第四九話 vsシルバーコング戦 その2
気合を入れ直した陽の反攻が始まった。
〈アクセラレーション〉によって増加した速力を活かして、シルバーコングに襲い掛かる。
「ハァァアア!」
気合を迸って、次々と斬撃を放つ陽。
怒涛の攻勢に、シルバーコングは防戦を強いられる。
大上段からの振り下ろし、回転しながらの横薙ぎ、踏み込んだ勢いを乗せた刺突。
辛うじて対応しているものの、シルバーコングが徐々に押され始めていく。
「GuLLu……」
苦悶を漏らすシルバーコング。陽の斬撃を迎え撃つ度に、剛腕にはいくつもの傷創を負い、刃を受け止める拳は紫血に塗れていく。
どれも致命傷ではないものの、徐々にシルバーコングの体力が削られ、次第に動きが緩慢になり始めた。
そうなれば、陽の勝利は目前だ。更にスピードを一段階を上げ、フルスロットル。
荒れ狂う嵐のような斬撃の数々に、シルバーゴングも対応しきれない。
捌ききれない刃がシルバーコングの身体を徐々に傷付けていく。
堪らず後退するシルバーコング。しかし、逃がすまいと、すかさず陽が踏み込んでいった。
「逃がさないっ!」
態勢を整えさせるわけにはいかない。陽は踏み込みと同時に、重心を乗せた斬撃を放った。
シルバーコングは、咄嗟に片腕を掲げるが……。
「オッラァァアア!」
裂帛の気合を迸らせた一太刀は、容赦なくシルバーコングの片腕を斬り飛ばした。
肘下から噴き出す紫血。激痛に歯を食いしばるシルバーコング。
勝負あり。そう思われた一撃だったのだが……不意にシルバーコングがニヤリと嗤う。
見れば、シルバーコングは態勢が流されながらも、残された右腕に力を込めている。
一方、陽は不用意に踏み込み、乾坤一擲の斬撃を放ったばかりだ。とても反応できる体制ではない。
「GuGAAaaa!」
咆えるシルバーコング。血管が隆起する程、膂力の込めた拳撃を放った。
万事休す。無防備な陽は避けられない。
シルバーコングの拳撃が陽を襲い掛かり……。
「負けるかぁぁあああ!」
まるで気迫と気迫のぶつかり合い。先に呑まれた方が負けると言わんばかりの……。
シルバーコングに劣らぬ咆哮を上げた陽は……なんと左腕でシルバーコングの拳撃を受け止めた!
いや、受け止めたんじゃない……左腕を犠牲にしたんだ……。
あらぬ方向へ圧し曲がる左腕。激痛に歪む陽の顔。
それでも負けないと、悲鳴をグッと飲み込む陽。
これには俺も、そして、相対するシルバーコングさえも目を瞠った。
僅かな間隙。一瞬の隙がシルバーコングに。それを見逃す陽では無い。
即座に陽は右腕一本で大剣を振るう。
横薙ぎに閃く大剣はシルバーコングの横腹を捉え……。
「これで終わりだぁぁあああ!」
喉が割けんばかりに叫ぶ陽。
シルバーコングの横腹を捉えた刃が肉を断ち、そして、上下に肉体を分かつ。
ぐらりと滑り落ちていく上半身。シルバーコングは最期まで驚愕したまま、その命を儚く散らせた。
大剣を振り切った態勢のまま、陽は肩で大きく息を繰り返す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
長い髪が顔を覆い、その表情は見えない。左腕が力なくぷらぷらと揺れている。
「おい、陽!? 大丈夫かッ!?」
慌てて駆け寄る俺。すると、陽は大剣を地面に突き刺し、そして……。
「大勝利っ、ブイっ!」
バッと顔を上げ、俺に向けてピースサイン。その陽の表情は、とても晴れやかだった。
「いや、そんなこと言っている場合じゃねぇよッ! 大丈夫なのか!? その腕」
「う~ん……正直、ヤバヤバかも。すっごい痛い」
あははと笑う陽。よく見れば額に夥しい脂汗が浮かんでいる。
