは一体……?


「リュウヤ、ごめんね。ロノアも怖かったでしょ?」

「あ、いえ、大丈夫です。サティ様が居て下さいましたし、リュウヤ様も居ましたから……」


 ロノアが俺の腕をギュッと両手で抱き締める。その様子を興味深そうにサティは見ていた。


「ふ~ん。リュウヤって信頼されているんだね。まぁ当たり前か。じゃないとあのサリアが頼るわけないもんね」


 興味深そうに俺を眺めるサティ。妙に居心地が悪い……。


「えっと……サティさんも『月影』のメンバーなんですよね?」

「ん? そうだよ。あ~でも、あたしはちょっと特殊っていうか……」

「サティ様は、サリア様が屋敷の女たちを守る為に雇われた『月影』の用心棒なんです」


 サティの言葉を引き継いで、ロノアが俺に説明してくれた。


「うん、そういうこと。まぁ、今は用心棒っていうより、実行部隊って感じかな。『アゲハ』の内情を探ったり、協力者を探したり。あたしの役目はそんな感じだよ。ごめんね、あたし娼婦じゃないから、抱かしてあげられなくて」

「サティ様! そのような言い方はあんまりではありませんか?」

「あぁ、ごめんごめん。別に娼婦っていう仕事を貶しているつもりはないんだ。ちょっとした冗談のつもりだったんだけど、あんまり気分のいい冗談じゃなかったね。ごめん、ロノア」


 素直に自分の非を認め、頭を下げるサティ。サリアやミラの辛い境遇を知っているからこそ、ロノアは怒り、素直にサティは謝ったのだと思う。


 ちょっと空気が重くなってしまったが……話を進める事にしよう。それに訊きたいこともあるしな。


「サティさん、今のは何だったんです? あいつら急に大人しくなったし……見たことが無い魔法だったんですけど」


 先程の一幕。ナンパ野郎たちがサティの言葉に素直に従って帰っていった。その事について俺はサティに尋ねる。まぁラファによる「解析」で答えは出ているのだけれど。


「あぁ、さっきのは「魅惑(チャーム)」っていう、あたしたち夢魔族(サキュバス)種族能力(スピーシーズスキル)だよ。異性を魅惑して、暗示を掛けるスキルって感じだね。魔法っていうより、瞳術って感じかな」


 どうやらサティも夢魔族(サキュバス)らしい。先の一幕は夢魔族(サキュバス)種族能力(スピーシーズスキル)魅惑(チャーム)」によって暗示を掛けたそうだ。魔法ではなく瞳術……一瞬目が光ったのはそれが原因なのか。


「ということは、バッカード伯爵の吸魔の手鏡には……」

「いや、ちょっとだけ違うんだ。あの男の吸魔の手鏡にはサリアの能力が封じられているでしょ? サリアは夢魔族(サキュバス)の中でも能力がずば抜けて強くてね。彼女の種族能力(スピーシーズスキル)は「魅了(ファシネーション)」。あたしたちの「魅惑(チャーム)」は異性――まぁ夢魔族(サキュバス)は雌しかいないから、雄にしか効果が無いんだけど、サリアの「魅了(ファシネーション)」は性別関係なく魅了してしまうんだ」


 ということは……バッカードはその気になれば、全ての者を支配することが出来るということだ。この国の支配階級を支配することも……。


「リュウヤの危惧は当たっているよ。だけど、その辺は大丈夫。「魅了(ファシネーション)」を行使する為には大量の魔力が必要だし、この国全てを支配することは限りなく不可能に近い。まぁ国王様一人だけを魅了して手に入れれば、その他の貴族に言う事を聞かせられるんだけれどね。王命としてね。だけれど、今の所は国王様が魅了されている兆候はないから安心して」


