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第六六話 汚いからペッしなさい


 迫り来る無数の氷塊。散弾のような氷弾を陽は大剣を盾にして凌ぎ。ソフィは軽やかな身のこなしで双剣を閃かせ、次々と撃ち落としていく。

 俺も愛用の杖を振り回し、氷弾を粉砕していくが……正直、キリが無い。


 メイド幽霊の氷弾は、初級氷魔法〈アイスブレッド〉。だが、これ程までに息を付かせぬほどの猛攻はあり得ない。

 通常であれば、魔法行使の合間に必ずあるタイムラグが全くないのだ。常に新たな氷塊を生成し、休むことなく氷弾を放ち続けている。


「りゅ、りゅうちゃん、どうするの? このままだと、こっちがもたないよっ!」


 陽が氷弾を凌ぎながら、焦燥じみた声音を上げる。


 全く衰えの見せない猛攻。今は何とか凌ぎ切っているが……体力がいつまで持つか判らない。

 しかし、攻勢に出ようとしても、俺の得意系統は火属性だ。室内でぶっ放す訳にはいかなかった。


 今現在、ラファが解析を行っているが……俺はソフィと陽の苦しげな表情を見て決断する。


「ソフィ、陽! 気絶している二人を頼めるか?」


 迫り来る氷弾を弾き返しながら叫ぶ。今、俺の後ろには気絶している二人がいて、俺が何とか守っているという状況だ。その守護を二人に任せる事にする。


「す、少しなら何とかして見せますっ!」

「あ、あたしも頑張るっ!」


 よし。いい返事だ。防御は二人に任せ、俺は一人特攻することに。

 身体を低くし、疾走する。杖を振るい、氷弾を弾き飛ばしながら、メイド幽霊に急迫する。


「シィィィイイ!」


 まるで『近寄るな』と言わんばかりに、氷の弾幕が苛烈を極めた。弾き飛ばすことの出来なかった氷弾が俺の肩を撃つ。


「ぐっ!」


 鈍い痛痒に声が漏れ出すが。下唇を噛み締め耐え抜く。


「クル……ナァァアア!」


 氷弾を受けても怯むことなく接近する俺に、メイド幽霊が慄き、後退った。


 ……へぇ~、幽霊でもビビることあるんだな。


 そんな場違いな感想を抱きながら、攻撃が届く間合いに入った。瞬間、横薙ぎに杖を振るう。

「怪力」を発動させた横薙ぎはメイド幽霊の脇腹を捉え――なかった。


「――ッ!?」


 目を瞠る俺。まさか、「物理無効」!?


 無残にも横薙ぎはメイド幽霊の胴を透過していく。


 ニヤリと醜悪に嗤うメイド幽霊。両手を前に翳すと、魔力を集束し――氷塊を放つ。

 一極集中した氷塊は、これまでのものとは比較にならない程大きく、簡単にはじき返せそうにない。


「チッ! 仕方がねぇ!」


 室内の為、使用を控えていたが、もはや悠長なことは言ってられない。一か八かだが、やってやるッ!


 オリジナル炎魔法――〈蒼拳(そうけん)〉。今まで〈蒼炎纏尽(そうえんてんじん)〉以外、放出系しかなかった炎魔法を改良したオリジナルだ。〈白刃(はくじん)〉から発想を得たのだが、この〈蒼拳(そうけん)〉は拳を蒼炎に物質変換し、尚且つ拡散させないよう制御するのが、尋常ではない程高難易度で、今まで一度も成功したことは無かった。

 だが、現状、周囲の被害を抑える為には、この〈蒼拳(そうけん)〉以外に選択肢はない。一か八かの賭けは――どうやら俺に天秤が傾いた様だった。


「〈蒼拳(そうけん)〉ッ!」


 集束した魔力が変質し、拳を蒼炎に変え、撃ち出すッ!


