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第五〇話 迷宮村リビア


「あれ……ここは……」


 意識を失っていたソフィが目覚め、起き上がった。周りをキョロキョロと見渡し、眠気眼を擦っている。


「おはよ、ソフィ。体調はどうだ?」


 傍で見守っていた俺がそう声を掛ける。


「あ……おはようございます、リュウヤさん。えっと……ちょっと頭が痛いですけれど、問題ありません」


 軽い頭痛か。強引に魔力を引き剥がしたんだ。多少の影響は出るとは思っていたけれど、軽い頭痛のみなら問題はないだろう。


 軽く頭を抑えるソフィ。すると、ハッとして、眼を見開き、辺りを見回していく。


「リュウヤさんっ! シルバーコングは? どうなったんですか?」


 慌てるソフィを見ていると、どうやら自分が暴走した記憶は無くなっているようだ。


 俺は慌てるソフィに「落ち着け」と優しく微笑む。


「大丈夫だよ。シルバーコングは無事撃破した。最後はソフィが倒したんだぞ? やっぱり覚えていないか?」

「え、わたしが……!? あ、いえ……やっぱりアレは夢じゃなかったんですね。まるで夢のような朧げな記憶は少しあります。でも、あれが現実だったのなら、わたしは……ヒナタさんに酷い事を……」


 ふむ。夢を見ているかのような曖昧な記憶はあるのか。


 がっくりと落ち込むソフィ。その背後から陽が優しく肩を抱く。


「気にしない、気にしなぁ~い。フィーちゃんは、ちょっと暴走気味だったしね。あ、でもその前に、ボスを瞬殺したのは凄かったよっ。ビュンッて、瞬間移動したみたいにすっごい速さで移動してさっ」

「うん……凄かった……」


 明るく振舞う陽の横で、せつなも微笑みながら頷く。


「でも、わたしは……」


 それでもソフィは暗い表情で俯いた。やはり仲間に敵意を向けてしまった自分が許せないのだろうな。


 落ち込むソフィ。どう声を掛けようかと悩んでいると、ソフィが枕にしていたモモがにょろにょろと動き、ソフィの膝の上へ。

 触手を伸ばし、ソフィの頭をなでなでする。


「モモさん!?」


 これには大層驚くソフィ。


「あはは、モモちゃんも言っているよっ。『元気出して』って」


 モモを代弁した陽が楽しそうに笑った。確かに気落ちしたソフィを慰めているように見える。

 頭を撫でられながら、少し茫然としていたソフィは小さく呟く。


「ありがとう……ございます……」


 少し恥ずかしげなソフィ。その瞳にはほんの少し輝く物が浮かんでいた。


 そんな一人と一匹のやり取りと羨ましそうな瞳で見ているせつながぽつりと零す。


「わ、私も……なでなで……してほしい……」


 うん……後で撫でて貰え。


 さて、ソフィが起きた事で、俺たちも行動することに。

 一応、ソフィが暴走した際の詳細も伝えた。


「ごめんなさい、リュウヤさん。いつも迷惑を掛けてばかりで……」

「陽じゃないけど、気にするなよ。別に問題は起こらなかったんだし」

「そうそう。気にしちゃダメだよっ。失敗したと思ったのなら、次は上手くやればいいんだし」

「な、なでなでが……」


 うん、。たまには陽も良いこと言う。俺もその通りだと思う。そしてせつな、モモになでなでしてもらえなかったからって、そんなに落ち込むなよ……。


「皆さん、ありがとうございます。わたし、少し焦っていたのかもしれません」

「焦っていた?」

「はい。ヒナタさんは新しいスキルを取得しましたし、セツナさんも新しい魔法を覚えました。わたしだけ全然成長できていないなぁって思って……」


 確かにこの迷宮(ダンジョン)に来てから、陽、せつなの成長は著しい。なるほど。それがソフィの焦りだったのか。それで、ソフィも何か新たな力を手に入れようと必死で……その結果、暴走を起こしてしまった。


