4.
夕焼けを見ていた。
魔のものは火の近くには寄ってこない。かといって昼間からたいまつを手に歩くのも具合が悪く、だから夜に差し掛かるころに見つけた襲撃の合間にようやく火を起こし、そして息をつく。もう何日も、そんな風に過ごしていた。
「‥‥昔は空が青かったって」
もう何日も、襲撃を受け撃退し、時に逃げ出し、荒野を放浪していた。正直言ってすでに方向感覚なんて失せていた。ただ、行きたくないような気がする方向を目指すだけ。他人と話すこともなかった。まるで世界と二人しかないみたいだった。
だから、その呟きの相手はマナファナ以外になかった。
「‥‥?」
それでも即座には反応を返せなくて、鈍く顔を向けただけだった。
「赤以外の空なんて見たこともないけどさ」
顔を向けた先で、ソノリアも遠く空を見上げていた。だからマナファナも、また空に視線を戻した。
「どんなだったんだろうね」
「‥‥その頃だって」
正直こんなに連続して魔のものを斬り捨てたことはなくて、マナファナは疲れ果てていた。だって魔のものは世界の意志だから、それはつまり世界の意志を斬り捨てるということだから。
「夕焼けは赤かったよ。そして美しかった」
夕焼け。
この気持ち悪い空を美しいと言える人たちは、なんて幸運だったのだろう。それとも焼けた色をさすのではないのだろうか。あぁそれでも、確かに昼日中の赤い空と比べれば、それは儚く美しいのかもしれない。
夜が迫ってくる。
だから夜はこんなにもホっとするのだ。夜に向かい暗くなっていく空が名残惜しいのだ。それは昔と同じだから。
「誰もが忘れてしまっても、私は知ってるよ」
蒼穹。蒼の天蓋。その下に生きられたなら。
だからマナファナは旅をする。世界を斬り捨ててでも、かつての世界を取り戻すために旅をする。この赤い空は、間違った世界は、正されなければならないから。
たとえ世界が正しい己の姿を忘れてしまっても、マナファナは覚えているから。
だからマナファナは旅をする。それ自体がすでに贖罪なのだと、決して口にはしないままに。