 蒼い拳撃は氷塊を迎え撃ち――爆散。急激に熱された氷塊が水蒸気へと変化し、水蒸気爆発を引き起こす。


 爆風に吹き飛ばされる俺。宙で何とか身体を制御し、無事着地を決める。


「リュウヤさん!」

「りゅうちゃん!」


 ソフィと陽が俺を心配して俺の名を叫ぶ。俺は問題ないとばかりに、前を向いたまま、軽く手を挙げて答えた。


 白い霧。それが晴れた先には、茫然と立ち尽くすメイド幽霊の姿が。

 メイド幽霊はゆっくりと首を巡らせて辺りを見渡す。部屋は水蒸気爆発によって、無残にも壁が吹き飛び、夜陰の冷たい風が吹き込んで来ていた。


「ァ……ァ……アァァァァァ!」


 惨状を目の当たりにし、メイト幽霊はまるで狂乱したかのように頭を抱え、悲鳴を上げた。そして、ギロッと俺を睨み付ける。


 やべ……何かマジで怒らせちゃったかも……。


 冷や汗が噴き出て来る。折角の拠点がちとボロボロになってしまったけど……うん、仕方がないよね、アハハ……。


「コロスッ! ゼッタイ、コロスッ!」


 憎悪剥き出しに怒声を放つメイド幽霊。

 凄まじい魔力の高まり。全魔力を使って、俺を排除するつもりかッ!

 荒れ狂う魔力は、この一帯を更地にしてしまう程の量だ。そうはさせじと、俺は飛び出す――が、間に合わないッ!


 メイド幽霊が両手を前に翳す。


 ――万事休す。少しでも被害を抑え込むために、俺は身を呈して〈蒼炎纏尽(そうえんてんじん)〉を発動させ――。


「……へ?」


 ――なかった。いや、発動させなかったのではなく、出来なかったと言う方が正しいか。何せ、眼前の奇妙な光景に気を取られてしまったのだから。


 憤怒の表情を浮かべるメイド幽霊。その背後に、いつの間にか移動していたモモが、身体を引き伸ばして、まるで飲み込むようにメイド幽霊を包み込んだのだった。


 シーンと静まり返る一同。俺も、ソフィも、陽も、誰もが目を点にして呆けていた。


「も、モモちゃん、まさか食べちゃったの!?」


 いち早く復帰した陽が驚いたように言う。


「い、いや、モモ! ダメだ! そんなばっちぃの食べちゃダメ! 汚いからペッしなさいッ!」


 慌てて、俺はモモを叱る。雑食粘液族(オムニボラススライム)進化(ランクアップ)したモモは、何でも「捕食」する傾向が強くなっていた。あのヘカトンさえも平気で食べちゃおうとしたし……。

 流石に何でも食べてしまうのはどうかと思い、絶賛躾中なのである。というか、幽霊を食べてしまうとは、流石の俺も想像していなかったよ。


 叱られたモモは、一度ビクンと震えたかと思うと、素直に『ペッ』とメイド幽霊を吐き出した。そして、恐る恐る俺の足元にすり寄って来る。


「いい子だ、モモ。あんまり何でもかんでも「捕食」しちゃダメだぞ」


 ぷるぷると震えているモモはまるで叱られた子供のよう。まぁ素直に言う事を聞いたので、頭(?)を撫でてやると、ピタッと俺に身体を摺り寄せた。


 さて、モモの奇想天外な行動に驚かされたが、まだ危機は去っていない。俺は直ぐに吐き出されたメイド幽霊を見た。

 モモに「捕食」されたメイド幽霊は、モモの体液か何か判らないが、濡れぼそっており、何だかエロい……。


「気絶していますね」


 ソフィが警戒しながらも、メイド幽霊に近付く。そして俺に振り返った。


「今の内にとどめを刺しておきましょうか?」

「いや、ちょっと待って。何だか様子が違わない? さっきまでの凍てつくような刺々しい感じは無くなっているし」


 気絶しているメイド幽霊からは、先ほどまでの憎悪感たっぷりの形相ではなくなり、すやすやと穏やかな寝顔を覗かせていた。


「確かにりゅうちゃんの言う通りだけど……危なくない?」


 陽の言う通り、このままだと目覚めたとき、どういった反応を示すか判らない。さて、どうしたもんか……。


 扱いに悩んでいると、モモがのそりのそりとメイド幽霊に近付いていく。


「おい、モモ。食べちゃダメだぞ」


 一応、注意すると、モモは『判った』というように、身体を震わした。


「モモさん、何をしようとしているんでしょうね」


 ソフィが小首を傾げながらモモを見守っているが……それは俺にも判らん。


 モモは、メイド幽霊の元へ移動すると、徐に触手を伸ばす。そして、メイド幽霊を絡めとると、プチンっと触手を切り離した。


「「「えぇ!?」」」


 驚愕する俺、ソフィ、陽。当のモモは満足そうに身体を震わせると、『褒めて、褒めて』と言わんばかりに、俺にすり寄って来る。


「えっと……一応拘束は出来たみたいですけど……」

「うん……ちょっとびっくりしちゃったよね」


 ソフィと陽が顔を見合わせて何とも言えぬ雰囲気を醸し出していた。

 モモが切り離した触手は、まるでロープのようにメイド幽霊を拘束している。濡れ濡れになったメイド服、更には拘束によって体のラインがはっきりと浮かび上がり……途轍もなくエロい……。大きめのメイド服で判らなかったけれど、結構ナイスバディである。


