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赤の空  作者: 岩
100年の旅
32/53

9.

 気付いたらマナファナの左手から剣は消えていた。


 多分本物を握っていたら取り落していただろう。それほど呆然自失したのは、ソノリアの豹変が恐ろしかったからではない。確かに、いきなり怒り出して当り散らしたのはびっくりしたが、その怒りは誰の為かと言えばマナファナの為だし、だからかなりびっくりしたがそれだけだ。


 それよりも、世界が哀しかった。


「‥‥マナファナ」


 できるなら崩れ落ちたかった。マナファナの血を世界が求めているのは知っている。それが約束だし、そのためにマナファナは歩いてきたから。祖母から母へ、そして自分へ受け継がれた血脈を、届けるために。


「‥‥やっぱり、母さんも」


「マナファナ?」


 あれだけの動きをしてみせたくせに、息も切らせずソノリアが駆け寄ってくる。あれだけの、と言っても正直マナファナには理解できなかった。あまりに速くて、そして容赦なくて。


「母さんも、世界が殺した、で、間違いはないんだ‥‥」


 何故、どうして。


 救えと言うから救いに来たのに、その相手に無駄に殺されたということで間違いはないのだ。


 言葉を操る泥人形。あれは祖母の時代にはなかった。母の時代になって、その最後に顕れたものだ。そして母の生命を奪った。それを知っている。


 祖母は違った。彼女は崖から足を踏み外して死んだ。それだって、収まっていなかった地震で急にできた崖だったから、世界が殺したと言えばそうだけれど。


「なぁ、ソノリア」


泣き笑い。それしか浮かべられなくて、マナファナはソノリアを見つめた。本当のことは告げられなくて、どうしても、いつだって、ごまかしてしまうけれど。


「どうして世界が私たちを殺すんだろうな」


「‥‥マナファナ」


どうしてマナファナがこんなに傷ついているのか、本当のところをソノリアに告げたことはないのだけれど、彼は知って怒ってくれたから、だから、苦しい。


「救われたがっているのに、何で、こんなところで殺すんだろうな」


「マナファナを死なせたりはしないよ」


きっぱりとソノリアが言って、それが嬉しくてやはり苦しくて、マナファナは首を横に振るしかできない。


「なんで世界が私を殺すんだ‥‥」

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