俺は直ぐに魔法鞄から上薬水を取り出す。残り少ないアドルフ謹製の上薬水だが、惜しんでいる場合じゃない。
「陽、口を開けろ」
いつになく強い口調で言う俺に、陽は戸惑っている。
「え? じ、自分で飲めるよっ!」
「いいから、さっさと飲めッ!」
「ちょっ――んぐっ」
有無を言わさず、俺は陽の口に上薬水を突っ込む。強引な俺に、陽が目を見開いて驚くが、そのまま何とか嚥下していく。
「ぷはっ! もう、りゅうちゃん、強引なんだから」
「強引なのは陽だよ。シルバーコングの拳を受け止めるなんて、無謀過ぎるだろッ! 心配しただろうがッ!」
上薬水を飲んだ陽の顔色が少し良くなってホッとした。だけれど、完治には至ってないようで、未だに左腕はぷらぷらしている。
「し、心配してくれたの?」
もじもじとしながら訊いてくる陽。そんなの心配するに決まっている。というか、陽は無謀な事ばっかりで、俺の中で心配な人ランキング堂々の一位だ。もう少し落ち着いてほしいよ……。
「はぁ……めちゃくちゃ心配したっての。もう、無茶な事はするなよ」
「う、うん……頑張る」
いつになく素直に言う事を聞く陽。
こうやって陽に怒ったのは、何だか久しぶりだな。昔はよく陽に怒っていたっけ。
少し懐かしい気分になっていると、陽があっと声を上げた。
「あっ! フィーちゃんは?」
陽の声に、俺はソフィの方へと視線を向ける。
ソフィは未だ苦戦を強いられているようだった。
ソフィが相手をしているシルバーコングは、せつな、陽が撃破したシルバーコングよりも一回り大きく、尚且つ他の二体よりも圧倒的に強い。
身のこなしの軽いソフィだからこそ、苦戦ながらも渡り合えているのであって、せつな、陽が相手だったら、ここまで持ち堪えていないだろう。
「あたし、行かなきゃっ!」
苦戦を強いられているソフィの援護に、陽が向かおうとする。だが、俺が右腕を掴んで、それを留めた。
「そんな状態でどうするって言うんだよ。まだ痛みがあるんだろ?」
そうだ。いくら上薬水と言えども、即、完治という訳ではない。服用者の自己治癒能力を活性化させ、回復を促進するだけ。それでも凄まじい効果なのだけれど。
今、陽が援護に行ったとしても、足手まといになるのは眼に見えている。だから俺は陽を止めたのだけれど……。
「まだ必死に戦っている仲間がいるんだよっ! 痛いからって安全な場所から眺めているだけなんて、あたしには出来ないっ!」
真剣な表情で強く言い切った陽。陽らしからぬ力強い瞳に思わず気圧されてしまう。
俺は……陽の右腕を掴んでいた手をそっと放した。
「無茶するなよ……」
「うん、判ってるっ! 行って来るよ、りゅうちゃんっ!」
ニコッと微笑んだ陽は、大剣を引っ提げて、ソフィの元へ走っていく。
《マスター、皆、知らぬ内に成長しているようですね。あの娘の過去からは考えられぬ強さが、今の彼女にはあるようです》
親に虐待され、誰も信じることが出来なくなった陽。そんな陽が、誰かの為に身体を張るようになるなんて、あの頃は想像もしていなかった。
無口で暗くて、いつも死んだような眼をしていた彼女が……。
《人は変わる生き物です。決してそのままではいられない。必ずプラスか、マイナス……どちらの方向へ流れていくのです》
そうだな。人は変わる、変わらないままではいられない。
《あの娘がいい方へ向かったのは、まぎれもなくマスターの功績です。導く者として、常に道を示していかなければなりません。マスターはそれだけの力があるのです》
ハハ。そんな力、俺になんて無いよ。あれは全部陽自身の力だ。
「フィーちゃんっ! こっちは片付いたから、あたしも手伝うよっ!」
「ありがとうございますっ! って、ヒナタさん!? 大丈夫なんですか、その腕!?」
