第六七話 ポーター少女の売り込み
錯乱するシャロンとせつなを宥め、予め決めていた筋書きで、どうにかこうにか説明した。
俺が魔物使い(モンスターテイマー)である事に始まり、フラミアを使役――実際は眷属化――した事。フラミアを無効化した工程を示すにあたり、モモの存在も明らかにした。
シャロンは『そういう事だったのね。リュウヤが顔を隠している理由は』と、妙に納得していた。フラミアの言う通り、ある程度の秘密を開示することで、シャロンからはそれ以上の追及は無かった。
『魔物使い(モンスターテイマー)、「使役」が使えることは、秘密にしておきなさい。下手すれば、魔物の先導者として、処分されることになってしまうわ。まぁ私が忠告しなくても、リュウヤなら判っているだろうけれど』
シャロンは俺が魔物使い(モンスターテイマー)だという事を、心の奥底に仕舞ってくれるようだ。バルバトスにさえ、口外しないと約束までしてくれた。
ということで、フラミアはメイドとして雇ったという設定にした。まぁ生前はまさしくメイドだったので、フラミアとしても俺の世話が焼けると、とても嬉しそうにしている。
因みに、フラミアの生前の記憶はごく一部しか残っていないようだ。自身がメイドであったこと以外に、自分の名前すら記憶に無いのだという。
記憶の欠如なんて不安になるようなものだと思うけど、どうやらフラミアは全く気にしていない様子。俺が授けた名前もいたく気に入っているようであった。
さて、ここで新たに俺の眷属となったフラミアのステータスを見てみよう。
名前:フラミア
種族:悪霊・半精神生命体
称号:リュウヤの眷属
性別:女性・年齢不詳
髪・瞳・肌:金・蒼・白
魔法:水魔法/中級
氷魔法/初級
技能:「家事」「透過」「魔力操作」「思念会話」
耐性:「物理耐性」
以上がフラミアのステータスだ。
てっきり俺は「物理無効」だと思っていたけれど、実際は「物理耐性」だったようで、俺の攻撃が空振りに終わったのは、「透過」というスキルによるものらしい。非実体化できるという、なんとも幽霊らしいスキルである。
因みに年齢不詳とあるが、生前の記憶が無いから、フラミア自身も何歳まで生きていたのか、判らないという。外見年齢は二二歳くらいだろうから、そんなところだと思う。
メイドらしく「家事」スキルを有しており、俺たちの生活環境の改善に一役買っている。メイドとしては、かなり有能だ。
そして、一番の注目株は、氷魔法だろう。水魔法の上位に位置している氷魔法。俺もまだ取得していない属性なので、暇を見つけてはせつなと共に教えを乞いている。
「ご主人様。モーグ様から見積書を受け取っております。ご確認くださいませ」
「あぁ、ありがとう」
フラミアとの戦闘により、二階角部屋は無残にも壁や天井が吹っ飛び、野ざらしとなっている。そのまま放置しておけるわけもなく、モーグに修繕依頼していたのだ。
「はぁ~……判っていた事だけど、結構お金が掛かっちゃうな」
材料費から修繕費、人件費等全て含めて、金貨二五枚。ヘカトン討伐の褒賞金が、これで全て無くなってしまった。家具も最低限揃えたので、家計は火の車である。
「申し訳御座いません、ご主人様。自我を喪失していたとはいえ、多大なるご迷惑を……」
「あ、いや、それは仕方がないって。過ぎた事だし、迷惑だなんて思ってないから」
しまった。この話関連になると、フラミアは物凄く落ち込むんだ。なるべく彼女の前では口にしないようにしていたのだけど、ちょっと迂闊だったな。反省。
《そうです。心の底より、深く反省して下さい。眷属に心労を掛けるなど、支配者の風上にも置けません》
支配者って……。まだ俺には二人? しか眷属はいませんよって。
ともかく、早急に稼がなくてはならない。そろそろ迷宮に入るしかないな。
ということで、皆を集めて現状を伝える事に。
「――と言った具合に、懐が心許ないんだ。なので、明日から迷宮に入って、バンバン稼ぐぞ!」
「「「「おぉ~!」」」」
どうやら皆、あの事件によるトラウマじみたものは無いようだ。良かった。これで迷宮に入ることも億劫になってしまっていたら、身売りしないといけないところだった。
