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第六三話 祝賀会


 シャロンたちと他愛もない話をしていると、そろそろ開催時間が迫ってきていた。

 ホールには数多くの冒険者が続々と会場入りしている。何となく見たことがある人たちばかりだ。まぁこの祝賀会は、満月の夜を乗り切った冒険者を招待しているから、何となく覚えていても不思議ではないけど。


 それにしてはやけに少ない気がする。それにもほとんどがゴールドクラスの冒険者ばかりだし。


「それはそうよ。あの時の冒険者を全て招待する事なんて出来ないでしょう。前線で活躍した冒険者だけが招待されているわ。それに……亡くなった人も少なくないし」


 シャロンが俺の疑問に、少し寂しそうに答えてくれる。

 会場に集まった冒険者はざっと五、六〇人といった所。あの時、最前線で戦った者たちなのだろう。


 ボーっとそんなことを考えながら、ホールを眺めていると、新たに入場してくる一団が。だが、その風貌は冒険者と違い、誰もが高貴な雰囲気を纏い、高価な衣装に身を包んでいる。


「あら、お貴族様方々も参加するのね」


 シャロンも気付いたようで、驚いたように視線を入り口に向けていた。


 すると、貴族をまるで率いているかのように先頭を歩いていた男性と目が合った。勿論、俺の気のせいなのだろうが、その貴族の男性は、何やら後ろの人に耳打ちすると、こちらにやって来る。


「お久しぶりでございます。シャロンさん、ブリストンさん、クロマさん」


 柔和な笑みを浮かべながら、その貴族は美しい所作で挨拶をした。


「これはご丁寧に。ご機嫌麗しく、バッカード伯爵様」


 シャロンが代表して、その貴族――バッカード伯爵に答えた。

 爽やかなイケメンフェイスのバッカード伯爵。青年……とは言い難いけれど、四〇くらいだろうか。それでも容姿端麗であり、実年齢より若く見える。


「今日もお美しいですね、シャロンさんは」

「お褒めに預かり、とても光栄ですわ。バッカード伯爵がご参加するとはお聞きしておらず、少し驚いています」


 シャロンの所作は、まるで王侯貴族のように洗練されており、普段の彼女からは想像もつかないほど、優雅であった。


 ……お、俺の知っているシャロンはどこにいった!?


「何分、陛下がご参加されるとお聞きしたもので。ならばアトリニア貴族としては、参加しないわけには参りませんからね」


 え? 陛下って、王様ってことだよな? 確かにチャーチルがさっき「アトリニア王が主催」とか言っていた気がするけど……。冒険者の祝賀会に国王が参加するのか?


