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第一八話 ソフィとラファ


 騎士団が出立してから数日が過ぎた。その間、俺ら三人は村の為に狩りやら何やらと、精力的に働いた。


 まず食糧事情だ。これは狩猟を積極的に行うことでカバー。干し肉にし、備蓄も徐々に増えてきた。勿論、肉ばかりだけでは無く、山菜や果実も併せて採取し、栄養面も考慮している。

 しかし、主食になるような穀物類や、芋類はどうしても、次の収穫期まで待たないといけない。それまでは肉食ばかりだけど、非常に不味い状況は脱することが出来た。


 精力的に協力する俺たち――特にソフィに対してだが、村人の心証も幾ばかりか改善したように思う。特にミンナがソフィによく親し気に話すようになったのが大きい。何と言っても彼女は、村長の娘だ。少なくない影響力を持ち、比較的ソフィに好意的な者は、ソフィと話すようになり、ソフィも楽しそうに過ごしている。


 無論、排除派が完全にいなくなった訳では無い。この現状を苦々しく思っている者もいるにはいるのだが、窮状にて主だった行動は起こしていない。遠くから睨み付けられることはままあるけどね。


 村人と打ち解け始めたソフィ。村を離れるという決意が揺らぐのでは、と思っていたが、どうやら彼女の意志は固いようで、意欲的に訓練に取り組んでいる。


 成果も上々。体力も加速度的に向上し、今では、低級の魔物との実践訓練まで行うようになっていた。

 中でもソフィが新たに得たスキルには、正直度肝を抜かれた。


 聖痕によって封印されていた銀狼の力。アドルフが手を加えた事で、その暴力的までの力を段階的に解放出来るようになったのだ。戦力に組み込めるのならば、これ以上心強いことは無い。


「前から三つ。魔力的には……ホーンラビットだな、ソフィ」

「はいっ。頑張りますっ」


 ぴしっと表情を引き締めたソフィは、重心を落として臨戦態勢となる。

 ソフィが使用している武具は、ナイフのような少し反りの入った短剣。それも両手使い。色々と戦闘スタイルを模索してみた結果に辿り着いたのが、この双剣スタイルであった。


 因みに武具提供は毎度おなじみのアドルフである。『アドえも~ん』とパロってみたら、心底心配されたのはいい思い出だ、うん。


「来たッ」


 前方の茂みから飛び出してきた三つの影。瞬間、ソフィはスキルを発動させる。


「ファーストパージ!」


 第一段階解放句。獰猛な狼の血が騒ぎ、際立つ特有の爪牙耳尾。そして、紫紺の瞳が鮮血のような深緋へ。


 特殊能力(エクストラスキル)獣狼化(じゅうろうか)」。本来、狼人族(ライカンスロープ)には種族能力(スピーシーズスキル)「狼化」を有しているらしいのだが、ソフィの特殊能力(エクストラスキル)獣狼化(じゅうろうか)」は、その上位互換だとアドルフは言っていた。


