第五八話 もう一つの戦い
不気味な紫の肌。地面を擦るほどまでに長く伸びた白髪。緩慢な歩みと共に揺れ動く前髪からは、ちらりと覗く紅い瞳。
魔へ落ちてしまった者の末路――魔人だ。
「噂では聞いていましたけれど、目の前にすると、途轍もない重圧ですね」
「あぁ、二度目だけど、やっぱり身体が震えて――って!?」
俺は驚き、バッと勢いよく振り向く。そこには、何故かユニウスがいた。
「な、な、何で、ユニウスが居るんだよッ!?」
「余りにも血相を変えて、走り出すものでしたから、思わず付いてきちゃいました」
えぇ……付いて来ちゃったって……。
「不味かったですか、リュウヤくん? あぁそうそう、マルクにはソフィさんたちと協力する様にと言い聞かせてきましたから」
そう言えば、いつもユニウスの背後に付き添うマルクの姿が見当たらない。って、それよりも……。
「不味いっていうレベルじゃねぇよッ! 相手はあの魔人だ。早く皆の元へ戻れ!」
流石に魔人を相手にして、ユニウスを気遣いながら戦うなんて、出来っこない。だからこそ、皆に何も告げずに走って来たってのに……。
「いえ、それは出来ません。魔人が相手だと判ってしまった今、尚更リュウヤくん一人にすることは出来ません」
いつになく真剣な表情を見せるユニウス。気付けば、彼の手は小さく震えていた。
圧倒的な強者を前にして、ユニウスは一歩も引く様子を見せない。彼も気付いているのだ。今回の全ての元凶は、目の前の魔人だと。この魔人を倒さないと俺らに未来はないと……。
「やれるのか……?」
「やるしかないでしょ?」
……そうか。覚悟した男にこれ以上、何かを言うのは野暮ってものだ。
「判った。なら、ユニウスには俺のサポートを頼む」
「サポート……ですか?」
「ああ。アイツの相手は俺が受け持つから、ユニウスは出来る事だけをしてくれ。絶対に、正面から戦うなよ」
流石にルーキーのユニウスには、魔人の相手は荷が重い。いや、こう言うと、俺なら相手にできると過信しているみたいだな。俺だって、どこまで戦えるか判らないんだ。
「……判りました」
ユニウスは渋々ながらも了承する。彼も判っている。自分が魔人に敵うほどの力が無いと。
正直、衆人監視の中、俺が本気を出すのは愚策だ。でも、そうと言っていられる状況じゃない。俺は魔人を見据え、腹を括る。
「〈蒼炎纏尽〉ッ!」
蒼い炎が身を包み、身体能力が飛躍的に向上する。魔人を相手にするなら、俺も初っ端から全速全開だ。
「それは!?」
驚くユニウス。だが、今は説明している暇はない。
俺は即座に地を蹴ると、疾走。魔人へと接近する。
近付くにつれ、冷徹な重圧が強くなっていく。俺は溢れ出す恐怖を必死に抑え込み、前を向いた。
魔人は……嗤っていた。まるで獲物を見つけたかのように、獰猛に嗤っていた。
瞬間、魔人が飛び出した。それまでの鈍重な動きとは違い、弾丸の如き疾駆。腕を振り上げ、拳撃を放とうとしている。
「チッ」
俺は地に足が付いた瞬間、即座に横っ飛びし、方向転換。その直後、魔人の拳が頬を掠めた。
「なッ!?」
思わず驚く俺。至近距離で見た魔人の顔に見覚えがあったのだ。それは……。
「ヒックか!?」
魔人から距離を取りながら叫ぶように言う俺。
何故……ヒックが魔人に……?
思考が駆け巡る。まさか魔人の正体がヒックだなんて……。
逡巡する俺に、魔人は答えることも無く、獣じみた咆哮を上げながら、俺に襲い掛かる!