「りゅうちゃん? 何だか視線がエロいんだけど?」 


 陽がジト目で俺を見て来る。いや……仮面付けているから、俺の目線は判らないはずなんだけど……居た堪れなくなり、そっとメイド幽霊から視線を外すのだった。


「……ぅ……ぅう……」


 気絶していたメイド幽霊が呻き声を上げた。途端に警戒する俺たち。


 長い睫が震えたかと思うと、ゆっくりと瞼を持ち上げていく。その瞳は澄んだ青空のように蒼く、先ほどまでの憎悪に満ち溢れた赤い瞳では無くなっていた。


 メイド幽霊は呆然と辺りを見渡し……俺に目を向けた。大きく瞳が見開かれ、そして、うるうると潤ませたかと思うと、華が咲き誇ったかのような可憐な笑みを浮かべ。


「ご主人様っ!」


 と、叫んだのだった。



 ◇



 さて、俺は今、一階にある応接間にやって来ている。とはいえ、家具が全くないので、だだっ広い部屋なのだけれど。直床座りだし。

 長年、人の手が入っていなかった為、埃塗れだったが、初級風魔法で空気の入れ替えと共にある程度綺麗にしてある。流石、異世界。やっぱり魔法は凄く便利である。


「お紅茶を淹れましたわ。どうぞ、ご主人様」

「あぁ、ありがとう」


 カップを受け取って一口。正直……めちゃくちゃ美味い。俺たちが適当に淹れた紅茶とは雲泥の差である。


「ソフィ様、ヒナタ様をどうぞお召しになって下さい」


 ソフィと陽も紅茶を飲み、ほぅと気の抜けた様な声を出していた。


「って、違ぁぁあああうっ! 何であたしたち、優雅なティータイムを楽しんでいるのよっ!」


 陽が立ち上がって、バッと俺を指差す。


「りゅうちゃん! この状況は一体どういう事なのっ! 説明してっ!」


 陽が詰問してくるが……正直、俺も良く判っていない。どう答えたものかと、悩んでいると、メイド幽霊が俺に代わって答えてくれた。


「私はメイドでありますので、皆様のお世話をしたく」


 ……うん。そういう事じゃないんだよね。


「あ~、ちょっと黙っててくれるかな? 話がややこしくなりそうだから」

「申し訳御座いません、ご主人様」


 ……いや、そんなシュンとしなくても……。


「えっと……俺も何でこうなったのかはよく判っていないんだけれど。いつの間にかこのメイド幽霊が、俺の眷属になったみたいなんだ」


 そう、全く以って意味不明だが、メイド幽霊が突如として俺の眷属となってしまった。モモに引き続き、二人目である。


「いやいやいや……りゅうちゃん、それじゃあ何の説明にもなってないよ」


 いやいやと呆れたように首を振る陽。ソフィもうんうんと頷いている。


「そう言われてもな……ラファの説明が難しくてさ」

《マスターの理解力が乏しいのを、私のせいにしないで下さい》


 うん、何かゴメンね?


《……まぁいいでしょう。もう一度簡潔に説明致します。このゴーストには、悪しき残留思念が蓄積していました。憎悪、敵愾心といった負の感情です。その負の感情が積もりに積もって、自我を崩壊させ、敵対的行動を取るようになっていたようです。ゴーストのような魔物は、憎悪などの悪しき感情を引き寄せる性質があり、正常と言えば正常なのでしょうが》


 ふむ。負の感情が蓄積され、その感情に従って敵対的行動を起こしていたと。


《はい。そして、モモがゴーストを「捕食」しました。「捕食」とは、対象の魔力、又は存在値を吸収し、己の糧とするスキルです。この「捕食」によって、ゴーストの魔力、存在値がモモに吸収されたのですが……全てを吸収し終える前に、マスターの叱責により、「捕食」途中でゴーストは解放されました》


 うん、そうだ。『汚いからペッしなさい』って言って、吐き出させたんだな。


《吐き出されたゴーストは、「捕食」によって、魔力、存在値が吸収されたのですが、消滅に至ることはありませんでした。その際、モモの「捕食」によって、ゴーストの魔力、存在値が激減。モモが吸収した魔力、存在値には多くの負の残留思念が込められており、結果的に負の感情をゴーストから引き剥がした形となります》


 ほう……な、なるほど。悪しき感情だけが引き剥がされて、今みたいに従順なメイドさんとなっているわけか。あ、でも、モモは大丈夫なのか? 吸収しちゃったんだろ?