「――フッ」


 小さく呼気を放ち、飛翔する弾丸の如く翔るソフィ。

 瞬く間に距離を詰め、縦横無尽に双剣を振るう。


 爆発的に飛躍した身体能力、尋常ならざる加速疾走。


 ソフィにはあまり似合わない超近接型戦闘スキルだ。


 次々と獲物を屠るソフィを見ていると、何故だが初めて出会った時の事を思い出した。

 ゴブリンに襲われ泣き叫ぶか弱い少女。それが今や臆することなく立ち向かい、更には魔物を瞬殺していくのだ。随分と変わり、強く成長したなとしみじみ思う。


「ハハ……娘の成長を喜ぶ父親かよ」


 自嘲気味にぽつりと零すと、戦闘を終えたソフィが駆け足で戻って来る。


「リュウヤさん、終わりましたよ。……ん? 何でニヤニヤしているんです? 不気味ですよ」


 ……おい。不気味とは何だ、不気味とは。


 さっと視線を這わせ、負傷していないか確認するものの、怪我どころか返り血さえ浴びていない。流石、戦闘民族と呼ばれる種族だけのことはある。


「お疲れ様。で、どう? スキルの具合は」


 既にソフィは封印状態へと戻っていた。それには色々と理由があるのだが。


「ん~解放状態には随分と慣れましたけど、やっぱり体力の消耗が多い気がします。今のままだと長時間解放するのは少し厳しいかもしれません」

「そうか。なら、第二段階目を目指すよりも、先に解放継続時間を延ばす方が無難か」


 特殊能力(エクストラスキル)獣狼化(じゅうろうか)」には解放段階というものがある。第一段階、第二段階、そして、最終段階である完全解放の三段階だ。段階を経るごとに加速度的に強力になっていく。


 しかし、現状では第一段階までしか解放出来ていない。


 問題は二つ。まず、ソフィの身体が持たないこと。

 特殊能力(エクストラスキル)獣狼化(じゅうろうか)」は、爆発的に身体能力が向上するのが長所に対し、それに比例するかのように体力消耗が大きいのが短所だ。体力改善したとはいえ、まだまだ第二段階に耐えられる身体ではない。


 もう一つの問題。それはコントロールが非常に難しいこと。

 ソフィの身に宿る銀狼の力は強大であり、暴虐の塊。完全支配する為には、心身共に大いに成長しなければならない。でなければ、再び銀狼となって破壊の限りを尽くすことだろう。それだけは避けなければならないのだ。ソフィの心の平穏を守る為にも。


「まぁ別に急ぐことも無いし、じっくりやっていけばいいか。とにかく今は、継続時間を増やすことと、戦闘経験を積むこと。この二つを重点的にやっていこう」

「はいっ。判りました、先生っ」


 ピシッと敬礼するソフィ。……巫山戯ているのか? いや、顔つきは至極真剣だ。多分、素でやっているのだろう……。


「いや……先生は止めてくれよ」

「でも、色々と教えてもらってますし、そういうのって先生って言うんじゃないんです? あ、師匠って事もありますね」

「師匠もやめてくれ……頼むから」


 俺はまだ花の一六歳だ。あんなジジイと一緒にされるのは心底不愉快だよ。


「むぅ~じゃあなんて呼べばいいんですかっ!」


 頬を膨らますな、頬を。突っついて、ブゥと鳴らすぞ。


「別に普通に呼べばいいじゃんか」

「えぇ~何か無いんですか?」


 いや……そんなこと言われても。何をそんなに拘っているのか、俺には全く判らん。


「もういいですっ。もうゴブ――」

「却下だッ」


 今何と呼ぼうとした? 巫山戯るなよ。俺にとってはあの呼称は不名誉極まりないことなんだからな。

 普通にリュウヤって呼べばいいのに。でも、それだと納得しないんだよな。ん~どうすっかな……てか、何でこんな話になっているの?


「ん~……普通に呼べばいいと思うんだけど、それだと納得しないんだろ?」

「はいっ」

「んん~……じゃあ、リュウヤ様とかで」

「………………」


 沈黙が辛い。瞳が冷たい。あからさまに態度に出し過ぎ。もう少し取り繕おうよ。じゃないと憤死しちゃう。


「それは無いですけど。様付けとか、あり得ないですけど。ちょっと見損ないました」


 辛辣ぅ~。口を開いたかと思えば、散弾のように物凄い勢いで否定してきたよ。てか、見損なうまでいくの?