「それは殊勝な心構えですわね」

「えぇ。臣下たる者の義務ですよ。もしよければ、あちらでお話しなさいませんか? 色々とあの事件についてお話をお聞きしたく」


 バッカード伯爵は、サッと手を差し出すが……シャロンはそれを一瞥しただけで、手を取ろうとはしなかった。


「申し訳御座いません。光栄なお誘いですが、わたくし共は、バルバトスを待たなくてはなりませんので」


 にこっと微笑みながらも、シャロンはバッカード伯爵の誘いを拒否する。


「あぁ、そう言えば、バルバトス殿の姿が見受けられませんね。彼は今どちらに?」

「バルバトスは所用で席を外しておりますわ」

「ほう、そうでしたか。かの英雄にもご挨拶をしておきたかったのですが……まぁいいでしょう。後程、お伺い致します。では」


 バッカード伯爵はそう言って丁寧に一礼をすると、取り巻きの元へと戻っていく。

 ふと、立ち止まって振り返ると、バッカード伯爵はシャロンに爽やかな笑みを送った。


「あぁ、シャロンさん。例のお話も含めて、後日お食事でもいかがでしょうか? 貴方とは親交を深めたいので」

「……そのお話は、以前お断りさせて頂いたはずですが?」


 シャロンは相変わらず微笑みを絶やしていないが、短い付き合いの俺でも彼女が不機嫌になっていることが判った。


「えぇ、確かに一度断られておりますが……双方の食い違いがあったのでしょう。一度、食事の席を共にし、親交を深めれば、おのずと解消されると思いますので、ぜひ」

「……わたくしは冒険者業をしております故、いつになるか判りませんが……」

「えぇ、貴方のご事情も充分に理解しておりますよ。時間が空いた時で構いません。ご連絡をお待ちしております」


 バッカード伯爵は爽やかな笑顔をシャロンに向けると、今度こそ去っていった。バッカード伯爵が充分離れた所で、シャロンは疲れたのように深くため息を吐き出す。


「ほんと、お貴族様の相手って疲れるわね」

「シャロンさん、あの人と知り合いだったんですか?」

「うん、まぁ、ちょっとした、ね」


 シャロンはそう口を濁したが、ブリストンが真相を口にする。


「何が、ちょっとした、や。シャロンはあの若造から求婚されておるやないかい」


 え? マジ? シャロンが貴族に見初められたってこと?


「もう、ブリストンっ! 余計な事は言わないでよっ!」


 シャロンがプリプリと怒っているが、ブリストンはどこ吹く風だ。


「すごいなぁ~。でも、何だか納得。シャロンさんって綺麗だもんねっ」


 陽が羨ましそうに言うが、シャロンの表情は複雑だった。


 というか、シャロンって婚期を逃して焦っているんじゃなかったのか? 今のやり取りを見ていると、あのバッカード伯爵は、シャロンに好意を持っているように思えるんだけれど。


「何をそんなに迷う事があるんや。あの伯爵様は、なよっとしてわいは好かんが、それでも優良物件じゃろうて」

「まぁブリストンの言う通り、優良物件なのは間違いないんだろうけど……」

「何が問題のなの? ちょっと押しは強いけど、カッコいいし、良い人そうだったよっ?」


 まぁ陽の言う通り、確かに最後まで丁寧だったと思う。ちょっと強引だけど、それだけシャロンに好意を持っているともいえるし。


 シャロンは言おうか言わまいか、ごもごもと口許を動かした後で、小さく、物凄く小さな声で言う。


「だって……好きじゃないんだもん」


 いや、シャロンさん? 『好きじゃないんだもん』って……。


 呆れかえる一同。少しの沈黙の後、ブリストンが腹を抱えて大笑いする。


「ガハハハッ。何じゃそりゃ。ガハハッ、あぁ腹が痛ぇ」

「ブリストンさんっ、笑い過ぎですよっ! あたしは判りますよっ、シャロンさん。好きじゃない人と結婚なんて出来ないもんねっ」


 陽が腹を抱えて笑い転げるブリストンを諫め、シャロンを励ましている。当のシャロンは、顔を赤らめて、恥ずかしそうだ。


「た、確かに、伯爵様と婚姻を結べば、側室としてそこそこ幸せになれるって、判っているんだけど……」

「えっ? 側室!? 一夫多妻制なのっ?」

「そうですよ、ヒナタさん。ほとんどの国が一夫多妻制を認めています。例外は聖国だけですよ」


 陽はこの異世界の常識を知らない。事情を知っているソフィが、驚く陽に耳打ちをして説明していた。


「まぁいいんじゃないですか? シャロンさんがイヤなら断ればいいんだし。それとも貴族の求婚を断ったら打ち首とか厳罰があるんですか?」


 貴族の求めを拒否すると、打ち首とかありそうだよね。そう思ってシャロンに訊くが、彼女はフルフルと首を横に振った。


「国民だと、そう言った事もあるそうだけど。私のような冒険者には無いわ。別にこの国の民じゃないし」


 あぁ、そう言えば、冒険者って自由民だったな。冒険者組合が後ろ盾となり、身分を保証している。よって、その国に対して納税の義務は無い。まぁ直接の納税義務は無いが、そのかわり冒険者組合が税を国に納めているのだ。勿論、それは冒険者が持ち込んだ魔物の部位や、魔石から天引きされているのだけで、税を払っていないという事ではないのだけれど。