戦術なんて何もない、直線的な拳撃。注意していれば、躱すのは容易だ。だが、一つ一つが途轍もなく重いッ。
ヒックの怒涛の攻撃を回避していく俺の頭の中には疑問が渦巻いていた。
ヒックは、俺たちに絡んできた冒険者だ。嫌な奴だとは思っていたけれど、彼が魔人にまで堕ちてしまう様な奴ではないと思う。それにそんな兆候は皆無だったし……。
「リュウヤくんッ!」
ふとユニウスの叫び声が聞こえた。あぁ、今は考え事している場合じゃねぇ!
何故、ヒックが魔人に堕ちてしまったのかなんて考えるのは後回しでいい。今はとにかく、このヒックを止めなければいけない。
ヒックの猛攻を掻い潜り、隙を見て反撃。顎にアッパーカットをお見舞いしてやる。
ゴンッ! と、鈍い手応え。
吹き飛ぶ魔人――ヒック。地に背中から落ちたヒックは、直ぐに立ち上がる。
「やっぱ、軟な攻撃じゃ、なんの痛手にもならねぇよな」
腐っても魔人。俺の拳撃くらいでは、何の痛痒も与えられていないようだ。
俺は即座に愛用の杖を取り出すと、魔法を詠唱した。
「〈白刃〉!」
杖の先端に吹き上がる白い炎。その炎は刃を形作る。
アドルフが最も使用していた炎魔法――〈白刃〉。俺は時間が余れば、いつもこの魔法の練習をしていた。今、その成果を見せる時だ。
――ブンッ! ブンッ!
〈白刃〉を振り、切っ先を魔人へと向ける。ヒックはそれを見て――ニヤリと嗤った。
◇◇◇
その頃、ソフィたちは……。
「ヤァァァア!」
裂帛の気合を迸って、陽がヘカトンへと斬りかかった。大剣を振り、ヘカトンの脚部へと斬撃を放つ。
しかし、陽の斬撃はヘカトンの表皮を浅く切り裂くに留まった。
己を害する陽へとヘカトンの目が向く。その瞬間、視覚外からソフィが攻撃を仕掛けた。
縦横無尽に双剣を振るうソフィ。しかし、陽同様、やはり浅く切り裂くのみ。
入れ替わる様にマルクも攻撃を仕掛けるものの――結果は他の二人と同じだった。
「嬢ちゃんたち、中々やるな」
それでも、戦力が増えたことによって、バルバトスたちにも余裕が生まれたのだった。
バルバトスは、ヘカトンに臆することなく挑むルーキーを見て、嬉しそうにニヤリと笑った。そのバルバトスに、光の粒子が纏わりつく。
羽の様に軽くなった身体。この魔法は光魔法〈アクセラレーション〉だ。振り返ったバルバトスの視線の先には、せつなが皆に付与魔法を施しているところだった。
(今年のルーキーは、見所のあるやつばかりだな)
バルバトスは、未来を担う有望なルーキーの出現に、嬉しさのあまり自然と口許が綻んだ。
「バルバトスッ! お前さんだけ、脚が止まってるぞッ!」
ブリストンの喝が飛ぶ。
「すまん!」
バルバトスは素直に謝罪。意識を切り替え、ヘカトンに挑んでいく。
ソフィたちが参戦することによって、随分と光が見えてきたヘカトン戦。攻勢も苛烈を極めた。
戦況が有利に傾き掛けた中、ただ一人、不服そうに口許を歪める者が。
「リュウヤは一体どこに行ったのよっ、もうっ!」
それはシャロンだ。前線は、ソフィ、陽が加わったことによって幾分余裕が生まれたが、後衛は全ての負担がシャロンに掛かってしまっていた。
「シャロンさん、皆に〈アクセラレーション〉を掛け終わりました! 次は何をすればいいですか?」
せつながシャロンに指示を乞う。それにシャロンは少し悩んでしまう。
(彼女の魔力では、牽制を任せる訳にはいかないわね……)
せつなの得意な光魔法では、リュウヤの時の様に、シャロンが風魔法でブーストすることは出来ない。それに魔力量がリュウヤとは違って、せつなはお世辞にも多いとは言えなかった。
