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赤の空  作者: 岩
旅の始点
51/53

10.

 しばらくそうやって、暗闇の中、二人抱き合っていた。暖かい。微睡みたくもなるくらい、けれど、それは自分に許せない。終わらせるためにここに来たのだから、終わらせる。それだけは心に決めていた。


 抱き合う腕から力を抜いて、多分正面から向き合った。多分、というのは、暗くてまるで見えないからだ。でもきっと、自分の顔のすぐ前で、彼は真剣にこちらを見ている。


「‥‥ソノリア」


 呼びかける声が震えなかったことに、ちっぽけな矜持が満足した。


「‥‥うん」


 応える声は硬かったが、それには申し訳ないと思ったけれど、この決意だけは翻せない。翻さない。それだけを求めてここまでやってきて、そしてこの棺に包まれているのだから。


「‥‥それじゃ、」


「マナファナ」


 遮られてむっとしなかったと言えば嘘だけれど、このくらいは彼に許さないと駄目なのだろうな、と思った。思ったが、冷静に考えられたのはそこまでだった。


「マナファナ、好きだよ」


 そして、唇に柔らかな感触が、


「‥‥え」


触れて離れた、何故そんなにはっきり位置が分かったのだ、あぁそうか、吐息が触れる距離、いや問題はそこではなくて、


 マナファナは混乱したが、じわじわと胸の奥から湧いてくる感情があった。


「‥‥あ、え、あ、そうか、‥‥」


 一度だけ。一瞬だけ。それなのに分かってしまった。


 口角が緩む。頭に血が上ったけれどそれは嫌な感覚ではなくて、気恥ずかしいのだけれどどうせ暗闇だから構わないのかと思った。


「‥‥私もだ」


「‥‥え」


 今度絶句したのはソノリアの方だった。言い出したのは彼のほうだし、触れたのも彼からだったというのに、うろたえる空気にマナファナは。


「私もお前が好きなんだ。だから、」


 誰より愛おしいお前に、青い空を贈る。


 マナファナは生まれて初めて心の底から微笑んで告げて、


 左手に生まれた剣で喉首を掻き切った。

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