 軽くサティは言っているけど、そう簡単に安心なんて出来ないぞ……。


「リュウヤ様、大丈夫ですよ。伯爵様が狡猾で頭が良ければ大問題ですが、あの方は下半身でしかものを考えられませんので」

「うん、ロノアの言う通りだよ。あの男は性欲しか頭にないから。それに「魅了(ファシネーション)」を行使する為には大量の魔力が必要だって言ったでしょ? 吸魔の手鏡には、魔力を自然回復させる機能はないからね。「魅了(ファシネーション)」を使うには、その都度、吸魔の手鏡に魔力を補給しないといけない。あの男自身の魔力だけでは、「魅了(ファシネーション)」を行使できるだけの魔力を貯めるには、相当時間が掛かるし」

「たしか……吸魔の手鏡って能力・魔力を奪う事が出来るんですよね? なら、他人から魔力補給されるんじゃ……」

「そう考えるのが普通だよね。でも、ちょっと考えてみて? 吸魔の手鏡は魔宝具(アーティファクト)だよ。そんな貴重な物をおいそれと見せる訳にはいかないでしょ? あの男にとって吸魔の手鏡は秘密兵器だ。易々と奪われてしまう訳には行かない。あの男は下半身と一緒で、肝が小さいからね」


 いや、サティ……何ちょっとうまい事言ったみたいな得意げな顔しているんだよ。バッカードの一物の事なんて、聞きたかなかったって……。


「あの男の手勢、闇ギルド『アゲハ』。上層部くらいは魅了されているんじゃないかな。まぁそうでもしていないと、枕を高くして眠れないんだろうけど。あの男は小っちゃいから。何がとは言わないけど」


 ニヒヒと笑うサティ。まだ言うか……。


「リュウヤはどこまで『アゲハ』の事知っているの?」

「詳しくは聞いてませんけど……『アゲハ』が悪辣非道な悪事を働いているってことくらいしか。というか、俺も『アゲハ』に狙われましたしね」


 リーディニにて、『山の風』に扮した『アゲハ』の構成員に襲われた事があった。その時は、ラファの活躍もあって、難は逃れたんだけれど。


「あぁ、あたしも聞いたよ、サリアから。それであたしも気になって調べたんだけど……どうやらキミたちを襲った構成員は、獄中で変死したみたいだよ」

「え? それってまさか……」

「うん、そのまさかさ。口封じの為に消されたのは間違いないね」


 口調は軽いものだったが、よく見れば、サティの表情は微かに不愉快そうに歪められていた。


「それで……リュウヤ、もう一度キミに問いたい。相手は部下を口封じの為だけに、簡単に消すような組織だ。本当にキミはあたしたちに協力してくれるのかい?」


 それまでの軽い口調はなりを潜め、サティは真剣な顔つきで俺を見詰めた。ロノアも少し不安そうに俺を見て来るが……俺の答えは既に決まっていた。


「やばい相手だってことは、俺にだって判ってますよ。だけど、サリアさんたちの話を聞いて、今更引くなんて俺には出来ません」

「それは同情心からかな?」


 サティの眼差しが一層鋭く光った。サティはサティで俺を見極めようとしているのだろう。


「同情心……それも確かにあります。だけどそれだけじゃないですよ。今、サティさんに話を聞いて、危機感を覚えました。俺たちを襲った構成員が消されたってことは……遅かれ早かれ、俺たちの事が『アゲハ』に露見してしまう。俺があなたたちに協力する理由には充分だと思いますけどね」


 そうだ。既に構成員が消されたのなら、何故捕まってしまったのか、調べられているに違いない。そしたら辿り着くのは、ソフィたちの事だ。構成員が最後に会ったのは、俺たちなのだから。


 俺とサティが見つめ合う事、数秒。ふと、サティの視線が和らぐ。


「ただの同情心だけじゃないってことだね。うん、そっちの方があたしは信じられるよ。それに、今あたしが開示した情報で、キミたちにも危険が迫っているって判らない奴なら、手を組むのは止めていた。正義感が強いだけの馬鹿は要らないからね」