「そうかなぁ? フィーちゃんもこの迷宮(ダンジョン)に来る前に比べると、かなり成長していると思うよ?」

「うん、陽の言う通りだ。新しいスキルや、魔法だけが成長じゃない。ソフィだって成長しているんだ。だって、シルバーコングと互角以上に渡り合えていただろ?」


 そうだ。ソフィは一回り大きいシルバーコングと渡り合えていた。苦戦を強いられていたとしても、ソフィが抑えることによって、他二体を撃破するだけの時間が稼げたんだ。


 俺はしっかりとソフィを見詰める。身長差で見上げる形になってしまうけれど、それでも真剣に真っ直ぐソフィを見た。


「急がなくていいんだ。ゆっくりでいいんだ。慌てず、ゆっくりと成長していこう。大丈夫、何があっても俺が何とかするからさ」

「は、はい……」


 真剣な俺に、ソフィは戸惑いながらもしっかりと頷く。

 そんな俺たちを見守っていた陽が、ニヤニヤとした顔で茶々を入れた。


「なぁ~に、りゅうちゃん? それって一生傍にいるっていう、プロポーズぅ?」

「ば、ばっか、違ぇよッ!」


 慌てて否定する俺。チラッとソフィを見ると、ポッと頬を赤く染めていた。そして、その様子をニヤニヤしながら陽が見ている。


「と、とにかくッ! ソフィ、新しい力を試す時は、先に俺に言ってくれ。いつでも手伝ってやるから、一人で悩むんじゃないぞ、以上ッ!」


 俺は口早にそう言い切ると、スタスタと先に下層へ続く階段へ向かう。陽のせいで、なんか気恥ずかしくなったしな。


「良かったねっ、フィーちゃん」

「は、はい……」

「あ、でも、あたしもりゅうちゃんに教えてもらうよっ。いいでしょ、りゅうちゃぁ~んっ!」


 後ろから陽の大きな声が聞こえて来る。


 俺は振り返ること無く、片手を上げて、ぞんざいに答える。


「あ~はいはい、判った、判った」


 というか、陽に俺が教えられることってあるのか? 俺は魔術師だぞ?



 ◇



 一一階層へ至る階段を降りていく俺たち一行。

 ソフィも少し元気を取り戻り、女三人で仲良く喋っている。


 階段を下りきると、洞窟のような一本の長い通路。その先からは眩い光が差し込んでいる。

 ドキドキワクワクしながら通路を進み、そして……。


「わぁ~!」


 思わず感嘆の声を上げる陽たち。そこに広がるは、自然豊かな大草原だった。


 差し込む光が大草原を眩く照らし、そよぐ草花が躍る様に揺らめく。濃い緑一色の草の海が鈍く銀色に輝く光景は、疲れた心を洗い流していくかのよう。


「すっごいねっ。あたし、びっくりしちゃったよっ! んん~空気もすっごく美味しいっ!」


 興奮してそういうのは陽だ。大きな胸を揺らし、深呼吸している。


「ピクニックとかしたら……気持ち良さそう」


 せつなは可愛らしいことを言っている。


「何だか、故郷の村を思い出します」


 最後に感想を口にしたのはソフィ。確かにソフィの生まれ育った村の近くには草原地帯があった。まぁその草原は、魔人との戦いで惨憺たる有様となってしまったが。


「それにしても、外みたいに明るいね。天井も青くてお空っぽいし。あ! あのクリスタルみたいなのが、太陽の代わりなのかな?」


 陽が指差す先には無数のクリスタルが。天井から伸びるクリスタルからは眩い光が差し込んでいる。


「スフェーンさんが言ってました……あのクリスタルは……お外と同期して……夜には暗くなってしまうそうです……あ……でも……クリスタルの先端が……少しだけ輝くみたいです……」


 迷宮(ダンジョン)村リビアについて俺たちが知ったのは、スフェーンに教えてもらったからだ。せつなはスフェーンに色々と情報を聞いていたのだろう。真面目なせつならしい。


