1.
そしてマナファナは炎を見つめている。
(‥‥父さん)
あの町の全てを斬り捨てて出てきてしまった。
父はあの死体をどうしたのだろうか。
あれから2年が経った。女という生き物としか見られないことに辟易として、可愛気など感じ取られないような言動が身について久しい。それでも補給のために町に寄れば、いつだってその目で見られる。そのこと自体は、仕方ないと諦められるようになったけれど、かといって敢えて着飾る気にもなれなかった。自分は女であると声高に、主張する生き物には今更なれない。
(父さん、ごめん)
ふと、思った。
父はマナファナの旅立ちは知っているけれど、その意味は果たして理解しただろうか。
ほんの少しの愛と、大部分は義務感で自分を産み落としたあと、母はまた旅立った。その母の死を、父は知っているのだろうか。
マナファナも、母も、父には何も残さなかった。
(でも私から言うことはできなかった)
母の死を告げ、だからこそマナファナが次に旅立たねばならなかったのだと、それを告げてどうするというのだろう。父をまた徒に傷つけるだけだ。母から愛してもらえなかったのだと、痛いほど理解しているあのひとを、その娘であるマナファナがさらに傷つけることなどできない。ただでさえ、2人しかいない兄弟を斬り捨てておいて。
思えば父も、血の縁に恵まれないひとだ、と思う。
両親はなかった。少なくともマナファナは会ったことがない。望んで得た嫁は、たった一人娘を産んで出て行ってしまうし、その両親があったのかどうかも分からない、何故なら嫁は外から来た者だったから。娘は弟を殺して出て行って、あぁ、つまり父はひとりだ。
(ごめん、父さん)
本当は、母だって父を愛していたのだ。それを告げることはなかったけれど。それでも、役目として娘を孕まねばならなかった母が、その父親として選んだのは確かなのだ。ほかに選択できることなどなかった、母が、たった一度望んだのが父だったのだが、
(それを私が告げるわけにはいかない)
だって筋が違う。
何とも面倒臭い両親に挟まれたものだと思う。
父のことを想ったら、心は少し軽くなった。正直愛とかよく分からないけれど、この心の温かさがそれなのであれば、あぁ、確かにいいものなのかもしれない、とぼんやり思った。