シルバーコングの猛攻を華麗に往なしながら、ソフィが驚く。
「大丈夫だよっ! このボスを倒したらゆっくり休むからっ!」
普段の様にニコニコ顔で返事する陽。だが、その瞳がいつになく真剣な光を宿している。
それを見て感じ取ったソフィがうんと頷く。
「判りましたっ! なら、全員の力で乗り越えましょうっ!」
「そうこなくっちゃっ!」
ブンと大剣を構える陽。すると、陽に降り注ぐ光の粒子が。
「気休めかもしれませんけど……〈ライトヒール〉しておきました」
そういうのはせつなだ。彼女本来の役割、パーティーの支援を務める所存のようだ。
「ありがとっ、せっちゃんっ! んじゃあ、このひなちゃんがいっくよぉ~!」
ひなちゃんって……。テンションが普段の十割増しだな……それだけアドレナリンが出まくっているのだろう。左腕の痛みが鈍いのもそれのせいだな。
明るく宣言した陽が、背後に回ってシルバーコングに襲い掛かった。
即座に反応するシルバーコング。腕を伸ばし、回転しながら勢いよく振るう。
「うわっと!」
陽が今まで相手にしていたシルバーコングとは体格が違う。その分、リーチも大きく、危うく薙ぎ払われる寸前で飛び退った。
「うぅ~、間合いが完全に違うよぉ~」
泣き言を言う陽に標的を写したシルバーコングが襲い掛かった。
頭上から降り注ぐ拳。陽は大剣を盾の様に掲げ、受け止めるが……。
「ぐっ!」
体格が違えば、膂力も違う。それに陽は片腕を負傷中だ。完全には受け止められず、圧し潰されていく。
このままでは、陽は耐え切られない。その瞬間、背後から飛び掛かる影が。
「ハッ!」
ソフィだ。鋭い呼気と共に双剣が閃く。
「GuLUW……」
背中を斬りつけられ、堪らずシルバーゴングが振り返り、ソフィに攻撃を仕掛けた。
だが、ソフィは既に離脱しており、拳は空を切る。
その間に、陽が脱出。難を逃れた。
「ごめんっ、フィーちゃんっ!」
「いえっ、問題ありませんっ! フォローは任せて下さいっ!」
せつな、陽がそれぞれシルバーコングを撃破するまで、ソフィは耐えていたんだ。この一回り大きいシルバーコングの行動パターンはかなり把握しているはず。
それにシルバーコングの注意がソフィ一人だけではなく、陽にも移ることで、よりソフィが動きやすくなったのは間違いない。
陽が仕掛け、それをソフィがフォローする。またその逆も然り。そして、フォローが間に合わない時に、タイミングよくせつなが光の矢で援護する。
それぞれが自分の役割を把握し、的確に行う事で、シルバーコングに対して有利に戦況を進められるようになった。
お互いに声を掛ける事無く、陽が左側に移動すれば、ソフィが対角線上に即座に移り、対応している。
これがパーティーの力か。一人では敵わない相手でも、信頼し合える仲間がいれば、乗り越えられる。
「ハッ!」
「ヤァァ!」
素晴らしいコンビネーションに翻弄されるシルバーコング。徐々に痛痒が蓄積していく。
一撃一撃は軽いかもしれないが、蓄積させることによって体力を徐々に削っていった。
銀色の体毛が徐々に紫に染まっていく。血が流れ、少しずつではあるが、シルバーコングの攻撃も単調に。
何もかも順調に思われた、が……。
「すみませんっ、もう魔力が……」
せつなが魔力切れを訴え始めた。仕方がないだろう。〈ライトアロー〉という援護射撃に、適時、付与魔法を二人に施しているのだから、魔力の使用量も膨大だ。それにせつなは一度魔力を使い切っている。魔素薬水を服用しながらと言っても、限界は近い。
「はぁ……あたしも、ちょっとキツいかも……」
更に、陽も体力の限界が近付きつつある。負傷しながら激しく動き続けるのは、中々に厳しい。荒い呼吸を繰り返しながらも、何とかシルバーコングに食らい付いていっているといった感じだ。