 自由民と国民の違い。色々とあるのだが、大きなものとして二つある。

 一つは移動の制限だ。国民は移動の自由が認められていない。村から村へ移動するだけでも、その土地の領主にお伺いを立てなくてはいけない。

 一方、自由民は、その名通り、自由に国家間の移動することが出来る。これは冒険者組合という他国に跨る巨大組織によって、身分が保証されているからこそである。


 もう一つは安全保障だ。国民は国家によって安全保障がなされている。例えば、辺境村に魔物の襲来があった際、対応に当たるのは、その地の領主、または国家となる。

 自由民の場合は、その安全保障を担うのは冒険者組合だ。冒険者が危機的状況に陥ったとしても、国家は動かず、冒険者組合が対応に当たる。


 今回の事件では、冒険者組合が主導的に対応に当たっていたそうだが、アトリニアも協力的で軍を動かしていたそうだけれど。


「勿論、自由民だからといって、無礼打ちが全く無いとは言わないわ。だけど、求婚を断るくらいで即打ち首なんてあり得ないわよ。そんなことしていたら、冒険者組合から抗議があるでしょうし、冒険者組合から受ける上納金が減ることになるわ」


 冒険者組合からその国に対する上納金は、結構馬鹿にならない金額だったりするそうだ。一貴族がおいそれと冒険者を断罪することは出来ないらしい。


「まぁその冒険者が余りにも無礼な態度を取っているとかだったりしたら、冒険者組合も目を瞑るそうだけれど」


 ふむふむ。先程のシャロンの様に慇懃な態度で接すれば、問題ないという事だな。ソフィたちを冒険者として登録しておいてよかった。まぁ俺は未だに冒険者じゃないけれど。

 やはり上級冒険者との会話は色々と勉強になる。ここでシャロンに色々な事を聞けて良かった。まぁシャロンとしては、話を有耶無耶にしたかっただけなんだろうけれど。


「皆様方、本日はお集まりいただき、誠に有難う御座います」


 ふと、そんな声が聞こえ振り向くと、中年男性が一段高い檀上にいた。


「あの人は、アトリニアの宰相よ」


 そっとシャロンが耳打ちしてくる。貴族らしい華美な衣装を纏う宰相が、どうやらこの祝賀会の司会を務めるようだ。


「此度の皆様のご活躍を祝いて、このような席を設けさせて頂きました。僅かばかりではございますが、心より精一杯のおもてなしをさせて頂きたい所存でございます。それでは、此度の主催であらせられる国王陛下のお言葉を頂戴したく存じます」


 へぇ~宰相みたいなお偉いさんが、こんなに慇懃な態度で冒険者たちを迎えてくれるとは思わなかったな。


「アトリニア国王陛下、御入来!」


 サッと跪くのは、アトリニアの貴族たちだ。バッカード伯爵も臣下の礼を取っている。

 慌てて俺も跪こうとしたのだが、シャロンに止められた。


「別に私たちは臣下の礼を取らなくてもいいわよ。だって、私たち臣民でもないんだから」


 ふむ。確かに俺たちは臣民じゃないな。周りを見渡しても、冒険者の一部は跪いているようだが、大半はそのまま棒立ちだ。頭を垂れている冒険者は、元アトリニア臣民だったのだろう。


 目を向けると、ひと際華美な装いの老齢の男性がゆったりとした歩みで壇上に上がっている。

 貴族らしい華美な衣装を纏いながらも、まるで歴戦の猛者のような引き締まった体格。短く刈った髪は白く、生きた年月を物語っているものの、老いた印象は無い。

 中央に歩み出ると、国王は鋭い眼光で眼下を見渡す。


「面を上げよ」


 短い言葉ながらも、腹に響くような力強さ。頂点に立つ者特有のオーラとでもいうのか、そういった貫禄が感じられる。


「皆の者、此度は大儀であった。迷宮(ダンジョン)の最大の謎であった満月の夜の変遷。聞けば、大量の魔物に、あの伝説の迷宮(ダンジョン)の番人ヘカトンまで現れたようではないか。更にはそのヘカトンを討ったと聞かされた時は、流石の余も驚き申した。危険極まりないかの満月の夜、生き残った其方たちはまさしく英雄であろう」


 アトリニア国王がサッと視線で合図する。すると、布が掛けられた台車が運び込まれてきた。


「これがかの伝説の迷宮(ダンジョン)の番人ヘカトンの魔石である」


 アトリニア国王が徐に布を剥ぎ取った。その瞬間、息を呑む参加者たち。現れたのは、紫に輝く特大の魔石だった。

 俺も一度赤魔石は眼にしたことがあるけれど、紫は初めて目にした。それにしても大きい。俺が知っている魔石の中ではテニスボール大が一番だったけど、目の前にある紫魔石は、バスケットボールサイズだ。


「皆が驚くのも無理は無かろう。余とて、初めて目にしたときは大層驚いたものだ。さて、バルバトスよ、前へ」

「はっ」


 アトリニア国王に促され、チャーチルに拉致されていたバルバトスが、国王の前へ進み出た。


「この紫魔石は、其方たち冒険者が勝ち取ったものである。好きせい」


 え? まじ? 普通、こんな価値のある物って、国に取り上げられるのが通例じゃないの?


