8.
予想された大規模な襲撃などはなく、拍子抜けするほど簡単に、生えていた棺のもとへ辿り着いた。もしかしたら世界も思い出したのかもしれない、と思い、それが儚い希望であることを想って苦笑する。例え襲撃があったとしても変わりはなかった、怒りを堪えているソノリアがいれば、マナファナに無用な傷などつくはずもない。世界はそれを分かっていたのだろう。
「‥‥なんでだろ」
ぽつりと、隣で見つめるソノリアが呟いた。マナファナは顔を見上げるだけでその先を促した。
「なんで、前に来た時にはなかったんだろうね?」
あぁ、そんなことか。
「多分、剣がなかったからだ」
「剣が?」
多分私が剣とともに来たから生えたんだろうと簡単にマナファナは済ませようとしたけれど、引っかかったようにソノリアが視線を寄越した。
「‥‥そういえば訊いたことなかったけど、その剣って結局何なわけ」
訊かれて、マナファナは首をひねった。
「‥‥私の血筋に受け継がれている、けど」
「それって全然答えじゃないよね」
「私にも分からないけど」
「何それ」
可笑しそうにソノリアは笑って見せたけれど、笑えることではないことくらいマナファナにだって分かっていた。
「‥‥ただ、祖母からは、人間が世界に償うために作ったのだと」
少なくともシフォは、そのように説明されて剣を受け入れたのだ。
「‥‥人間が?」
ソノリアは目を丸くした。信じられない、それはそうだろう、魔法なんて欠片もない世界で、こんな魔法じみた不思議を、人間に作り出すことができるなど、信じられない。
けれどマナファナは確信を持って頷いて見せた。
「確かに世界が求めたわけじゃないが、それでも世界だってそれを認めた」
あの人型の泥人形みたいな存在がなかった時代、どうやって確かめたものかはマナファナだって知らないが、それは確信だった。
だからこそ、確かに約束を果たせなかったシフォが悪いのは確かだが、世界がその約束を忘れてしまったことが不可解でつらい。
「剣と棺とは一揃いだ。あの棺と二振りの剣、それが果たされるべき約束を、ようやく私が果たせるんだ」