 ふぅ……どうやらサティのお眼鏡にかなったらしい。


「じゃあ、話を進めようか。リュウヤはあまり『アゲハ』の事は知らないみたいだし、教えておくよ。闇ギルド『アゲハ』……構成員は約三〇〇。新興勢力にしてはかなり規模が大きい」


 サティは懐から羊皮紙のメモを取り出し、目を通しながら話す。


「『アゲハ』のトップはアルビレオという冒険者崩れの男だ。冒険者時代の二つ名は〝狂犬〟。粗暴な性格で、度々暴力事件沙汰を起こし、かなり暴れていたみたいだね」

「あれ? トップはバッカード伯爵じゃないんですか?」


 俺が驚いて聞くと、サティはあからさまに呆れたため息を吐く。


「はぁ~……リュウヤ。あの男が約三〇〇の構成員を束ねられると思う? というか、曲がりなりにもあの男は貴族だ。それも伯爵位のね。いくらあの男が馬鹿だとはいえ、闇ギルドとの繋がりは隠すよ」

「そうですよ、リュウヤ様」


 サティだけではなく、ロノアにさえ呆れられてしまった。


「まぁいい、続けるよ。トップは先ほど言ったアルビレオという冒険者崩れだけれど、組織を運営しているのは、参謀役のリックという男だ。残念ながらアルビレオと違い、このリックという男の経歴はまだ判っていないんだ。今調べている所だけどね」

「つまり、その二人が『アゲハ』の重要人物ってことですね」

「そういうこと。この二人を確保ないし、潰せば『アゲハ』は簡単に瓦解すると思う。だから、あたしたちのターゲットはこの二人だと思ってくれていい」


 闇ギルド『アゲハ』を潰すには、まずこの二人だと、サティが言う。


「でも、確かにトップを潰せば、『アゲハ』は瓦解するとは思いますけど、それだけでいいんですか? 構成員全てを捕まえるべきだと思いますけど……」

「リュウヤの言う事はもっともだけどね。それが出来たら苦労はしないよ」


 サティがため息を吐きながら肩を竦めた。


「一斉摘発出来たら、それが一番いいんだけどね。圧倒的にこちらの人手が足りない現状、無い物ねだりは出来ないよ。まぁ出来る限り、協力者を募っているところだけれど……時間が足りないんだ」


 サティはそう言って、ロノアを一瞥した。その視線だけで判る。ロノアが奴隷として出品されるオークションまでには片を付けたいと思っているのだろう。それは俺も同じ気持ちだ。


「俺に手伝えることはありますか? 例えば、俺も協力者を集めたりとか。まぁそう言っても、俺の知り合いは少ないんですけど」


 心当たりがあるとすれば……ユニウスとマルク、『霊銀の剣(れいぎんのつるぎ)』くらいだ。


「ん~……リュウヤの知り合いなら、物凄い戦力になること間違いなしだろうけど……。それでも頭数が足りない。あたしが集めた情報によると、『アゲハ』の拠点は、このインクウェル中に点在しているんだ。判っているだけで一〇ヵ所以上」


 もうそこまで調べがついているのか……。


「あぁ、でもね。それで全部って訳じゃないんだ。判明しているだけで一〇ヵ所以上ってことだから。それにあたしたちのターゲットである二人が潜んでいる拠点までは把握できていない。今、必死に情報を搔き集めている所なんだけど……」

「今は無暗矢鱈に動けないってことか……」

「そういうこと。あたしたちの最終目的はあの男だ。『アゲハ』を潰した後に、あの男に仕掛けなくちゃいけない。あの男に嗅ぎつかれて、逃げられるわけにはいかないから」


 あくまでも標的はバッカード伯爵。彼の影響力を削ぐ為に、『アゲハ』を潰すのであって、『アゲハ』の壊滅が最終目標ではない。


「……いっそのこと、国に掛け合ってみるとか? 闇ギルドですし、国も動いてくれるんじゃないですか?」

「リュウヤ……本気で言っているの?」


 俺がそう提案すると、サティがジト目を送って来た。あはは……それが出来たら苦労しませんよねぇ。


「はぁ~……その様子だと判っていると思うけどさ。一応言っておくよ。それは出来ないって。まず、あたしたちは闇ギルド『月影』だ。その時点でアウトだね。もっと言えば、あたしたちは魔物なんだよ?」


