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赤の空  作者: 岩
旅の始点
50/53

9.

 次に起こったことが、正確にどのような順番で起こったのか、マナファナには分からなかった。


 つぶさを引っ張り上げたのか、中から押し出したのか、勝手に出たのか。マナファナは自ら降り立ったのか、落ちたのか、落とされたのか。伸ばした手はどうなったのか。


 何故か記憶の断絶があって、次にはっきりと意識したとき、マナファナはさっきまでのつぶさと同じように棺の中に座りこみ、そして棺はほとんど閉じて、ほんの隙間から赤い空が見えるだけだった。


「っわっ」


「ぅきゃっ」


 衝撃。暗く狭い空間に、二人分の声が響いた。同時に棺は完全に閉じた。どこからも光は入らない。それ故、目が慣れるまで待っても何の影も見えなかった。


「‥‥は?!」


 身じろぎをしようとしてそれすらできない狭さだと気付く。二人が並んで座って、その脚を曲げなければいけない狭さだ。


「――なんでお前までいるんだ馬鹿か!」


 二人は同じくらいの背なので、手探りで顔のどこかをつねる。これは‥‥頬骨のあたりだ。


「だって一緒にいたいから」


 見えないが、きっとすばらしい笑顔を浮かべているのだろう。


「阿呆。これは、中からは絶対に出られない。分かってるのか?!」


 本当は、迷っていたところで背中を押されて飛び込んだため、深くは考えていなかったのだが。


「うん。一緒にいたいよ」


「‥‥棺とはいえ、私は死体も残らない。それでもか」


 自分は無理でも、せめて彼にだけは青い空を見せたかった。


「‥‥うん。いいよ、僕もここで眠るから」


 マナファナは唇を噛んだ。死んで結ばれるなんて死んでもイヤだった。ソノリアがそんなことを考えてはいないことなど分かっている。それでも、自分が選んだことなのに、理不尽だと思った。


「‥‥ソノリア」


 手探りで、抱き締める。温かい。暖かい。


「‥‥っうん、マナファナ‥‥」


 驚いたように、そしてきっと柔らかく微笑んで、少しだけ力がこもる。


「ソノリア。私たちはもう一度生まれる。私は、祖母さんの義務感も母さんの強さも持たずに、もう一度生まれる。

 そしたらまた会って、‥‥一緒に空を見よう」


 くすくすと、くすぐったそうに笑う。


「うん。約束ね。‥‥マナファナ、それ、求婚みたいよ?」


「‥‥やかましい」


 真に暗くて本当によかった。赤く染まった頬を見られないで済むから。

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