「えっと……貴方は、少し魔力を温存しておきなさい。〈アクセラレーション〉の効果時間が無くなってしまったら、即座にかけ直す事! いいわねっ!」
「で、でも……〈ライトアロー〉で牽制しなくていいんですか……?」
せつなとしては、抜けたリュウヤの代わりを務めたいという気持ちが大きかった。だからこそ、そう言ったのだが、シャロンは……。
「貴方はリュウヤと違って、そこまで魔力が多いわけでは無いわ。今は魔力を温存しておきなさいっ!」
シャロンは強くそう言った。彼女として、それ程余裕がない現状、口調が厳しいものとなってしまうのも仕方が無かった。
「は、はい……判りました……」
暗い表情で頷くせつな。お前では力不足だ、と言われたようなもの。せつなは悔しさにキュッと唇を噛み締める。
「貴方は貴方の役割をしっかりとこなせばいいのよ」
シャロンはせつなの方を見ることなく、そう言い放った。シャロンとして、せつなの気持ちのフォローまでは出来ない。突き放した言い方だったが、それが返っていい結果を産む。
せつなはシャロンの言葉を受けて、ハッとした。
(私の役割……)
面を上げたせつな。その表情は先ほどまでの暗さは無くなっていた。
そしてせつなは、静々と詠唱を始める。その杖の先端には輝く光の輪が出現していた。
◇◇◇
魔人との戦いは熾烈を極めた。
魔人の拳撃を躱し、〈白刃〉を閃かせる。その度に肉が焦げる嫌な臭いが辺りを満たしていく。
戦況は有利。少しずつではあるが、あの魔人に痛痒を蓄積させていっている。
だが、俺は少し疑問を感じていた。あの魔人が、こんなにも弱かったのかと。
以前垣間見た魔人は、あの〝炎帝〟アドルフと互角の勝負を演じていた。いや、アドルフさえ凌いでいたとさえ言える。あの時に感じた圧倒的な重圧が、目の前にいる魔人には感じられなかったのだ。
その答えは、ラファから齎されることになる。
《マスター、解析が完了しました。魔人「ヒック」、等級は推定B+級です》
B+……? 魔人はA級じゃなかったのか?
《はい。魔人は組合の規定では、全てA級と定められていますが、存在値を計測した結果、B+と推測されます。理由は不明ですが、以前相対した魔人と比較すれば、遥かに劣った能力であることは間違いありません》
それは俺も感じていた。アドルフの弟子だったイリーガルに比べて、ヒックは明らかに弱い。俺でさえ、互角以上に渡り合えているのだから。
素直に俺自身が強くなったと言えればいいんだけれど……それは自惚れでしかない。多少は強くなったと思えるけれど、魔人イリーガルと戦って、有利に運べるかと聞かれれば、答えはノーだ。
魔人ヒックの拳撃を躱し、〈白刃〉を振るう。肉が焼け、ヒックの悲鳴が耳に届く。
疑問は尽きない。まずヒックが魔人になってしまっていた事。それに、魔人イリーガルに比べて、遥かに劣っている事。そして、満月の夜に合わせて魔人が出現したことも偶然とは思えない。
何か、裏がある……そんな気がしてならない。
浮かんでは消える数々の疑問。魔人と相対しながらも思考する余裕さえあった。
ヒックの拳撃が唸りを上げて迫り来る。
俺は身を屈め、それを回避。即座に反撃。飛び跳ねるかのように逆袈裟斬りを放った。
「グギャアァァアア!」
くぐもった悲鳴。〈白刃〉がヒックの脇腹を捉え、血飛沫が舞う。
堪らず後退するヒック。俺は逃さないとばかりに距離を詰め、追撃を加える。
刺突は肩を穿ち、薙ぎ払いは膝を捉え、怯ませる。
態勢を崩したヒックへと大上段からの一撃。