「お、お待ち下さいッ、陛下!」


 慌てて声を上げたのは、バッカード伯爵だ。


「そのような貴重な物を、冒険者へと下賜されるおつもりですかッ!」

「何を言っておる、バッカード。下賜も何も、この紫魔石は余が勝ち得たものではないぞ?」

「し、しかしッ!」


 アトリニア国王の言う事は至極まともだ。だが、バッカード伯爵は諦められないのか、国王に翻意を促そうとする。

 まぁ紫魔石なんて白金貨一枚は下らない逸品だ。いや、貴重性という観点から見れば、もっと価値があるだろう。


 なおも言い繕うとしたバッカード伯爵を遮って、バルバトスが静かに口を開いた。


「国王陛下、ひとつ提案があるのですが」

「ふむ、申してみよ」

「はっ。この紫魔石は、私たち冒険者全員の力で勝ち得たものであります。故に、この魔石を陛下に買い取って頂きたく存じます」


 紫魔石を買い取って貰う? 


「な、なにを言っておるのだ、バルバトスッ! 陛下に買い取って頂く? ふざけたことを申すな! このような貴重品は献上するのが常であろうッ! 無礼にも程があるぞ、バルバトスッ!」


 バルバトスの提案に、バッカード伯爵が激昂していた。他貴族たちも射殺らんばかりに、バルバトスを睨みつけている。が――。


「良かろう。バルバトスの提案を呑むとしようではないか」

「へ、陛下?」


 アトリニア国王の発言に、驚くバッカード伯爵たち貴族。


「この紫魔石は、余が私財を投げ打って買い取らせてもらおう。じゃが、一つ条件があるぞ?」

「はっ、何なりとお申し付けください」

「余からの条件は一つ。生き残った冒険者の皆で、平等に分配する事じゃ」


 えっと……白金貨一枚を満月の夜を生き残った冒険者全員に均等に分配するってこと? へぇ~アトリニア国王ってまともな人なんだなぁ。


「無論でございます、国王陛下。ご恩情、痛み入ります」


 バルバトスはサッと跪き、頭を垂れた。


「バッカード。このように決まった。余の私財であれば、国庫に負担は掛からぬであろう? 無論、余からこの紫魔石は、国に納めることにするがのう」


 ニヤッとアトリニア国王がバッカード伯爵を見詰める。国王にここまでされたら、臣下としては何も言い返すことが出来ない。バッカード伯爵は苦々しく唇を噛み締めながらも、それ以上何も口にはしなかった。


「ふむ、ではそのようにしようかのう。アルバート、任せたぞ」

「はっ、お任せ下され」


 アルバートとは、この祝賀会の司会を務めた宰相のことらしい。というか、バッカード伯爵だけが、今回の取引に口を挟んだけれど……そういえば宰相はずっと無言だったよな? という事は、あらかじめこうなる事は決められていたんだろうな。


「では、後の事は任せたぞ、アルバートよ」


 アトリニア国王は、アルバート宰相に任せると告げると、壇上を後にした。


「それでは、皆様方、祝賀会を始めさせて頂きます。とはいえ、今回の主賓は冒険者の方々であり、あまり堅苦しい式次第は無粋であると陛下が仰られておりました。故に、ここからは歓談の席とさせて頂きます」


 アルバート宰相が一礼して降壇すると、女給によって様々な料理が運ばれてきた。どうやらここからは楽しく食事でもしてくれという事らしい。


「ねぇねぇ、りゅうちゃん。新しいお料理だよっ」


 陽が目をキラキラさせて、俺の袖をグイグイと引っ張る。さっきまで一杯食べてなかったっけ? まだ食べるのか?


