9.
気付いたらマナファナの左手から剣は消えていた。
多分本物を握っていたら取り落していただろう。それほど呆然自失したのは、ソノリアの豹変が恐ろしかったからではない。確かに、いきなり怒り出して当り散らしたのはびっくりしたが、その怒りは誰の為かと言えばマナファナの為だし、だからかなりびっくりしたがそれだけだ。
それよりも、世界が哀しかった。
「‥‥マナファナ」
できるなら崩れ落ちたかった。マナファナの血を世界が求めているのは知っている。それが約束だし、そのためにマナファナは歩いてきたから。祖母から母へ、そして自分へ受け継がれた血脈を、届けるために。
「‥‥やっぱり、母さんも」
「マナファナ?」
あれだけの動きをしてみせたくせに、息も切らせずソノリアが駆け寄ってくる。あれだけの、と言っても正直マナファナには理解できなかった。あまりに速くて、そして容赦なくて。
「母さんも、世界が殺した、で、間違いはないんだ‥‥」
何故、どうして。
救えと言うから救いに来たのに、その相手に無駄に殺されたということで間違いはないのだ。
言葉を操る泥人形。あれは祖母の時代にはなかった。母の時代になって、その最後に顕れたものだ。そして母の生命を奪った。それを知っている。
祖母は違った。彼女は崖から足を踏み外して死んだ。それだって、収まっていなかった地震で急にできた崖だったから、世界が殺したと言えばそうだけれど。
「なぁ、ソノリア」
泣き笑い。それしか浮かべられなくて、マナファナはソノリアを見つめた。本当のことは告げられなくて、どうしても、いつだって、ごまかしてしまうけれど。
「どうして世界が私たちを殺すんだろうな」
「‥‥マナファナ」
どうしてマナファナがこんなに傷ついているのか、本当のところをソノリアに告げたことはないのだけれど、彼は知って怒ってくれたから、だから、苦しい。
「救われたがっているのに、何で、こんなところで殺すんだろうな」
「マナファナを死なせたりはしないよ」
きっぱりとソノリアが言って、それが嬉しくてやはり苦しくて、マナファナは首を横に振るしかできない。
「なんで世界が私を殺すんだ‥‥」