「まぁいいです。でも、明日までに何か考えておいて下さいね、リュウヤ様っ」


 後ろに手を回し前屈みになりながら、ニコッと微笑むソフィ。仕草は可愛いんだけど、その笑み……怖いです。


 ともかく、ソフィの訓練は至って順調だ。戦闘センスも抜群だし、何より特殊能力(エクストラスキル)を取得したのが大きい。俺も持っていないのに……。


 さて、俺はというと、二元薬水(デュアルポーション)のおかげか、前世界ではお医者様も目をひん剥いて驚くような驚異的な回復をみせ、完全復活と相成った。粉砕骨折が三日で治るのだもの。本当に驚いた。


 まぁこんな超回復は魔物故のもの。『人族(ヒューム)及び亜人族(デミヒューム)では、まずあり得ない』とはアドルフの談だ。小鬼族(ゴブリン)になってしまったのも、悪い事ばかりではないらしい。けど、今のところマイナスポイント百億兆くらいあるけどな。


 さて、怪我も回復し、順調かと言われれば、一つ問題が浮上した。先送りにしていた問題――謎の声問題である。


 銀狼との死闘の際、俺の窮地を救った謎の声。あれ以降、沈黙を保ったままであったのだが、とうとう、また聞こえ始めた。それも以前とは比べにならない程、明瞭かつ鮮明に聞こえるようになった。


 朝、目覚めたら突然、《おはようございます、マスター》って、大音量で話し掛けてきて、それはもう滅茶苦茶驚いたね。叫んでしまって二人に怒られたのは理不尽だと思う……。


《朝の一件については、大変申し訳ありません、マスター。覚醒状態への移行を確認しましたので、ご挨拶をと思いまして》


 いや、挨拶は良いんだけど。人としての基本だしさ。ただ、目覚めに爆音は勘弁してくれ。


《了解しました。善処致します。それと、マスターは現在、人族(ヒューム)亜人族(デミヒューム)類の人種には属しておらず、魔物種である小鬼族(ゴブリン)です。僭越ながら訂正させていただきます》


 ……。抉るなぁ~……俺が気にしている所を容赦なく抉ってくるなぁ~。


《落ち込んでいるのですか、マスター。私が慰めて差し上げましょうか?》


 いらん。全くもっていらん。つか、誰のせいだと思っているんだよ。小鬼族(ゴブリン)だと再認識させられる度に、残酷な現状に直面して泣きたくなるんだよ。


《お辛いのですね、マスター。よしよし、いい子いい子》


 テメェ、巫山戯てんのかッ。ワザとやってるだろ、お前ッ。


《マスターがご立腹のようです。激おこプンプン丸です。まじ卍です。しょぼーん》


 古いのと新しいのを織り交ぜてくるんじゃねぇッ! ……はぁ~。


 何故、こいつが俺のいた前世界の言葉を知っているのかというと、どうやら俺の記憶を読んだみたい。

 何でも精神リンクというよく判らない状態になっているらしい。魂の回廊が繋がり、魂の系譜に連なってうんたらかんたら……と説明されたのだが、全く理解出来なかった。


《もう一度、説明しましょうか? それともベッドの下に隠している物を言い当てましょうか?》


 いや、どっちも止めてくれ。理解出来ないだろうし。特に後者は死んでも言わんでくれ。


 とまぁ、こんな具合に謎の声とはスムーズに意思疎通が出来るようになった。言葉を介さない分、意思・感情がダイレクト伝わる。良いか悪いかは別として。


「リュウヤさん、ずっと黙ってどうしたんです?」

「あぁ悪い悪い、ソフィ。こいつと話してて」


 小休止を摂っていたソフィが訝しげに訊いてきたので、俺は腕を上げ腕輪を見せた。


「あぁ~例の謎の声ですか。確か……ラファさんでしたっけ?」

「うん、そうだよ」

「いい名前ですよね。ラファってかわいいし」

《私もそう思います。良い名を頂き、感謝いたします、マスター》


 そう、俺はこの謎の声に名前を付けた。いつまでも謎の声と呼ぶのも変だと思ったからである。


 名はラファ。智慧を司る大天使ラファエルが由来だ。俺の記憶――全世界の知識を読み漁るように知識欲が旺盛。さらには特殊能力(エクストラスキル)「鑑定」を有し、知恵袋という意味も含まれる。