そして、ソフィも。三人の中で一番の運動量を誇っている。滴るほどの汗をかき、消耗しているのは間違いない。
「ヒナタさんっ! 少しだけ頑張って下さいませんかっ?」
「うんっ! 頑張るよっ!」
打てば響く返答を受けて、ソフィが微笑んだ。そして、一旦、シルバーコングから距離を取った。
獲物が二体から一体に変わった瞬間、シルバーコングは陽に猛攻を仕掛ける。
一つひとつの拳撃が鋭く、そして、重い。
陽は無暗に受け止めることはせず、的確に拳撃を受け流していくが、その表情に余裕は皆無だ。
一方、シルバーコングから離れたソフィはと言うと、眼を閉じ、精神を集中させていた。
「ふぅ~……」
深く息を吐き出すソフィ。封じられた魔力が徐々に解放されていく。
今までになく、慎重に秘められた力を解放しているように見える。一体、何をしようとしているのか……。
練り上げられた魔力がその圧力を増していき……パッと勢いよく目を開いた。
「〈セカンドパージ〉ッ!」
第二段階解放句。獰猛な狼の血が騒ぎ、紫紺の瞳が鮮血のような深緋へ。
ここまでは同じだ。しかし、ここからがいつもとは違った。
「〈タイプ:ウルフ〉ッ!」
続けてソフィが叫ぶ。すると、鋭利な爪が更に伸び、四肢が肥大化。輝く銀の体毛に包まれ、まるで以前目の当たりにした銀狼そのものの四肢へ。
「もう、も、もたないっ!」
陽の悲痛な声が響く。シルバーコングの拳を往なすにももう限界だ。
カンッと、甲高い音が響き、大剣が流れていく。
「あ――」
無防備になった陽に降り注がれる拳。もはや回避するだけの余裕は陽には無かった。
あわや直撃――と言った瞬間、一陣の風が吹いた。
「ふぇ?」
靡く前髪に驚く陽。それはそうだ。このボス部屋に風など吹くはずが無い。
そして、更に陽は目の前の光景に驚愕する。
自身を圧潰するはずだったシルバーコングの拳が消えて無くなっていた。
眼を見開く陽。同じくシルバーコングも一体何が起ったのか判らないといった風に、眼を見開き、自身の無くなった拳を見詰めていた。そして……。
「GYAAAaaa!」
遅れて悲鳴を上げるシルバーコング。そして肩口から夥しい鮮血が噴き出す。
一体何が起ったのか……。ずっと見守っていた俺にさえ咄嗟には判らなかった。だけど、直ぐに気付いた。
視界の端に圧倒的な存在感を放つ影。それは……ソフィだ。肥大化した手には丸太のようなシルバーコングの腕が。
ソフィはその腕をポイッと放り投げると、のたうち回るシルバーコングへと視線を移す。
その瞬間、まるで消えるかのように疾走。瞬く間にシルバーコングに接近すると、容赦なく貫手を喉元にブチ込む。
「Ga…………」
ザッと貫いた腕を引き抜くと、血飛沫が舞う。シルバーコングは断末魔さえ叫ぶことさえ出来ずにそのまま絶命したのだった。
圧倒的……まるで赤子の手をひねるかのように、ソフィがシルバーコングを仕留めた。これには俺も含めて全員が驚いた。
「フィーちゃんっ、すごいよっ! めちゃくちゃカッコよかったっ!」
興奮して言う陽だが、シルバーコングの紫血を頭から被って血塗れだ。
「はぁ……はぁ……ソフィちゃん……すごいね……」
せつなも同じくソフィに称賛を送っている。だが、何かがおかしい。肝心のソフィが俯いたまま微動だにしていない。
《マスター! 狼っ娘を今すぐ拘束して下さい!》
いつも冷静沈着のラファが慌てて警告を発した。
「GUuuww……」
バッと面を上げたソフィ。頬に返り血が付着し、その瞳はまるで獣のようであった。そして……。
「え?」
まるで消えたかのように疾走し、次の瞬間には陽の目の前に。大きく腕を振りかぶり、今にも陽に貫手を放とうとしている。
――そうはさせないッ!