《その心配は要りません。マスターが身売りすることなど不可能です。中鬼族であるマスターをどこのどいつが買うと言うのです。そのような極悪変態愛好家など、この世界には居りません》
あ、はい。そうですね。というか、只の冗談だったんだけど……。
◇
――翌日。宣言した通り、俺たちは迷宮に潜ることに。
フラミアがとても付いて来たがったのだが、屋敷の修繕には誰か一人は立ち会わなくてはならず、申し訳ないがフラミアにその役を負ってもらうことにした。
『仕方がありませんね。屋敷を守るのもメイドの役目。精一杯務めさせて頂きます。賊が侵入した場合、惨たらしく殺しても構いませんね?』
何だか物凄く物騒な事を言っていた。蒼い瞳がキランと妖しく光り、ちょっとビビったのは内緒である。
さて、凡そ一週間ぶりかな。俺たちは迷宮の入り口であるインクウェルに到着した。
あのような事件が有ったにも関わらず、客足は衰えていないようである。今日も今日とて、迷宮に入り一攫千金を狙う冒険者で溢れかえっていた。
「あちゃ~。来る時間帯間違えちゃったかな。結構待たなくちゃいけないねっ」
陽がぺちんと額を叩く。何とも爺臭い仕草である。
「そうですね。あの事件があって、逆に冒険者の数が増えた様な気がします」
「皆……一攫千金……狙っているのかな……?」
「まぁヘカトンなんていう伝説の魔物が出たしな。その魔石は紫。夢を見るのも判るけど」
「そう簡単にはいかないよねぇ。次にヘカトン級の魔物と遭遇しても、勝てるとは正直思えないよ。バルバトスさんたち『霊銀の剣』でもあんなに苦戦したんだから」
そうだな。次ヘカトン級の魔物と遭遇しても勝率は高くないと思う。というか、俺たちだけでは絶対に負けるだろう。あの時は、『霊銀の剣』とか、多くのゴールドクラスがいたからこその辛勝だったわけだし。
「でも……先輩なら……倒せるんじゃないですか……?」
「あ、そうだねっ、せっちゃんっ。何て言ったってりゅうちゃんはあの魔人を単独で倒したんだからっ」
いやいや、確かに魔人化したヒックを倒したのは俺だけれど……。ヘカトンの方が厄介だと思う。「再生」に無尽蔵の体力。正直、倒すビジョンが全く浮かばない。
「ヒナタさん、あまりその話はしてはいけませんよ。極秘事項なのですから」
「あ、ごめ~ん、フィーちゃん」
シーッと、口許に人差し指を当てるソフィ。うん、こんな開けた場所で話題にするものじゃないな。
ともかく、俺たちは入場待ちの行列に並ぶ事に。
あの満月の夜以降、俺たちは一度も迷宮に挑戦していない。無事、帰還できたとはいえ、三人の精神的負担は大きく、この一週間は休養にあてる事にしていた。
ということで、迷宮が変遷を迎えてから、本日が初挑戦。どことなく、三人とも口数が多い。
「今日はどんどん狩っちゃうよぉ~。フィーちゃん、せっちゃん、誰が一番か、勝負する?」
「いいですね。わたし、負けませんよ」
「は、はい……私も頑張ります……」
無意識的に緊張しているのかもしれない。まぁあんな事があったばかりだしな。
迷宮が変遷を迎え、大きく変わるのは、構造変化だ。複雑に絡み合った迷路は再構築され、今までマップリングした地図は意味を成さなくなる。再び一からマップリングしないといけなくなる。まぁだからこそ、地図売りなんていう商売が成り立っているのだけれど。
出現する魔物は特に変わることは無いという。凡そ五階層毎のモンスターの種類は決まっているらしいが、先月二階層で出現したグリーンキャタピラーが四階層で出現したり、出現階層が変わることがあるそうだ。その月の魔物の組み合わせの如何によっては、攻略難度が乱高下するみたい。全てシャロンから聞いた話である。
「おにぃさん、おねぇさん。ポーターはご入用ではありませんか?」
俺たちが行列に並んでいると、トテトテとした足取りで、外套を羽織った少女が近付いて来た。薄汚れた外套に、大きな背嚢を背負った可愛らしい少女だ。
ポーターとは、迷宮での荷運び人の事である。主に非力な少年少女がポーターになることが多く、冒険者には『乞食』と蔑まれている職業だ。
「あぁ……っと、あたしたち、ポーターは雇っていないの。その、ごめんね」
陽がポーター少女に目線を合わせる様に屈み、申し訳なさそうに断った。
