9.
次に起こったことが、正確にどのような順番で起こったのか、マナファナには分からなかった。
つぶさを引っ張り上げたのか、中から押し出したのか、勝手に出たのか。マナファナは自ら降り立ったのか、落ちたのか、落とされたのか。伸ばした手はどうなったのか。
何故か記憶の断絶があって、次にはっきりと意識したとき、マナファナはさっきまでのつぶさと同じように棺の中に座りこみ、そして棺はほとんど閉じて、ほんの隙間から赤い空が見えるだけだった。
「っわっ」
「ぅきゃっ」
衝撃。暗く狭い空間に、二人分の声が響いた。同時に棺は完全に閉じた。どこからも光は入らない。それ故、目が慣れるまで待っても何の影も見えなかった。
「‥‥は?!」
身じろぎをしようとしてそれすらできない狭さだと気付く。二人が並んで座って、その脚を曲げなければいけない狭さだ。
「――なんでお前までいるんだ馬鹿か!」
二人は同じくらいの背なので、手探りで顔のどこかをつねる。これは‥‥頬骨のあたりだ。
「だって一緒にいたいから」
見えないが、きっとすばらしい笑顔を浮かべているのだろう。
「阿呆。これは、中からは絶対に出られない。分かってるのか?!」
本当は、迷っていたところで背中を押されて飛び込んだため、深くは考えていなかったのだが。
「うん。一緒にいたいよ」
「‥‥棺とはいえ、私は死体も残らない。それでもか」
自分は無理でも、せめて彼にだけは青い空を見せたかった。
「‥‥うん。いいよ、僕もここで眠るから」
マナファナは唇を噛んだ。死んで結ばれるなんて死んでもイヤだった。ソノリアがそんなことを考えてはいないことなど分かっている。それでも、自分が選んだことなのに、理不尽だと思った。
「‥‥ソノリア」
手探りで、抱き締める。温かい。暖かい。
「‥‥っうん、マナファナ‥‥」
驚いたように、そしてきっと柔らかく微笑んで、少しだけ力がこもる。
「ソノリア。私たちはもう一度生まれる。私は、祖母さんの義務感も母さんの強さも持たずに、もう一度生まれる。
そしたらまた会って、‥‥一緒に空を見よう」
くすくすと、くすぐったそうに笑う。
「うん。約束ね。‥‥マナファナ、それ、求婚みたいよ?」
「‥‥やかましい」
真に暗くて本当によかった。赤く染まった頬を見られないで済むから。




