5.
夕焼けの名残をじっと見ていた。空は夜の色に染まりつつあるが、まだ西の空だけが太陽を追いかけて赤黒かった。
「‥‥ねぇ、マナファナ」
おずおずと、珍しくも言い辛そうにソノリアが口を開いた。遠慮なんて概念がこの男にあったとは驚きだ、と、マナファナは彼に視線を落とした。
「‥‥マナファナは、どうして旅なんてしてるの?」
この時代。女性は大事に大事に隠される。つらい思いや痛い経験などしないように、大切に大切にされるものだ。
それを蹴ってこうして土埃にまみれる理由。
「‥‥本当はこれは、祖母の旅なんだ」
何故素直に答える気になったのか、それはよく分からない。感傷だろうか、誰かに聞いてほしかったのだろうか、自分は。
分からなかったが、これまでになかったほど素直に、端的に答えていた。
「祖母は逃げたんだ。できることがあったのに逃げた。
それを後悔して旅を始めたけど、結局辿り着けなかった。‥‥今気付いたけど、こうやって襲撃でも受けたのかもしれない」
もともと、ひとたび建物にでも入って外に出たら自分がどちらから来たのか分からなくなるくらいのひどい方向音痴だったから、こんな風に何度も襲われたらどちらを向いているのかなんてすっかり判らなくなっただろう。そしてきっと、それすら自分のふがいなさとして己を責めたのだろう。
「悔いながら諦めて、それでも諦めきれずに母に託して、‥‥そして死んだ、らしい」
それは母が幼いころ、マナファナが生まれるずっと前に。それでもマナファナはそれをよく知っている。
「そして母も旅に出た。
父と出会って絆されて、私を産んだけど、でもやっぱり旅を続けていたんだ」
「‥‥もしかしてマナファナも、一緒に?」
ゆるゆると首を横に振った。マナファナは残されていた。ほかの女性と同じように大事に大切に隠されていた。
そこから飛び出したのは、
「‥‥母が死んだからだ」
受け継ぐのは自分しかいないから、受け継いだ。それだけだ。
「この剣は」
マナファナは死を意識した。そうすると生まれる質量。左手は握っている。最初に顕現したときは色も質感もなかったくせに、馴染んでくるに従ってごく普通の存在感を身に着けた、それ。
「あぁうん、それもすっごく不思議だったんだよね」
魔のものが溢れる世界になったくせに、魔の力は人間には現れなかった。その、ありえない不思議がマナファナの手の中にある。
「私もこれについてはよく分からない。
ただ、これは私を流れる血の中に潜んでいて、」
邪魔だなと思えば消える。というよりマナファナの体内に戻される。
「そして私は役割と記憶と罪を受け継いだ」
きっぱりと言えればいい、と思っていたのに、どうしても声は震えた。




