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赤の空  作者: 岩
100年の旅
29/53

6.

 いつしか夕焼けは終わっていた。


 これだけは変わらない、変哲のない夜空が頭上に広がっていた。


 目の前には穏やかに燃える焚火、と、それから至極真面目な顔のソノリア。こんな表情をすれば意外ときちんと男に見えるのだな、とそんなことを想った。


「役割と‥‥記憶と、罪」


 復唱するそれに、頷く。きっぱりと言えはしなくても、はっきりと頷くことだけはできたから。


「そう。罪がある。祖母が犯した罪は、祖母が死んでも消えなかった。

 その記憶がある。だから私は役割を捨てられない」


 罪とは何だ、とはソノリアは訊かなかった。それにマナファナは、深く安堵した。


 こんなところで罪を認めてしまったら、死に場所以外で死んでしまいそうだった。例えば今、魔のものが地面から湧いて出たら、きっとマナファナは抗えない。今が夜で、炎の傍らで、本当に良かった。


「‥‥ねぇ、マナファナ」


 絞り出すようにソノリアは言った。嫌だな、と思った。傷つけるのは本意ではない。気が付けば、そのくらいには彼に気を許していた。世界に生きる全ての為にこの生命(いのち)はあるのに、思わずそれより彼を優先したくなる、くらいには。


「‥‥何だ」


「‥‥マナファナの‥‥お祖母さんの、役割って‥‥何」


 だから、それを問われた時の誇らしさは、ソノリアを想う気持ちとは矛盾するのだ。


 心痛など欠片も与えたくないと祈りながら、それなのにマナファナは笑顔で応えるのだ。


「世界を救うんだ」


 馬鹿馬鹿しいと唾棄したこともある。それでも、祖母が死んでそのあとを母が受け継いだように、母の死から己がその剣を受け継いで、そうしたらそれ以外の道なんて選べなかった。


「この剣で世界を救うんだ。

 祖母は一度失敗した。悔やんで悔やんで旅立ったけど届かなかった。母でもやっぱり辿り着けなくて、そして死んだのだけれど、だから次は私が」


 ほらこんなにも誇らしい。微笑んで告げることができる、自分は苦しんでなどいない。


 だから泣きそうな顔をしないでほしい。


 そういえば救う世界にソノリアも生きている。そう思えば、怯む気持ちなんて欠片もないと思えるんだよ。

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