「まぁ好きなだけ食べればいいんじゃない? 俺はもうお腹いっぱいだけど」

「え~、折角のただ飯だよ? 食べなきゃ損じゃんっ」

「じゃあ、ヒナタさん。わたしも付いていきますので、取りに行きましょうか」

「うんっ、そう来なくっちゃっ。せっちゃんも行こっ」


 陽はソフィとせつなを連れ添って、運ばれた料理に向かって行った。


 祝賀会は歓談の席となり、それぞれ冒険者たちは楽しく談笑し、食事に舌鼓を打ち始めている。

 俺はそんな様子を壁際で見ていた。正直、お腹も一杯だしな。ちと休憩。


「お、坊主。こんな端っこにいたのか」

「あぁ、バルバトスさん。何だかお疲れ様です」


 ボーっとしている所にバルバトスがやって来た。


「あぁ、何だか気疲れしたわ。俺には、あんなの性に合わねぇんだがよ。誰かが代表しねぇといけなかったしな」


 苦笑しながらバルバトスは頭を掻いている。まぁ、豪快なバルバトスがあんなに慇懃な態度を取っているのは、正直少し変な感じだったけど。


「まぁ仕方が無いわよね。インクウェル唯一のミスリル冒険者だし。はい、コレ」

「シャロンか、サンキュー」


 シャロンがグラスをバルバトスに渡す。ついでに俺にも渡してきた。


「えっと……俺、酒はちょっと……」

「何、当たり前の事、言っているのよ。それはただの果実水よ。酒精なんて入ってないから問題ないわ」


 なら問題ないか。俺、あんまり酒に強くないしな。

 俺は器用に仮面の隙間から果実水を飲む。爽やかな甘味が口に拡がり、とても美味しい。


「ふ~ん、器用に飲むのね。素顔を見られるかと思ったのに、残念だわ」


 おい、シャロン……計ったのか?


「ハハ、あんまり虐めてやるなよ。リュウヤにも事情があるんだろうし」

「え~でも気にならない? ずっと仮面付けたままなのよ? 食事中も」


 ずっと仮面を付けっぱなしだと、確かに気になるよな。まぁ今はスフェーンによって隠蔽魔法を施して貰っているし、仮面を外しても中鬼族(ホブゴブリン)だとはバレないだろうけれど。


「やめとけって。どうやらリュウヤは見られたくないんだよ。仮面に隠蔽魔法だぞ? 滅茶苦茶ブサイクなんだろうさ」


 バルバトスさん……何でバレているのさ……。


「まぁブサイクでも私はいいけどねぇ~。リュウヤって魔術の才能があるし」


 やけにシャロンが突っかかって来るなぁ。よく見れば、少し頬に赤みが差している。酔っているみたいだ。


「絡むな、行き遅れ。あ、そういや、すっかり伝えるのを忘れてたが、お前もミスリルに昇級するらしいぞ」

「え? 私?」


 話題を変えたバルバトスの言葉に、シャロンは眼をパチクリとさせた。


「あぁ、何でも今回の件が、評価されたみたいだな。シャロン、ブリストン、クロマ。三人とも晴れてミスリルだ」

「まじ? それってホントなの? 嘘じゃないよね?」

「まじもマジ、大マジだ」


 三人もミスリルクラスに昇級か。まぁヘカトンなんていう化け物を倒したんだし、妥当か。

 シャロンはミスリルに昇級すると判って、「やったぁ~」と狂喜乱舞していた。テンションが高いのは、多分酒のせいでもあるんだろうけど。


「バルバトスさんも昇級ですか?」

「いや、俺はそのままミスリルだ。つーか、プラチナなんてなれねぇよ」

「何でです?」

「おめぇな……」


 はぁと呆れたようにため息を吐くバルバトス。


「プラチナクラスは今誰もなってねぇんだよ。つーか、過去に三人だけだ。プラチナになったのは」

「三人だけ?」

「そうさ。昔、魔王を倒した三人。勇者様と〝炎帝〟、それに〝剣聖〟だけだ」


〝炎帝〟……アドルフがプラチナクラス!?