俺たちは今までポーターを雇った事が無い。それは、俺たちにはアドルフが遺した魔法鞄があり、荷運びには苦労していないからという理由が一つ。それと、俺たちには他人に知られてはならない秘密を多く抱えているから、見ず知らずの少年少女をポーターとして雇う事は憚れた。
「そうですか……もしかして、おにぃさんがポーターだったりしますか?」
ポーター少女が断られたにも関わらず、ニコニコ顔のまま俺を見る。
「いや、俺はポーターじゃないんだけど……ポーターみたいなことはしているか」
迷宮では基本的にソフィたち三人が戦い、俺は後方で待機している事が多い。それに、ソフィたちが撃破した魔物から素材の採取をするのは専ら俺の仕事となっている。
魔法鞄も俺が所持しているし……俺って知らず知らずの内にポーターになっていたのか……。
何とも不明瞭な俺の回答に、ポーター少女は一度コテンと首を傾げつつも、ペコリと頭を下げた。
「違いましたか。それは御免なさい。ということは、おねぇさんたちのパーティーは、ポーターを雇っていないんですよね?」
「うん。ポーターは雇っていないよ」
「なら、わたしを雇った方がいいと思いますよ。そしたら煩わしい事は無くなります」
ニコニコ顔でそう断言するポーター少女。
「煩わしい事って何です?」
ソフィがポーター少女に聞き返す。うん、俺もそれがよく判っていない。
すると、ポーター少女は徐に腕を上げ、ある方向を指し示した。その先には、地べたに座り込む多くのポーターたちの姿が。
「見て下さい。あの子たち、じっとおねぇさんたちを見ているとは思いませんか?」
ポーター少女に言われて意識してみれば、確かにどのポーターも俺たちをジッと凝視している。それに何だかギラついた瞳をしているように思える。
「あの子たちはおねぇさんたちのパーティーの、ポーターの座を狙っているんです」
「え!? あの子たち全員が?」
「はい。余り自覚が無いようですが、かなりの有名人ですよ、おねぇさんたち。あの事件を生き残り、たった半月ばかりでゴールドクラスまで登り詰めたと、よく噂されています。それに皆さん美人さんばかりですし。巷では『麗しの三柱』なんて呼ばれていますよ」
それは知らなかった。まぁ思い返せば確かに凄まじいスピードで出世したけど……『麗しの三柱』って……。柱って神様の単位だよな? 女神って事か? というか、三柱ってことは、俺の存在は無視ですか、そうですか。
「うふふ……美人さんだって」
陽よ……トリップから戻ってこい。ニヤニヤし過ぎだ。ポーター少女が若干引いているぞ。
「あぁなるほど。そういう事ですが」
クネクネとしている陽とは違い、ソフィはポーター少女の言葉の意味を吟味していたようで、納得気に呟いた。
「つまり、売り込み合戦になっちゃうんですね。わたしたちのパーティーにはポーターが不在だから」
「そういう事です、おねぇさん。ポーター間の取り決めで、冒険者様に売り込みを掛けるのは一人ずつと決まっていますので、わたしの番が終わると、次々と売り込みを掛けてきますよ」
あぁ確かにそれは煩わしいな。一々断り続けるのも億劫だ。
「じゃあ、俺がポーターって事にすれば、皆諦めてくれるんじゃないか?」
「いやいや、おにぃさん。今さっき『ポーターじゃない』って仰ったじゃないですか。耳の良い子ならしっかりと聞いちゃっていますよ。今更、誤魔化すのは無理だと思います」
「それじゃあ、皆に宣言しちゃう? あたしたちはポーターを雇っていませんって」
「こんな衆人環視の中でですか? 止めといた方がいいと思いますよ。それくらいじゃあ、ポーターは誰一人諦めませんし、余計に売り込みが激しくなると思います。今現在ポーターを雇っていないと宣言しているようなものなので。それに、今はポーターだけにしか注目されていませんが、他の冒険者様の方々にも同じく注目されちゃいますよ? そしたら、今度は冒険者様の方々による引き抜き合戦に発展すると思いますけど?」
あぁ、そう言えば、王城で行われた祝賀会でソフィたちは、熱心な勧誘を受けていたよな。貴族様から冒険者まで、うちに来ないかって。
あの時の事を思い出したのか、ソフィたちはあからさまに眉根を寄せる。
「それは嫌だなぁ~。あたしたちが断っても断っても、めちゃくちゃしつこかったし」
