4.
覚えている母の面影は強かった。物心ついた頃にはいなかったのに、何故だか強さだけは残っている。強い瞳でどこかを見つめていた母。一度もマナファナを見たこともないように思う。
「――マナファナ!」
けれどそれらすべての思い出は今は遠く、誰か別の人のそれだと感じた。
父親と、テヘトと、抱きついてきたのは友人のコーニア。そしてその兄弟たち。
(私は‥‥)
色々な記憶が交錯して、どれが自分だかよく分からない。知っているのに、遠い人たちのように感じる。
「‥‥だから大丈夫だと言ったでしょう」
呆れはてたように、医者の先生が言う。抱きついていたコーニアが、顔を上げて照れたように笑った。
「だって、マナファナらしくない失態なんだもの。どうやったらこんなとこ、怪我できるの?」
マナファナは薄く笑った。
「え‥‥えぇとね。こー、なかなか切れなかったもんだから。こー持って、力を込めたら勢いよく、すか、と」
そういうことにしておこう。
今度こそ、その場にいた全員が呆れた顔をした。その中で、医者だけが硬い表情になったのをマナファナは見逃さなかった。父親も、笑い声の割には表情は明るくない。
知っているのだろう。憮然とした表情の下で、冷静に考える。どこまで知っているか、それが問題だ。
「マナファナ‥‥ほんとにらしくないよ?いやある意味、すっごい、らしいけど」
「うん‥‥なんつーか、自分でも何がなにやらよく分かんないや」
「‥‥あんたン家の包丁、相当切れ味いいのねー‥‥」
ぎくり。少しだけひきつる。そうか、包丁の切れ味なんてそんなによくもないはずだった。だがどうやら気付かれなかったようだ。
そういえば。マナファナは、軽く右手を動かしてみた。ちゃんと動くようでホっとする。どうやら見掛け倒しだったようだ。相当血が流れていたような気がしたが。