「つーか、プラチナクラスってのは、その三人の為に作られたクラスなんだよ。それまではミスリルクラスが最高クラスだったんだ。俺がプラチナにあがるとすりゃあ、魔王を倒した時だけだ」


 へぇ~それは知らなかったな。というかやっぱりアドルフって凄い人だったんだな。ただのジジイじゃなかったのか。


「おっと、忘れる前にリュウヤに渡しておきゃなきゃならんもんがあったんだ」


 バルバトスは思い出したかのように言うと、革袋を俺に差し出した。受け取ると、ずっしりとした重みに落としそうになってしまう。


「な、何ですか、コレ。めちゃくちゃ重いんですけど」

「まぁそりゃ重いわな。何せそれ金貨だし」


 慌てて確認してみれば、革袋には大量の金貨が輝いていた。


「今回の報酬だ。あの紫魔石と大量の魔物の素材。それらを冒険者組合が必死になってかき集め、換金してもらった。一人頭、ざっと金貨二〇枚ってところだ。坊主の所は四人だろ?」


 という事は、この革袋には金貨八〇枚が!? や、やべぇ……。金貨一枚約一〇万円だとすると……八〇〇万!?


「悪いな、あんまり多くなくてよぉ。陛下との約束で今回の報酬は山分けなんだわ」


 少し申し訳なさそうにバルバトスは言った。


 何となくバルバトスが言いたいことが判った。俺たちのパーティーはバルバトスと共にヘカトンを討ち取った。本当はヘカトンから採取した紫魔石の分配は俺たちとバルバトスたちで山分けするのが筋だのだろう。しかし、国王との取り決めで、冒険者全員での山分けとなったって事だな。

 まぁ俺は特にお金には執着も無いし、困ってもいないからいいんだが。


《マスター、あまり欲が無いのは感心しませんよ。多大なる功績には、相応の褒章があるものです》


 そうは言ってもなぁ……こればっかりは仕方がないんじゃない? 国王様との約束なんだし。


《ならば、金銭とは別に報酬を頂くことにしましょう》


 別の報酬……?


《マスター、あの紫魔石にはスキルが付与されています》


 ハッとして未だお披露目されている紫魔石の方を見た。


「バルバトスさん、あの紫魔石って近くで見てもいいんですか?」

「ん? いいんじゃね? 持って帰るのは止めた方がいいがな」


 ガハハっと笑うバルバトス。いや……流石に盗もうとは思ってないよ。


 紫魔石を守護する様に兵士が脇を固めている。一応、許可を取るべきだな。


「すみません。少し見せてもらってもいいですか?」

「ん? 構わんぞ。陛下にも許可は頂いているしな」


 なら問題は無いな。近くで紫魔石を見せてもらおう。

 バスケットボール大の紫魔石。大量の魔素(マナ)が含まれている事が良く判る。今まで見た中で、一番だ。膨大であり、濃厚な魔素(マナ)


「凄いですね。俺、初めて見ましたよ」

「ふふ、そうだろう。キミのような若さでは見たことがないのも当然だな。まぁ俺らも初めて見たんだが」


 苦笑する兵士。というか、俺は子どもだと思われているのか……。なら、好都合だな。


「ホント、すっごいなぁ~。ちょっと触ってみよっと」


 出来るだけ天真爛漫な純真そうな子どもを演じながら、紫魔石に手を伸ばす。


「おい、バカッ! 何やっているッ!」


 まさか俺が魔石に触れるとは思っていなかったようで、兵士が慌てて俺の手を掴むが……ちょんと指先が魔石に触れた。

 その瞬間、俺は即座に固有能力(ユニークスキル)『簒奪』を発動させ、スキルを奪う。


《新たにスキル「怪力」、「頑強」を取得しました》


 おっし! スキル二つゲットだぜ! でも、特殊能力(エクストラスキル)「再生」は取得できなかったみたいだ。


 スキルが二つも取得出来て有頂天になる俺。だが次の瞬間にはゾクッとした悪寒が背筋を走った。


「何しているのかなぁ? キミは」

「えっと……あははは」


 俺の手を掴む兵士がにこやかに俺に微笑んでいるが……その額にはくっきりと青筋が浮かび上がっている。

 どうにか愛想笑いでその場を凌ごうとした俺だったけれど、その後兵士にたっぷりとお説教されましたよっと……。



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