8.
激情に駆られて吐血するように叫んで、けれどマナファナはやはり構えた剣を下ろさなかった。
「死ニナさい」
マナファナの言葉など聞いていないように、事実聞いていないのかもしれない、耳に当たる感覚器官は見られないから。同じ調子で囁きながら、泥人形はまっすぐ突っ込んできた。唱和する7体は動かない、それがなぜかは分からないが、ただ2人と向かってくる1体を囲んで揺らめいている。
「お前が消えろ」
マナファナが抗うのなら、ソノリアはその助けとなろう。それ以上に苛ついて、低く呟いた言葉にマナファナが肩を揺らすのは分かったけれど怒りは止めようがなく、ソノリアは全部を泥人形にぶつけることに決めた。
マナファナの横をすり抜けて、疾り来る泥人形に向かって双剣を叩き込む。一撃二撃、ではない。自分でもどれだけ振り回しているか分からないくらい、続けざまに切りつけて、ついでに膝も叩き込んで、それで少し気が晴れた。もちろん跡形も残らない。
「ハ」
師匠にこの恰好を強要されたときに禁止された目つきで、マナファナ以外の周り全部を睥睨して、やはり禁止された仕草で嘲笑する。可愛らしいソノリアしか知らなかったマナファナが引いているのは分かったが、正直ちょっと、最近溜まっていたこともあり抑えられない。
「世界ってンなら人間なんかの言葉でくっちゃべんな鬱陶しい」
正直内容なんて理解できないことのほうが多かったが、マナファナが傷付くのがよく分かったからそれだけで許さない理由には十分だ。黙らせることにした。
死ニなさイ死にナサいの唱和は止んでいなかったが、あと驚愕したのかマナファナは微動だにしなかったが、敵が動き出す前にソノリアはとりあえず駆けた。暗殺剣の神髄は気付かれないこと。相手が死んだとも思わないうちに殺すのがその極意だから、音もなくソノリアは踊り狂った。泥人形が還る土埃だけが漂って、血潮でないことに安堵した。ひらひらと視界の端で翻る服は、今更動きを阻害したりしない。
「傷付けるなら容赦しない」
つい癖で血糊を飛ばすための動作として双剣を払って仕舞い、口元だけは柔らかく笑みの形を作ってソノリアはマナファナを見つめた。彼女は最初の位置から微動だにしていなくて、ソノリアも動けなくなって、だから動くものは視界になかった。
「ねぇ、マナファナ。敵なら僕が全部黙らせるから」
だから傷付かないで、と、ようやく仮面を思い出してソノリアは囁いた。