「へぇ~それは夜も楽しみだねっ。星空みたいになるのかなぁ?」


 頤に指をあて、上を向いて想像する陽。いや、想像なんてする必要は無いだろ。夜になれば判るんだし。ホント、陽はちょっと子どもっぽい所があるよな。


「あっ! リュウヤさん、あっちを見て下さい。あれじゃないですか?」


 パンパンと俺の肩を叩くソフィ。ソフィが指差す方に視線を向けると、そこには何やら建造物が密集している地域が。丁度、この階層の中心部辺りだな。


「うん、あれっぽいな。とにかく行ってみよう」


 俺は皆に声を掛け、その場所を目指す。

 草原はまるで緑の絨毯。フカフカで、横になればさぞかし気持ちがいい事だろう。気温もいい感じだし、風も無いしね。というか、風が無いのに草花が揺れる不思議。どんなに自然豊かでも、やはり迷宮(ダンジョン)の中だと、変な所で気付かされる。


 気持ちよく歩くこと暫し。俺たちはやっと一一階層にある迷宮(ダンジョン)村リビアに到着した。

 数多くの冒険者が訪れたであろう入り口には、『リビアへ、ようこそ』と、でかでかとゲートに書かれている。


「本当に迷宮(ダンジョン)の中に村があるんですね」


 興味津々でソフィが辺りを眺めている。迷宮都市インクウェルに比べれば、見劣りしてしまうかもしれないが、迷宮(ダンジョン)の中ということを考えれば、立派な村だ。少なからず、スフェーンが店を構えている西街よりは。


 行き交う人は冒険者ばかり。それでも活気に満ちた雰囲気に包まれていた。

 簡素ながらも木造建築が立ち並び、多くの露天商が冒険者相手に商売をしている。


「へぇ~色々売っているんだね。砥石とかもあるし、一つ買っておこうかな」


 露店に数多く並ぶ品々は、どれも冒険には欠かせない必需品が多い。中には奇妙な木彫りの何かを売っている怪しげな商人もいるが。この木彫りは……お土産品かな?


「げ……何、この値段……」


 陽が砥石に貼られた値札を見て、思わず口を滑らせてしまった。当然、商人にもそれは聞こえており、ギロッと陽を睨み付ける。


「なんじゃい。うちの商品にケチ付けようってか!」


 頬に傷アリの商人が、恫喝するかのような低い声で不快感を露にする。その鋭い眼光に、陽では無くせつなが、ひぃっと悲鳴を上げた。


「あはは、ごめんなさいっ。全然、そういうつもりは無くて……。ちょっとびっくりしちゃったの。あたしたち、ここに来たばっかりで相場も良く判ってなくて」


 ニコニコと明るく弁解する陽。それに商人は納得したかのように、ああと頷く。


「あぁ、ルーキーか。なら仕方がねぇな。この村で売っている品はどれも大体この値段だ。上の街とは値段が違ってくるのは仕方がねぇんだよ。リビアまでの移送費がどうしてもかかっちまうしな」

「へぇ、そうなんだぁ~。じゃどれも一・五倍くらいの値段?」

「あぁ、大体な。けど、うちの商品は他よりも品質に拘っている。買っていっても損はさせねぇぞ?」


 コワモテの商人が笑うと何とも凄みがあるな。というか、笑わないでくれ。せつなが俺の後ろで震えているからさ……。


「ふむふむ。なら、おっちゃんを信じて、砥石を一つ買っちゃおうっ」


 よく陽は、普通に話せているよな。こんなに怖そうな人なら、普通の女子高生なら怖がるだろ。せつなみたいに。


「はいよ、毎度あり」

「ありがとっ、おっちゃん」


 硬貨と引き換えに、砥石を受け取った陽。すると、商人が一言。


「てか、嬢ちゃん。オレはまだ一九だ。おっちゃんと呼ばれるにはまだ早いんだけどよ」


 一九……歳!? このコワモテの商人が!?


 衝撃の告白に、流石の陽も眼をパチクリとさせていた。


 露店を後にし、俺たちはリビアを散策することに。


 といっても、ここは商人の村だ。迷宮(ダンジョン)に挑戦する冒険者に対して、商売を始めたのが、この村の成り立ち。売られている品々ももっぱら冒険必需品ばかり。どの店も同じような品揃えだ。