「リュウヤさんとしかお話出来ないんですよね?」

「そうみたいだな。でも、俺を介して、ラファにはソフィの声も聞こえているよ」

「そうなんですね。なら、リュウヤさんを通して、ラファさんとお話出来るのかぁ~」


 ラファの声は、俺以外には聞こえないのだ。まぁ腕輪だし、発声器官とか無いからな。というか、そんなこと言い出すと、そもそも脳裡に直接介入してくること自体、おかしな話なんだけれども。つか、存在自体が非常識なんだよなぁ~……。


 そんな事を考えていると、ソフィが居住まいを正し、俺に――いや、ラファに向き直った。


「えっと、こんにちは。初めまして……なのかな? わたしはソフィと言います。これからよろしくお願いしますね、ラファさん」


 ニコッと愛嬌のある微笑みを口許に湛えるソフィ。腕輪に挨拶とか、おかしな話だけど。まぁ真面目で礼儀正しいソフィらしいと言えば、ソフィらしい。ホントに和む子である。


 対して、ラファは。


《私に挨拶とは、殊勝な心掛けです。狼っ娘風情ですが、マスターの近くに存在する事を認めてあげましょう》


 ……おい。何様なんだよ、お前は。


「リュウヤさん、リュウヤさん。ラファさん、何て言っています?」


 ワクワク顔で尻尾を振るソフィ。


 ……言えねぇ。とてもとても、そのままは伝えられねぇ……。


「えっと……『改まって挨拶して頂き有難う御座います。可愛らしい狼人族(ライカンスロープ)さん、マスター共々、宜しく御願いします』ッテ、イッテルヨ」

「はいっ。こちらこそっ」


 にっこりと、嬉しそうにソフィは頬を緩ませる。


《マスター、曲解して言い換えないで下さい》


 あのなぁ~……そのまま伝えられる訳ないだろ。あんなの挨拶でも何でもない、ただの罵詈雑言だしさ。


《しかし、私は率直に返答したまでの事。心を覆い隠し、虚言を吐くことの方が、不誠実だと愚考します》


 コミュニケーションだよ。関係を円滑にする為に必要な事だ。そんなに口が悪くちゃ、他の奴とやっていけないだろ。前の宿主とか相当苦労して――あ、しまった。


《……私には、私についての記憶がありません》


 そうだった。ラファは博識であるが、何故か自身についての記憶だけが著しく欠如していたんだった。


《自身についての記憶はありませんが、マスターとの遭逢を想望していたのは、嘘偽りない事実です。それだけが私の唯一の記憶です》


 ラファと初めて出会った時、激流のような歓喜が押し寄せて来たのを、俺も覚えている。あの感情の波が嘘だとは到底思えない。であれば、疑問が当然出てくる。


 何故、そもそも俺を待っていたのか。


 何故、俺を待っていたという記憶しかないのか。


 最大の疑問はこの二つ。しかし、現時点では推測することさえ出来ない。


 ラファと出会った場所を改めて調べてはみた。アドルフを伴って。

 だが、手掛かりは全くの皆無。あまつさえ、地下空洞すら跡形も無くなっていた。


 アドルフ曰く、『微かに魔力の残滓があり、何らかの魔法・魔術が発現した痕跡はあるものの、どういった効果を発揮したのか、見当も付かない』との事。


〝炎帝〟と、英雄視されるアドルフでさえ、判らないのなら完全にお手上げである。


 この出会いには一体どういった意味があるのか。少しばかり何者かの意志が感じられるのは、流石に考え過ぎだろうか……。


「リュウヤさん、そろそろ戻りましょうか」


 深く思索に耽る俺を、ソフィの声音が現実へと引き戻した。


「そうだな。いい時間だし、戻ろうか」


 陽は傾き、そろそろ夕暮れになろうかといった時分。


「暗くなる前に戻ろう。帰りは走っていくぞ」

「はいっ」


 打てば響くといった返事を受けて、俺たちは軽快に森を駆けて行った。


《頑張って下さい。応援します、マスター》


 ……お前は、楽でいいよな……。



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