 悪辣非道な闇ギルドよりも、魔物が街中に潜んでいるという事の方が、国にとっては危険度が高い。


「まぁあたしたちも考えなかったわけじゃないよ。国に密告して、『アゲハ』だけは国の連中に任せる。そして、あたしたちは本命のあの男を始末する。それもアリかなぁとは思ったけど……」

「難しいってことですか」

「うん。あの男には軍上層部に太いパイプがあるんだよ。だから国に密告したとしても、動きが悟られてしまう。まぁ損切として、下っ端くらいは差し出すだろうけど、トップは無事だろうね。闇ギルド『アゲハ』の名は消えるかもしれないけど、組織自体は残ってしまうよ」


 なるほど……それなら密告しても意味がない。国には端から頼れないってことか。


「完膚なきまでに『アゲハ』を潰したいのは山々なんだけれど、現状では難しい。だからあたしたちは頭だけを潰す。まぁそれしか方法が無いんだけどね」

「ということは、そのアルビレオとリックの所在地が判明し次第、動くってことですか?」

「うん、そうだね。情報が集まり次第ってことになるかな。でも、最悪、アルビレオたちの所在は把握できないかもしれない。そうなった場合、判明している拠点を虱潰しに強襲して、アルビレオを吊り出すしかない。だけど、アルビレオを吊り出すにしても、インクウェル中に点在している拠点を出来得る限り同時に襲撃するべきだ。だから、今、あたしは協力者を募っている。あまり上手くいっているとは言い難いけど……」


 その協力者の一人が俺……ということか。


「リュウヤの気持ちは判っているつもりだよ。だから、七日……いや、五日欲しい。それまでに何とか協力者を集めるから」

「リュウヤ様、焦っては事を仕損じてしまいます。お気持ちは嬉しいですが」


 ロノアも焦るなと釘を差してくる。自分の心を押し殺して。


「俺に出来る事は?」

「ん~その気持ちは有り難いけれど、今は無いかな。出来れば、数日迷宮(ダンジョン)に潜ってもらいたい」


 ……どういうことだ? なんで、今更迷宮(ダンジョン)に……?


「最初に言ったけど、キミたちを襲った構成員は口封じとして抹殺された。ということは、もう既にキミたちの事が露見しているとみて間違いがないと、あたしは思う」

「だから、俺たちは迷宮(ダンジョン)に潜って避難しろってことですか?」

「いや、こういったら失礼だということは判っているんだけど、別にあたしはキミたちを心配して、言っているわけじゃないんだ。今、変に『アゲハ』の連中が動くのは避けたいだけ」


 そう冷たく言い放ったサティだけれど、その瞳は俺たちの事を心配してくれている、そんな優しげな色を宿しているように俺には映った。


 その後、俺たちは少し話を詰めた後、解散することに。


「それでは、リュウヤ様。数日お暇を頂きます」

「おう。ロノア、またな。サティさん、宜しくお願いします」

「うん、ロノアはちゃんと連れ帰るから安心して」


 ロノアをサティに任せ、俺は彼女たちと別れた。


 俺たちが『アゲハ』に狙われる可能性がある現状、ロノアをみすみす危険にさらす訳にはいかない。ということで、サティと話し合った結果、ポーターとしての仕事はお休みにして、ロノアは『月影』に預けられることになった。まぁ預けられるというのも変な話だけれど。


 サティと次に会うのは四日後だ。それまで俺たちは迷宮(ダンジョン)に潜り、『アゲハ』から身を隠すことになるだろう。

 この機会に、迷宮(ダンジョン)探索を次の段階へと進めるのもいいかもしれない。それに最悪の事態を想定して、ロノアを買えるだけは稼がないといけないし。


 俺は色々と頭を悩ませながら、一人帰路に就くのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。