「いい人だったねっ」


 陽が歩きながら、先ほどの商人について言った。


「ああ、確かにいい人だったな。まぁあの顔で一九歳なのは、さすがに驚いたけど」


 俺が率直な感想を言うと、陽はニシシと笑う


「だよねぇ~。老け顔にも程があるよね。あたし、絶対四〇過ぎだと思ったし」


 まぁ確かに俺もそれくらいだと思ってたけど。


 そんな他愛無い話をしながらリビアの村を歩いていると、ソフィがある提案をしてきた。


「皆さん、お腹空きませんか?」


 言われてみれば、今日はまだ朝食に堅パンを食べただけだ。昼頃に丁度ボス部屋についたし、ちゃんとした食事は摂っていない。

 頭が食事に意識をシフトした瞬間、気付いた。何だか辺りを漂う美味しそうな匂いが。


 あ、そうか。ソフィはこの匂いを嗅いで、お腹が減ったんだな。狼人族(ライカンスロープ)は鋭い嗅覚を持っているし。


「うん、そうだな。そろそろ飯にするか」

「賛成ぇ~!」


 陽もお腹が減っていたのか、ピッと手を勢いよく挙げた。見れば、せつなも恥ずかしそうに控えめながらしっかりと手を挙げている。


「そんじゃあ、飯にしよう。ソフィ、よろしく」


 俺が何のためらいもなく、ソフィに案内を頼むと、陽が驚いて言う。


「え? フィーちゃん、リビアに来た事あるの? 迷宮(ダンジョン)に来たのは初めてって言ってなかったっけ?」

「は、はい。ここに来た事は無いですけど……その……」


 陽の追及に口籠るソフィ。その頬は少し赤く染まっていた。


「陽、まぁいいから。ソフィに任せておこう」

「いや、それはいいんだけれど……」


 何だか煮え切らないといった表情をする陽。対してソフィは、チラッと俺を見ると、恥ずかしそうに顔を俯けた。


 ソフィの嗅覚――もとい、案内に従って進む俺たち。雑多な街並みを迷うことなく進むソフィについていくと、一軒の食事処に到着した。入り口から美味しそうな匂いが漂ってくる。


「うわぁ~すっごく美味しそうな匂いっ。早く入ろっ!」


 匂いに釣られて、陽が先に中へ入っていく。ホント、せわしない奴だ。

 すると、せつなが突然あっと声を上げた。


「ん? どうしたんだ?」


 気になってせつなに訊くと、せつなは言っても良いのか少し迷った後、躊躇いがちに答えた。


「えっと……ソフィちゃんが……何で来た事が無い場所を知っていたのか……気になってて……」


 チラッとソフィを見るせつな。あぁ、せつなもどうしてソフィがこの場所を見つけたのか、その方法が判ったんだな。

 当のソフィは、文字通り『匂いに釣られた』という事が恥ずかしいようで、頻りに髪を撫で付けて顔を隠そうとしていた。


 まぁとにかく、陽が先に入ってしまったし、俺らも後を追う事に。


 店内は比較的広く、多くの冒険者で賑わい、とても繁盛しているようだった。これだけの客がいるってことは、料理にも期待できるな。ソフィの嗅覚に任せて正解だった。


 客はやはり冒険者だけ。いや、中には商人らしき人も見かけられる。武器を携行した冒険者が集まると、どうしても物騒な雰囲気に感じてしまうが、それでも店内は和気あいあいとした楽しい空気に包まれているようであった。


「皆、遅い~。こっちこっちっ」


 陽が大きな声で俺らを呼ぶ。というか、恥ずかしいからやめてくれ……。


 多くの客で賑わっているので、少し待つかなぁと思ったが、奇跡的に人数分の席が空いていた。


「何やっていたの?」


 俺たちが遅かった訳を陽がせつなに訊く。


「えっと……」


 どう答えていいものか判らす困惑しているせつな。その視線の先には、やっぱり恥ずかしそうなソフィの姿が。


「まぁ、そんなことはどうでもいいだろ。とにかく腹が減ったよ。何か注文しよう」

「あ、メニューは壁に書かれているみたいだよっ」


 陽の注目が壁際に書かれたメニューに移ると同時に、せつなとソフィがホッと胸を撫で下ろした。女の子としては、やっぱり恥ずかしいんだろうな。


 壁に書かれたメニューはどれも俺が知らない名前ばかり。とは言っても、○○のステーキ、○○のサラダ、そして○○のスープといった表記なんだけれど。その○○に入る名前が良く判らない。多分、食材の名前だと思うんだけど……。


「う~ん、どれが美味しいのか全く判らないな。パルメリーチのサラダって、何だ? チーズか?」

「パルメリーチは、確か魔物の名前だと思います。どこかで見た記憶があるんですけど……あれ? どこだったかな……?」


 記憶を探る様にソフィが言った。といか、魔物!? 魔物って食べられるの!?


