4.
生まれた町をもう一度あとにして、ソノリアに後悔はなかった。ふらりと後にした故郷だったから、成り行きで戻ってきただけで、思い入れも何もなかったのだな、となんとなく思った。ただ、家族とか師匠とか、友人たちに二度と会えないことだけが心残りと言えば心残りだが、こんな時代だし、多分最初に旅立った時に覚悟はできていたはずだ。
そんなことを考えていた時だった。
地面が揺れた。
「っうぉ?!」
「きゃぁ?!」
2人はおのおの悲鳴を上げる。
可愛らしい悲鳴をあげて、ソノリアは咄嗟に腰を落とし、野太い声を出したマナファナは、地面に剣を突き刺した。
何度も何度も揺り返しが来る。歯を食いしばって耐えながら、なんとなく懐かしいものをマナファナは感じた。
ずっと昔にも同じようなことがあった。
そして、遠ざかるように収まった。ソノリアは恐る恐る顔をあげ、マナファナの方を探した。
「‥‥止まった?」
マナファナは力を抜かずに剣にすがりついたまま、硬い声で告げる。
「あぁ。気を抜くな。もう一度来る!」
(やっぱり前にも同じことがあった)
言葉通り来た揺り返しを体で受け止め、思う。確か前のときは背中の方にいるのは1人ではなかった。たくさんいた人たちが、この揺れのあと1人もいなかった――
ぎくり。として、肩越しに無理やり振り返った。きゃあきゃあ叫びながらもどうにか無事でいるのを見て、ほ、と息をつく。
がん。衝撃が走り、今度こそ本当に収まった。
「‥‥マナファナ‥‥何なのさもぅ‥‥」
泣きそうな顔をしているソノリアに、薄い笑いを返し、長く息を吐いた。手を剣から離す。瞬間に、それが霧散する。手を握ったり開いたりしてみる。力を入れすぎて強ばっていた。
「‥‥世界が私を殺そうとしている」
じっと手を見る。その手。これから自分を殺そうとする、この左手。
殺す、という単語に反応して出てこようとする剣を、握りつぶす動作で押さえる。背中のほうで、ソノリアが動きを止めたのが分かった。
「でもここじゃない。今では無駄なのに。‥‥忘れてしまったのだな。それとも待ちくたびれたのか?」
無駄死にだけはすまいと決めた。自分の手を、あの男の血で汚したときから。死ぬまでは生きると決めた。誰を利用しようとも。嘘をつき続けても。
これらはすべて、世界と祖母と母のためだったのに。
「‥‥私を無駄に殺しては元も子もないことすら、忘れてしまったのか?」
自分を殺すこの手をもって、死ぬためだけに歩いてきたのに。
出来ることなら幸せでありたかった。
あの町は捨てたかったけれど、それでも何の目的もなく旅をして、出会って、出来ることなら幸せに暮らしたかった。誰かが世界を救ってくれるのなら、美しくなった世界で生きていたかった。
けれど、その誰かが自分だったから。