「そうですよね。あれは精神的に疲れました」
「怖かった……」
俺は兵士に説教されていたから、事の成り行きを全て見ていた訳じゃないけど。ソフィたちの様子から察するに、相当参っているようだった。
「そんなおねぇさんたちに朗報です! 今、わたしをポーターとして雇って下さるのなら、ポーターの方の売り込みは完全に無くなりますよ! おねぇさんたちのパーティーにポーターが居るとなれば、皆諦めがつきますし」
「冒険者の方は?」
「そちらはわたしの領分ではありませんので」
いやまぁ……彼女はポーターだしな。冒険者間のやり取りには口を挟めないだろうし。
「どうします? わたしはリュウヤさんにお任せしますけど」
ソフィが俺を見る。陽もせつなも、判断は任せるといった表情だ。
正直、悩む。毎日毎日、迷宮に来る度にポーターの売り込みを断り続けるのも煩わしい。かといって、俺たちには秘密にしなければならない事が多いし、このポーター少女を雇うべきではないようにも思うし……。
ん~と唸り声を上げながら悩む俺に、ポーター少女がある提案をしてきた。
「でしたら、今日一日だけ、わたしを雇いませんか?」
「今日だけ?」
「はい。今日だけわたしを雇ってみて、今後どうするか決めればいいと思います。役に立たないと感じれば、切り捨ててもらっても構いませんので」
切り捨ててって……。ニコニコ顔で何とも淡白な事をおっしゃる。
「とはいえ、自分で言うのも何なのですが、そこいらのポーターよりも有能ですよ、わたし」
ほぉ~。可愛らしい顔して随分と自信満々だこと。そこまで言うのなら、一日くらい試してもいいかもしれない。今後どうするかは後で決めればいいしな。それにポーターの仕事ぶりも見てみたいし。
「判った。そんなに言うのなら、今日一日だけ雇うよ。それでいい? みんな」
確認を取ると、三人はうんと頷いた。
「有難う御座います。おにぃさんならそう言ってくれると思っていました。ご期待に添えるよう頑張りますね」
こうして、今日一日だけお試しとしてポーターを始めて雇う事になったのだった。
◇
――夕方。冒険者組合に併設されている酒場にて。
「「「「かんぱぁ~い!」」」」
俺たちは本日の成果を祝うように、盃を打ち鳴らしていた。
ゴクゴクと蜂蜜酒を飲み干す。ぷはっ、やっぱ一仕事終えた後の一杯は格別だな。
「ホント、今日は凄かったねっ。あたし、びっくりしちゃったよっ」
「そうですよね。わたしも換金を終えて、びっくりしましたもん」
「職員のお姉さんも……驚いてた……」
「……」
陽、ソフィ、せつなは果実水を飲み交わしながら、ニコニコと嬉しそうであった。三人ともご機嫌である。
そう言う俺も、さっきから頬が緩みっぱなしだ。仮面があるからいいけど、多分相当緩み切った顔をしているだろうな。
本日、初めてポーターを雇った俺たち。ニコニコ顔の小さなポーター少女――名をロノアと言う――を引き連れて、久しぶりの迷宮探索。
結果を先に言うと、本日の成果は銀貨一一八枚と銅貨八枚。これは今までの成果の四日分相当にあたる。勿論、過去最大の成果であり、皆の機嫌がいいのも仕方がないだろう。
ロノアは自身で豪語していた通り、かなり有能であった。魔物からの剥ぎ取りの手際も素晴らしく、次々とソフィたちが倒す魔物から、永遠と採取作業を俺と共に行っていた。ナイフ捌きが上手く、俺にもどうやったら素早く採取できるかと、レクチャーもしてくれ、大幅に作業効率が上がった。おかげ様で「採取」なんていうスキルも取得できたしね。
今回、過去最大の成果となったのは、ソフィたちの能力が向上したという事も一因だが、ロノアの加入も大きかったように思う。多分、俺一人だけだと、あれ程までに大量の魔物を捌き切ることは出来なかっただろうし。
更にロノアが貢献したのは採取作業だけではない。本日は二階層から九階層まで探索を行ったのだが、六階層からの森林エリアでは、『この草は毒消しの素材になりますので、採取していきましょう』とか、俺たちには無かった知識もあり、色々とためになることが多かった。
「はい、これ。ロノアの取り分ね」
蒸留酒なんていう酒精の強いお酒をチビチビ呑んでいたロノアの目の前に、俺は本日の成果の分け前をドンと置いた。