「まぁ悩んでも判らないものは判らないんだし、店員さんにお任せしてみようよ。何が出て来るかは、その時の楽しみってことで」


 陽が楽しそうに提案してきた。まるでロシアンルーレットみたいなんだけれど……。

 まぁそれでも店員にオススメを聞く案は良いと思う。俺たちの中でもっとも社交的な陽が店員を呼び、次々と注文していく。


 料理を待つ間、話はボス戦の報酬に移る。


「そう言えば、りゅうちゃん。あの……何て言うんだっけ? あの白いゴリラみたいなモンスターから、何色の魔石が取れたの?」


 せつなが苦笑しながら陽に名前を教える。


「陽さん……シルバーコングです……」

「そうそう、シルバーコングっ」


 そんな簡単な名前、よく忘れられるよな……。


「えっと、魔石は……」


 俺は魔法鞄から魔石を取り出し、テーブルの上へ置く。


「緑色なんだねっ。でも、あれ? 一体だけ大きいモンスターいたよね? フィーちゃんが戦っていた奴。あれからも同じ緑魔石が出たの?」

「そう。三つとも緑魔石だったよ。確かにソフィが相手にしていたシルバーコングは、他の二体よりも大きくて、明らかに強かったけれど、魔石としては一緒みたい」


 テーブルの上には緑魔石が三つ。もうどれがどの奴から出た物か判らない。


「えぇ~なんか損した気分だよぉ~」


 陽がテーブルに突っ伏し、げんなりとしていた。


「でも、悪い事ばっかりじゃなかったよ」


 俺がそういうと、陽がバッと勢いよく面を上げた。

 俺は前のめりになって、少し声を抑えながら言う。


「一つ、ソフィが戦っていたシルバーコングから採取した魔石に、スキルが付いていたんだ」


 俺がそう告げると、三人は驚くように目を見開く。


「この迷宮(ダンジョン)に来てから、初めてじゃないですか?」


 ソフィが言うように、この迷宮(ダンジョン)で初めてのスキル付き魔石だ。


「で、どんなスキルだったの?」


 陽がワクワクした顔で訊いてくる。ソフィもせつなも気になるようで、じっと俺を見詰めていた。


「それは……」


 あまり人に聞かれたくない話だ。俺は手招きして、皆を近付ける。

 顔を至近距離で突き合わせる俺たち。幸い、店内は賑わっており、俺たちに注目している者は居ない。


「そのスキルは……」


 小さな声で囁くように言う俺。誰かがゴクリと生唾を飲んだ音が聞こえた。


「そのスキルは?」


 堪らず陽が訊き返してくる。ワクワクした顔だ。多分、いや絶対に驚くな。

 俺ははっきりと告げる。


「そのスキルは……「大声」だ」


 数刻の沈黙。そして……。


「………………………………は?」


 陽が呆然として言った。ほら、驚いただろ? 間抜けな面晒しているよ。


「ちょっと待って。もしかしたら、あたしの聞き間違いかもしれない。もう一度言ってくれない?」


 あまりの衝撃に自分の耳を疑う陽。頭を振ってもう一度俺に訊き返してくる。


「だから、新しいスキルの名前は「大声」なんだよ」

「えっと……」


 困惑するソフィとせつな。陽は理解出来ないと頭をしきりに振っている。


「ホントに、ホント?」

「うん。ホントにホント。大マジだ」

「えっと……それってどんな効果なんです? もしかしたらすごく強い効――」

「ただ大きな声が出せるだけだ」


 ソフィの言葉を遮って俺は言った。いや、言い切ってやった。


 すると、堪らず陽が吹き出し、腹を抱えて笑う。


「あははは、何それ、ウケるぅ~」


 いや、ウケねぇよ。というか、何だよ、「大声」って……。


 俺は新スキル「大声」を取得したのだった。……いや、マジいらんから……。



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