《……モモに確認したところ、問題はないようです。精神リンクによる解析にも、正常と結果が出ていますので、マスターの懸念は、全く以って的外れです》


 言い方よ、言い方……。まぁモモに問題が無いのなら安心だな。


《ゴーストがマスターの眷属化した要因は不明です。ゴーストに確認を取ったところ、どうやらマスターを見て、魂の底から仕えなくてはならないと、直感した様です。魂が共鳴したのではないかと、推測します》


 魂の共鳴……マジで意味不明だな。まぁ害は無さそうだし、このままメイドとして頑張って貰おうと思う。


 ラファによる説明をソフィと陽に聞かせた。二人とも頭上に疑問符を浮かべているが、害はないと判り、ホッと胸を撫で下ろしているようだった。


「良く判らないけれど……大丈夫なのよね? いきなり襲って来たりはしない?」

「うん。それは大丈夫だと思う。眷属化しているしな」


 眷属化すれば、余程のことが無い限り、俺の命令には聞くようになる。


「ふ~ん。なら、問題の一つは解決ね」

「問題の一つ?」


 他に何か問題はあったっけ?


「もう一つ大きな問題が残っているじゃんっ。りゅうちゃんは、この子を眷属化したんでしょ? それって、どうやってシャロンさんに説明するの?」


 あ、そうか。せつなはモモという前例を知っているから問題ないとして。シャロンの方には問題大アリだな。一体どうやって説明しようか……俺の正体もバラす訳にはいかないしな。


「ご主人様、発現させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。どうしたの?」

「有難う御座います。皆様のお話をお聞きしている限り、ご主人様の秘密を御存じなのは、ソフィ様、ヒナタ様のお二人だけですか?」

「いや、せつなもだよ。そこに気絶している黒髪の子ね。この三人だけは俺が中鬼族(ホブゴブリン)だということは知っている。そこの金髪の人は知らない。まぁ理由は言わなくても判ると思うけれど」

「魔物だと知られれば、厄介な事になりかねませんものね」

「そういう事」


 話していて思ったのだが、このメイド幽霊は、かなり知能が高いように感じる。口調や言葉の節々にも気品の様な者が感じられるし。


「でしたら、ご主人様が魔物使い(モンスターテイマー)だったということに致しませんか? 「使役」スキルによって、私を使役したということに」

「魔物使い(モンスターテイマー)か……そんな職種、初めて聞いたけど?」


 確認を取るようにソフィと陽に目を向けるが、二人とも首を横に振った。


「ご主人様がご存知ではないのも、仕方がない事ですわ。あまり公に出来る職種ではありませんから。魔物とは人族(ヒューム)亜人族(デミヒューム)にとって、相容れぬ絶対なる敵・脅威でございます。その相容れぬ存在を使役しているというだけで、世間の目は冷たくなります」

「なら、余計にダメじゃない? 俺を魔物使い(モンスターテイマー)に仕立てるのは」

「見ず知らずの者に知らせてはなりませんが、彼女でした問題ないかと。ある程度の信頼関係を築けているようですし、ご主人様自らある程度の秘密を開示することで、それ以上の秘め事を詮索させないといった効果も見込めます。人は知らないものを深く追求したくなる生き物でございますから」


 なるほど。俺の正体という最大の秘密を詮索させないために、敢えて小さな秘密を教えるってことか。それ以上の秘密があるって、普通は思わないもんな。


「おっし。メイド幽霊の案を採用しよう。俺は今から魔物使い(モンスターテイマー)ってことで、皆いいかい?」


 ソフィはうんと頷いたが、陽がそっと手を挙げた。


「何か問題があるのか? 陽」

「いや、その案には賛成なんだけど。この人の名前を付けた方がよくない? メイド幽霊、メイド幽霊って、ちょっと可哀想だよっ」

「そんな、ヒナタ様! 私の様な存在が、ご主人様から名を頂くのは」


 ん? 何だかよく判らないけれど、随分と謙遜しているな。


《魔物にとって、名というのはとても重要な意味があります。魔物には個別の名称はありません。固有名があるだけ、その個体は名持ち魔物(ネームドモンスター)とされ、抜きん出た能力を有することになります》


 ふ~ん、名前を付けるだけで、強くなるならいいんじゃないか? 