風を切り、唸りを上げる〈白刃〉が、ヒックの肩口へ直撃。
宙を舞う片腕。噴き出す紫血。耳をつんざくような絶叫。
俺の苛烈な攻勢に、魔人ヒックも成す術なく、その身体に傷を負う。
……よし、戦える! このまま押し切れば……。
今が勝負の決め所と思い、俺は手を休める事無く、ヒックに襲い掛かった。
「ハァァアア!」
裂帛の気合を迸り、〈白刃〉を閃かせ――。
「なッ!?」
俺は目を瞠った。突如として、魔人ヒックの存在値が爆発的に増加したのだ。
直後、伝わる鈍い手応え。それは〈白刃〉が受け止められてしまったという証。
残る片腕で〈白刃〉を受け止めたヒックは――ニヤリと嗤った。
「ガガァァアアア!」
ヒックの咆哮が爆ぜる。瞬間、猛烈な暗い波動が吹き荒れた。
暗い波動は、衝撃波を産み、俺をいとも簡単に吹き飛ばす。
《報告します。魔人「ヒック」の存在値が上昇。推定ランクB+からA-へと上方修正します》
吹き飛ばされる俺に、ラファのそんな報告が届く。
……一体、何が起ったんだ? いきなり存在値が上昇するなんて……。
身を翻し、辛うじて着地する俺。その俺の視線の先には、獰猛に嗤う魔人の姿が。
それはまるで、ここからが本番だと言うかのように、圧倒的な重圧を放っていた。
瞬間、地面が爆ぜた。いや、違う。ヒックが地を蹴ったんだ!
凄まじい爆速。意識した次の瞬間には、眼前にヒックが。拳を振り上げ、拳撃を放とうとしていた。
俺は無意識に〈白刃〉を掲げ――。
「クッ!」
ヒックの一撃を辛うじて受け止めた。が、その直撃は今までの比ではない。骨が軋むような一撃だった。
一体何が起ったのかと、思考を巡らせる俺。だが、即座にヒックの蹴撃が俺を襲う。
……クソッ! 考えている暇なんて無ぇ!
鞭のように撓る蹴撃を、身を捩って何とか躱す。が、ヒックの攻撃は止まらない。
片腕が失われたというのに、凄まじい猛攻の数々に、俺は防戦を強いられる。
「ギャハ、ギャハハハハハハアア!」
愉悦を含んだ声が酷く不愉快だ。しかし、形勢は一気に逆転。俺は反撃は愚か、ヒックの猛攻を辛うじて凌ぎ切るので精一杯だ。
〈白刃〉で受け止めるものの、伝わる衝撃が馬鹿にならない。気付けば、手に痺れさえ感じていた。
このままではマズい! 俺は自爆覚悟で炎魔法を至近距離で放つ。
「〈蒼炎〉ッ!」
掌を魔人ヒックに向け、灼熱の蒼炎を放った。
ゴォウ! と燃え滾る炎。至近距離で放たれた〈蒼炎〉はヒックを飲み込み、視界を蒼く染める。
よし、今の内に後退して、態勢を――。
「なッ!?」
「ギャハハハハア!」
態勢を整えるべく飛び退ろうとした俺の目に映ったのは、〈蒼炎〉を受けてもなお、醜く嗤うヒックの顔だった。
そんな、バカなッ!? 俺が練りに練り、考え生み出した〈蒼炎〉が利かない!?
目を瞠る俺。あまりの衝撃に呆気に取られてしまった。そのごく僅かな隙を魔人ヒックは見逃さない。
〈蒼炎〉を突き破り、鋭い拳撃が俺を襲う!
「ぐ、はッ」
無防備な懐に凄まじい一撃が。直撃を受けた俺は、口から血を吐き、紙切れの如く吹き飛ばされてしまう。
無残にも地を転がる俺。余りの衝撃に、一瞬意識が飛んでしまった。
「がはッ、が、は……」
蹲り、血を吐き出す俺。凄まじい痛痒に、視界が明滅する。
「リュウヤくん!?」
ユニウスの焦ったような声が耳に届き、俺は何とか面を上げる。視界に映ったのは、猛烈な勢いで迫り来る魔人ヒックの姿。
口許を歪め、ヒックは愉悦に恍惚としているようだった。
迫り来る脅威に、激しく警鐘が鳴る。直ぐに立ち上がらないと……殺られる!