ラファの警告と同時に走り出していた俺は叫ぶ。
「〈蒼炎纏尽〉ッ!」
途端に蒼い炎に包まれる俺。身体能力が格段に向上し、ソフィへと飛び掛かった。
ソフィの首根っこを掴むと、そのまま勢いよく地面へと抑え込む。
荒々しくなってしまったが、申し訳ない。あとでソフィには謝ろうと思う。
「GuLLuuww」
俺に抑え込まれたソフィが逃れようと必死にもがき続ける。
力が強い……でも、まだ何とか大丈夫だな。
どうにか抑えられると判り、ホッと胸を撫で下ろす。
すると、陽が心配そうに俺に訊いてきた。
「一体、どうしちゃったの? フィーちゃん」
その陽の後ろで、せつなも不安げな顔をしていた。
「魔力の暴走だな、これは。明らかに正気を失っているし……銀狼に呑まれたな」
バタバタと暴れるソフィを見ながら、俺はそう答えた。
「え? それって大丈夫なの?」
「ソフィちゃん……」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。何とするよ」
……ラファが、ね。
《マスター、それは卑怯と言うのではないでしょうか。自身をカッコよく見せて、実際は私頼りなど……》
ちょっとくらいいいじゃんかよ。俺だってちょっとはカッコつけたい年頃なのっ!
《ハァ……仕方がありませんね。とにかく、この狼っ娘の暴走を止めなければなりません》
うん、そうそう。どうやって止めればいいの?
《…………》
そう呆れないでさ。ラファ先生、教えて下さいッ!
《ハァ……まず、狼っ娘の聖痕に手を当てて下さい》
聖痕? あぁ、ソフィの肩口に刻まれている痣のことか。
俺は言われた通りにソフィの聖痕へ手を当てた。
《では、掌から魔力を抽出して下さい。魔力が減少すれば、暴走も止まります》
…………。
《魔力はイメージの具現化ですよ。もう忘れてしまわれたのですか? マスターの脳ミソには何も詰まっていないようで、私はとても悲しく思います》
言葉の棘が鋭いよ、ラファ……。
俺は精神を集中させ、魔力の流れを感じ取る。
荒れ狂う魔力が――見えた!
即座にその流れを俺の方へ誘導する。
「う……」
荒々しい魔力に、思わず苦悶が漏れ出す。
「りゅうちゃん、大丈夫? 何だか辛そうだけどっ!?」
「ああ、これくらい大丈夫だ」
チラッと陽を見れば、左腕を抑えていた。陽が受けた痛みに比べれば、こんな魔力屁でも無い。
俺がソフィから魔力を引き剥がしていくと、徐々にソフィの変身が解けていき……。
「ふぅ~……こんなもんか」
完全にソフィの容貌が元通りになったのを確認して、深く息を吐き出した。
ソフィは瞼を閉じ、ただ眠っているだけのようで、特に大きな問題は無さそう。まぁ強制的に魔力を引き剥がしたんだから、疲労は凄まじいかもしれないけれど。
「もう、大丈夫? 平気?」
「うん。もう心配ない。今はただ眠っているだけだし」
そう俺が答えると、陽とせつなは同時にホッと息を吐いていた。
「とにかく、消耗しているのは間違いなし、少し休憩してから下層に降りよう。二人とも休んでて」
せつなは魔力欠乏気味だし、陽は左腕を負傷している。そしてソフィは眠ったままだ。
とにかく彼女たちには休養が必要。このボス部屋は挑戦者が死亡するか、下層へ続く階段を降りるまでは、入り口の鉄扉が開かない仕組みになっている。
それに新たに魔物がリスポーンすることも無い。いや、例外として長時間居座った場合のみ、ボスモンスターがリポップするはず。まぁ再リポップ時には直前に、入り口にある松明の炎が赤から青へと変わるので、慌てず下層へ向かえば問題はない。
ソフィを硬い地面にそのままにしておくわけにもいかず、ローブを数着地面に敷いて、その上にソフィを。枕にモモを添えておこう。
陽には三角布を作って、左腕を固定しておいた。まぁ今もなお、上薬水の効果が持続しているはずだし、ソフィが目覚める頃には完治しているかな?
さぁって、俺はこれから大事な役目がある。そう、魔石の採取だ。あ~……早く俺も暴れたいな……。
《マスター、新スキル「魔力変換」を取得しました》
あぁ、ソフィの魔力を引き剥がした時に、取得したんだな。
新スキルを習得し、少しルンルン気分で俺は採取に勤しむのであった。




