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赤の空  作者: 岩
100年の旅
24/53

1.

 そしてマナファナは炎を見つめている。


(‥‥父さん)


 あの町の全てを斬り捨てて出てきてしまった。


 父はあの死体をどうしたのだろうか。


 あれから2年が経った。女という生き物としか見られないことに辟易として、可愛気など感じ取られないような言動が身について久しい。それでも補給のために町に寄れば、いつだってその目で見られる。そのこと自体は、仕方ないと諦められるようになったけれど、かといって敢えて着飾る気にもなれなかった。自分は女であると声高に、主張する生き物には今更なれない。


(父さん、ごめん)


 ふと、思った。


 父はマナファナの旅立ちは知っているけれど、その意味は果たして理解しただろうか。


 ほんの少しの愛と、大部分は義務感で自分を産み落としたあと、母はまた旅立った。その母の死を、父は知っているのだろうか。


 マナファナも、母も、父には何も残さなかった。


(でも私から言うことはできなかった)


 母の死を告げ、だからこそマナファナが次に旅立たねばならなかったのだと、それを告げてどうするというのだろう。父をまた徒に傷つけるだけだ。母から愛してもらえなかったのだと、痛いほど理解しているあのひとを、その娘であるマナファナがさらに傷つけることなどできない。ただでさえ、2人しかいない兄弟を斬り捨てておいて。


 思えば父も、血の縁に恵まれないひとだ、と思う。


 両親はなかった。少なくともマナファナは会ったことがない。望んで得た嫁は、たった一人娘を産んで出て行ってしまうし、その両親があったのかどうかも分からない、何故なら嫁は外から来た者だったから。娘は弟を殺して出て行って、あぁ、つまり父はひとりだ。


(ごめん、父さん)


 本当は、母だって父を愛していたのだ。それを告げることはなかったけれど。それでも、役目として娘を孕まねばならなかった母が、その父親として選んだのは確かなのだ。ほかに選択できることなどなかった、母が、たった一度望んだのが父だったのだが、


(それを私が告げるわけにはいかない)


 だって筋が違う。


 何とも面倒臭い両親に挟まれたものだと思う。


 父のことを想ったら、心は少し軽くなった。正直愛とかよく分からないけれど、この心の温かさがそれなのであれば、あぁ、確かにいいものなのかもしれない、とぼんやり思った。

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