「んじゃあ、『フラミア』って名前はどう? 何となくの思い付きだけど」


 俺がそう名付けると、何となく身体から力が抜けていくような感覚が。まぁ倒れるほどではないんだけれど、ちょっぴり身体が重く感じる。


「な、な、何をなさっているのです!? ご主人様!」


 メイド幽霊――改めフラミアが、慌てて俺の身体をぺたぺたと触り始めた。


「何をって、名前を付けただけなんだけど……というか、一体どうしたのさ?」


 あまりの必死さに若干引き気味の俺。


「どうしたもこうしたもありません! ご主人様はお判りになられているのですか? 眷属に名を与えることの意味を!」


 キッと眦を吊り上げるフラミア。相当怒っているようだ。


「えっと、フラミん。ちょっと落ち着こうよ。あたしたちにも判る様に説明して欲しい」

「これが落ち着いていられる状況ですか! ご主人様、どこか痛むところはありませんか? 上手く身体が動かせないとか」


 ペタペタと触診しながらフラミアが俺に訊いてくる。表情から察するに、めちゃくちゃ心配しているようだ。

 サッと身体を軽く動かして確認してみるが……特段、問題は無さそう。


「いや、痛むところも無いし、普通に動くよ。何を心配しているのか判らないけど、大丈夫だ」

「あぁ~良かったぁ~……」


 フラミアは心底安堵したように、胸に手を当てホッと息を吐く。


「ご主人様、今後眷属が増えても安易に名を授けないよう約束してください。眷属に名を授けると言うのは、ご主人様の魂を分け与えるのと同意義なのですから」


 ……え? 何それ? 初耳なんだけれど。


《フラミア。そのように心配する必要はありません。マスターが不調に陥る様な場合なら、私が止めています》

《ラファ様……しかし、ご主人様に何かあっては……》

《くどいですよ、フラミア。私が問題ないと言えば、何も問題ありません。フラミアは、私を……いえ、マスターを信じられないと言うのですか?》

《い、いえ、そのようなことは……》


 ん~何だか俺の脳内で会話を繰り広げているな。これも魂の系譜に連なったということなのだろうか?


《はい、ご主人様。モモ様と私はご主人様の眷属でありますので、「思念会話」を使える様になっております》


 へぇ~、それは中々便利だな。今度、色々と検証しなくては。

 俺とフラミア――あと、ラファ――と、「思念会話」で話していると、陽がキョトンとしながら話し掛けて来た。


「ねぇ、ねぇ、お二人さん? ずっと見つめ合ったままどうしたの?」


 陽に指摘されて気付いた。俺はずっとフラミアと至近距離で見つめ合ったままなのだ。フラミアもそれに気付き、途端に頬を赤らめると、バッと勢いよく離れる。


「ゴホン。申し訳御座いません、ご主人様。私としたことが、取り乱してしまいました」


 ぺこりと頭を下げるフラミア。確かにめちゃくちゃ取り乱していたけれど、不快感は全くない。フラミアはかなりの美人さんだしな。


「リュウヤさん。それで大丈夫なのですか? 魂を分け与えるとか言ってましたけど」

「あぁ~、その辺は大丈夫みたい。ラファが管理? してくれているみたいだから。ラファに任せていたら何も問題はないさ」

「ラファさんがそう仰るなら問題は無さそうですね」


 ソフィはホッと胸を撫で下ろしているようだった。


「ぅ……ぅう……」


 微かに呻き声が聞こえた。振り向けば、気絶していたシャロンとせつなが睫を震わせている。


「ん~……あれ? 私、どうしていたんだっけ?」


 シャロンが眠気眼を擦りながら、辺りを見渡す。そして、フラミアの姿を視界に捉えると、ピタッと固まり……。


「ぎゃぁぁああああ!」


 甲高い悲鳴を上げるのであった。


 はぁ~、色々と説明しないとな。晩飯はその後か……。少しだけ憂鬱になる俺であった。



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