死の実感が押し寄せ、身体を震える。何とか立ち上がろうと試みるも、思うように力が入らない。
未だ蹲る俺。迫り来る魔人ヒック。彼我の距離はもう無い!
醜悪に嗤うヒックが拳を振るった。俺は成す術なく、その光景を見る事だけしか出来ない。
あぁ……俺……死ぬんだ……。
ゆっくりとスローモーションで迫り来る拳。刻一刻と近付く死に、俺は諦念の境地に陥っていた。のだが――。
「――ッ!?」
ふと、視界がブレる。眼前まで迫っていたヒックの拳が視界から消え、視界が上下左右に転がり回転する。
一体何が起ったのか、俺には判らなかった。ヒックに殴り飛ばされたのか……? いや、それにしては、どこも痛く――。
その瞬間、耳に届く悲鳴が。
「あああぁぁぁぁぁああ!」
ハッとする俺。意識が明瞭になり、サッと眼を向ける。そして、目を瞠った。
僅か先にヒックの姿。そして……ヒックの拳撃を受けるユニウスの姿が。
凄まじい一撃は、ユニウスの腕を砕き、吹き飛ばした。
地に転がるユニウス。ヒックの一撃を受け止めた右腕は、あらぬ方向へとひん曲がっていた。
俺は理解した。ユニウスが身を呈して、俺を庇ったのだと。
そして同時に思い起こされるアドルフの最期。それがユニウスに重なって見えた。
その瞬間、何かが頭の中で爆ぜる音が聞こえた。
「てめぇ……」
地の底から唸るような声が漏れ出る。俺は立ち上がり、ヒックを睨み付けた。
「ギャハ、ギャハハハアア」
酷く不愉快な嗤い声が、俺の怒りを爆発させる。
「てめぇだけは許さねぇぇぇええ!」
俺は咆えた。その次の瞬間には、ヒックへと襲い掛かっていた。
嗤い声を上げていたヒックは、俺の接近に気が付き、振り向く。
視界が真っ赤に染まった俺は、振り向いたヒックの頬を――ぶん殴る!
「グハッ!」
拳がヒックの頬にめり込み、吹き飛ばした。
土埃を上げ、地を転がっていくヒックは、仰向けに倒れ、動かない。
ここで追撃を加える場面だが、俺は即座にユニウスの元に駆け寄った。
「ユニウスッ!」
呻き声を上げ、仰向けに倒れているユニウス。良かった……まだ間に合う!
俺は魔法鞄から上薬水を取り出し、強引にユニウスに飲ませた。
「ゴホッ……うぅ……リュウヤくん……?」
薄っすらと目を開けるユニウス。激痛がその身を駆け抜けているのだろう、酷く苦しそうな表情だ。
「ユニウス、何で俺を庇ったりなんかしたんだ!」
俺は荒れ狂う怒りのままに、ユニウスに強く言った。
「ハハ……それは僕にもよく判ってなくて……」
弱々しく苦笑するユニウス。
「気付いたら身体が動いてました……」
「馬鹿かよ、お前は……下手したら死ぬところだったんだぞ!」
そうだ。俺でさえヒックの一撃は相当堪えたのだ。ルーキーであるユニウスなら、下手すると死んでいたかもしれない。
「そう……ですね……ただ……一つだけ……今なら判ります……」
ユニウスの言葉は弱々しい。サッと、ユニウスの状態を確認する。
……よかった。かなり憔悴しているけれど、命に別状は無さそうだ。
「あの……魔人……を……倒せるのは……リュウヤくん……し……か……いない……って……」
そう途切れ途切れにユニウスが言うと、彼は力尽きたかのように、そのまま眠ってしまった。
静かな寝息が聞こえ、ホッと安堵する。俺はユニウスをそっと横たわらせると、その上に予備のローブを掛けた。
立ち上がった俺は振り向いた。その視線の先には、今同じく立ち上がった魔人ヒックの姿が。
「ユニウス、後は任せておけ」
灼熱する気持ちを抑え付け、俺は静かな闘志を燃やす。




