3.
世界は一度滅びた。
空が血のように赤く染まり、地震や雷やその他諸々のすべての厄災が降りそそいだ。
息の詰まるひと月のあと、地面が割れた。何か常識を超えた力でもって、深い崖がすべての町、人の集まっていた場所に生まれた。最上級の地震のあと、人々を飲み込んで閉じた。
残された人々が気付いたとき、世界は静かだった。空はいつまでも赤かったから、もしかしたら本当はまだ、滅亡への道の上にいるのかもしれない。
長い時間をかけて残された人々は少しずつ集まった。いくつかの町がもう一度世界に生まれた。
そして、あれから百と数年。今は4代目の支える世界である。
ぱちぱちと、音をたてて火ははぜた。
一度滅びた世界は、魔物のものなのか。百数年前のあの頃には、害なすものも益もたらすものも、ほとんどいなかった。やがて安定してくるうちに、いわゆる魔物と呼ばれる異形が現れはじめた。
彼らは人の恐怖であった。立ち向かうすべはない。身を守るには肩を寄せ合い町の壁に隠れるか、こうして火を絶やさないことしかない。
マナファナは火を見つめていた。彼女には、この安心感が不安だった。火の向こうから、ソノリアが馬鹿みたいに無邪気に笑いかけてくる。
「‥‥お前‥‥」
呆れて、それから気を取り直す。
結局ソノリアはついてきてしまった。その意味を彼は分かっているのか。町の中だって安全だとは言いがたいが、それでもこの外の危険は比べ物にならない。
「大丈夫だよ。だいたい、僕でなかったら誰が君を守るのさ?」
「‥‥自分の身だけなら自分で守れる。私だって、こんな所で死ぬ気はない」
どうやら気付かないうちに目で問いかけていたらしかった。
「こんなところって。もしかして、どこか他の場所でなら死ぬ気とか?」
にこにこと笑う、その目が笑っていないことに気付く。この男は。
思わず身構えた。
「‥‥お前は‥‥」
可愛い顔をしながら、無邪気な顔をしながら、この男は油断がならない。それは分かっていたつもりだったのだが。
「別に、今はそれでもいいんだけどね。やめてよ?せっかく出会えたのに。君を失うのは、僕、やだからね」
「‥‥何故、私なんだ‥‥?」
無邪気なのか、すべてを知っているのか、素直なのか、心を隠しているのか。いまいち分からない。真顔でそういうセリフを吐けるあたりも信用ならない。それなのに、向ける気持ちが強いことは分かる。居心地は悪いが気持ちは温かい。
「やった!僕のこと気にしはじめたね?」
「‥・・知的好奇心だ」
「まったまた。照れなくてもいいんだよ?」
なぜか、ホっとした。得体の知れなさが少しやわらいだ。
「‥‥お前は少しは恥らえ」
変な奴だ。と思う。嫌いではないが、よく分からない。
確かに今の時代、人口は絶対的に少ない。特になぜか女性は、嫌になるほど少ない。だから出会えた幸運から、ソノリアがつきまとうのも分からないでもなかった。けれど、彼はそういった生物学的打算とは無縁なように思われるのに。




