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赤の空  作者: 岩
旅の道連れ
4/53

2.

「それで、どこを目指してるの?」


 マナファナは少しだけ目を向けた。頬杖を突きながらスパゲティを口に運んでいる姿は、年齢よりも幼く、マナファナのそれよりも女の子らしい。


「‥‥お前には関係ない」


 サンドイッチを口に運ぶ。


「やぁだねもう。僕が君について行くと決めたんだから。関係なくはないでしょ?」


 きゃらきゃらと笑う。


 マナファナはこれ見よがしにため息をついた。初めて会った、一週間前からこの調子なのだ。


「‥‥それじゃあ勝手にしてろ。私も勝手にする。‥‥勝手にしてる」


 もそもそと咀嚼する。あまり美味くはない。


「‥‥ふうん?」


 ちょ、と首を傾ける。本気で可愛らしい仕草に、何だか情なくて泣きたくなった。


 ふと、マナファナは自分の姿と目の前にいる彼の姿を比べてみた。少女みたいな顔立ちで、確かにどう見ても少女みたいな行動をするソノリア。彼はその服装も、やたらひらひらしていてスカートのように見える。よく見れば違うことが分かるが、よく見なければ気付かない。そして、自分。無愛想だという、自覚はある。旅に出ることに決めたこと、その出発にいきなり襲われかけたから、わざと女らしさは消した。だから本当に、彼の行動は理解できない。


「‥‥」


 思わず渋面になる。


「‥‥お前、どうしてそんなに‥‥」


 外界と比べれば安全な町の中で、精一杯着飾って笑う女性たちを見ていて、うらやましくなかったといえば嘘になる。


「何?」


「‥‥いや、なんでもない‥‥」


 ふと見ると彼はすでに食事を終えていた。慌てて、食事に専念することにする。だいたいそんなことを訊いて自分はどうしたいのか。


 自嘲したいがそれもやめて、口を動かすことに集中する。


 ソノリアはそれをしばらく見ていたが、やがて立ち上がった。そして、なぜか頭に巻いていたバンダナを外す。男にしては長いが、その程度の猫っ毛が、ふわりと舞った。


(‥‥なんだ?)


 よく分からない行動が気になりはしたが、目の前にはあと一個のサンドイッチ。


「‥‥マナファナ、これあげるね」


(‥‥なんで?)


 手際よくバンダナをひねりながら、ソノリアはマナファナの後ろに回る。無造作にまとめた彼女の髪、その髪留めに巻きつけて、満足そうに頷いた。


「‥‥お前、何やってんの?」


 水を飲み、ようやく一息ついたマナファナの前の席に座りなおし、ソノリアはまぶしいものでも見るように目を細めた。


「マナファナは、可愛いよ?」


 一瞬何を言われたか分からずに目を瞬く。これは新手の『愛を育む』行動なのだろうか?


「‥‥は?」


「マナファナは、可愛い。本当は僕だけが知っていればよかったんだけどね」


 ちょっと待てなんでそこでお前が照れるんだ。


 からかわれた怒りだか恥ずかしいのか、さ、とマナファナの頬に朱がさす。ソノリアは笑う。笑いながら、慌てたように席を立つ。


「それあげるから」


 逃げるように立ち去る後姿を見送って、マナファナは席に突っ伏した。


「な‥‥何なんだあいつは‥‥」


 脱力した。わけが分からない。

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