「……何故ですか?」
革袋の中身を確認したロノアが、一瞬眉根を寄せた。
「何故って……何が? もしかして少なかった?」
俺がロノアに手渡したのは、銀貨二四枚。一人頭の取り分である。因みに、ソフィたちの取り分は、俺が主となって預かっている。拠点の改修資金に充てる予定だ。
「いえ、そういうことでは……」
何とも困惑げなロノア。困ってしまったロノアに陽がグイッと身体を近付ける。
「ノアちゃん、どうしたの? もしかして、りゅうちゃんが虐めて来るの?」
「い、いえ、そうではありません。リュウヤ様はとても優しくしてくれています。そうではなくて……わたしの取り分が多いのです」
「ん? そうなの? りゅうちゃん」
陽が見て来るので、俺は首を横に振った。
「別に多くないよ。五人で等分に割った分を渡しているし」
「そうだよね。りゅうちゃんって案外ケチじゃないもん」
いや、陽……案外って……見た目ケチなの? 俺……。
「皆様は何も思わないのですか? わたしはポーターですよ? ポーターという役立たずに、等しく五等分だなんて……。危険を顧みず、魔物と戦ったのは皆様じゃないですか。戦っていないわたしが、こんなにも受け取れません」
ロノアは俺の方に革袋を突き返しながら言った。
「今日の成果だと……これくらいが相場ですよ? ポーターにはこれくらいで充分です」
革袋から銀貨三枚を取り出し、俺たちに見せた。銀貨一一八枚の内三枚だけ。大体三パーセントといったところか……。
「りゅうちゃん、ノアちゃんがそう言っているけど……いいの?」
そんなもの決まっている。俺は突き返された革袋をロノアの方へ押し戻した。
「一般的なポーターの相場は、それくらいなのかもしれないけど、そこまで搾取するつもりはないよ。今日なんてロノアが居てくれたからこそ、こんなにも稼げたんだし。それに、ロノアは戦っていない事に負い目を感じているようだけど、そんなの気にしなくていい。役割分担って事だよ」
「し、しかし! リュウヤ様……わたしはポーターという役割を全う出来ていません。魔石の大部分は、リュウヤ様がお持ちになったではありませんか。まさか魔法鞄のような希少な代物をお持ちだとは……思ってませんでした」
しゅんと肩を落とすロノア。確かに魔石は俺が魔法鞄に入れて運んでいた。まぁスキル付き魔石が無いかと確認する意味もあったんだけど……ポーターとして矜持から全荷物を運べなかったことを悔いているらしい。
「それに今日一日だけのお試しだったではありませんか。魔法鞄をお持ちなら、わたしなんて必要ないじゃないですか……」
ロノアとは今日一日だけのお試しという約束だった。俺が魔法鞄なんて言うチートアイテムを持っているから、彼女はポーターをクビになると思っているのだろう。
小さな身体を縮ませて俯くロノアに、なるべく優しく声を掛ける。
「そういう話だったけど、アレはなしだ」
「やっぱりそうですよね……判ってました……」
「ちょっと、りゅうちゃん?」
ますます落ち込んだロノアを見て、陽がギロッと俺を睨む。いやいや、まだ話の途中だから!
「いや、ちょっと待ってくれ。今日一日だけのお試しはナシって話で、別にクビって言っている訳じゃないよ。俺としてはロノアにこれからも手伝ってほしいと思ってる」
ハッとしてロノアが面を上げる。
「い、いいんですか? わたし……お役に立てませんよ?」
あんなに自信満々だったのに、一日終えて激変したな、おい。正直、面倒臭い性格だが、今日のペースだと、俺だけではしんどいし……。
「俺一人だと手が足りないしさ。よろしく頼むよ」
「はい……有難う御座います」
小さい身体を更に縮ませて、ペコリと頭を下げるロノア。
自信満々かと思えば、妙に繊細な心を持っていたり。はぁ~……女の子って、ホント面倒な生き物だよな。
「ということでっ! ノアちゃんの加入を祝って、歓迎会を開きたいと思いますっ。ドンドンパフパフ~」
陽が殊更楽しそうにはっちゃける。パチパチと拍手をするソフィとせつな。そして、ちょっぴり恥ずかしそうだけれど、嬉しそうでもあるロノア。
うん。やっぱり女の子は笑顔が一番だよな。楽しそうにはしゃぐ四人を見て、そんなことを思う俺であった。