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DEAD-LOCK ―探偵たちの休日出勤―  作者: 西浪
皿回し殺人事件

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皿回し殺人事件_④

 被害者である立野の自宅は、非常に小さなワンルームだった。

 タブレットに送られたのは、龍馬くんの言う通り写真でなく3DCGで作られたデータ。

 テレビとベッド、クローゼット、ローテーブル、そのすぐそばには小さい台所……といったように、ごく普通の室内だ。ローテーブルの上には、カラビナのついた鍵が置かれている。


 ご丁寧に、床には血痕まで再現されていた。ピンク色にしておいてくれたのが精一杯の気遣いなのだろう。

 調理台には外袋の開いた紙皿が置いてある。中身が数枚しかないところを見るに、使いさしのようだ。


 「ベランダと玄関が施錠されてて、鍵はテーブルの上。唯一開いていたのが、台所側の窓の鍵。で、幅数センチの格子があると……よくできてるな。これ小園くんが?」

 「実は得意なんですよね。あとはこれを」

 照れ笑いを浮かべた小園くんが、自分のタブレットを差し出す。

 こっちは写真だ。クローゼットの中が写っていた。ハンガーには普段着のほか、衣装が数着。端にはカラフルな皿が積み重なっている。それから、一メートル近い先端の尖った棒が一本。立野の商売道具たちだ。


 画面を送ると、皿のうち一枚がアップで撮られている。プラスチック製らしいそれは、一般的な皿と違って中心が隆起しているようだ。

 「こうなってるから回せるんだ。まぁ、普通のお皿じゃ無理あるよね」

 「手品グッズみたいなもんなんだね。……見て」

 大紫兄が画面を拡大した。皿は厚みがあり、縁が丸く整えられてある。

 「こんな縁で首筋は掻っ切れない。だから紙皿を使った……それじゃやり方として陳腐すぎる。

 そもそも皿を凶器にすること自体が無謀だ。もっと凶器に向いているものがあるのに」

 「皿回し用のスティック。先端もそれなりに尖ってるし、傷つけたいならうってつけだよね。

 立野の芸になぞらえて殺害したいなら、その方が余程直接的だし手っ取り早い。でもそれをしなかったのは何故か」

 「凶器が紙皿じゃないからだ。そもそも芸になぞらえて殺害する気もなかった。

 つまり突発的な犯行、紙皿は凶器でなく別の要因で現場に落ちたと考えるのが妥当」


 頷きながら、自分の首筋に手をやる。指先に少し早い脈を感じた。

 大紫兄が、わざと言っていない事実がある。

 ただ攻撃したいだけなら、的の広い腹や胸を刺すと思う。突発的とはいえ確実に殺したい相手じゃないと、こんな箇所は傷つけない。


 そして、そんな時に紙皿なんて使わない。


 私なら。


 龍馬くんの視線が向いて、何となく手を下ろす。

 「……現場は台所。凶器はナイフや包丁、且つ持ち去られていることでほぼ確定。だとしたら、ひとつ不可解なことがある」

 大紫兄の手からタブレットを取り、CGを拡大する。ピンク色の血痕は、死体の真下に大きく広がっていた。

 「この現場の血痕は床に広がっている。立っている人の首を切ったなら、血は横向きに噴き出るのが妥当だよ。

 仮に被害者を倒してからやったのだとしても同じ。死体の下に血溜まりができるなんてことは、あり得ない」

 「そうだね。紙皿でこう受ければ、血は下に落ちるんじゃない?衝動的なら、正面から襲いかかるのが一般的だ。

 自分に血がかかって、慌てて紙皿を盾にしたなら……あぁ、ごめん」

 大紫兄が紙皿代わりにお煎餅を首元に当てる。不愉快だったので、奪い取って噛み砕いてやった。めんつゆのあとに食べる醤油煎餅は辛い。差し出された満杯の麦茶で流し込む。

 「握りしめた跡があったのも納得だな。助かった」

 麦茶を飲み干した龍馬くんが、コップを置いて立ち上がる。

 「あとは警察の仕事だ。依頼も皿のことだけだったんだろ」

 「……まぁ、そうだけど」

 髪をかき上げると、こめかみが濡れていた。知らないうちに冷や汗が流れていたらしい。何となく視界が暗いような気がする。


 こんな状況でも目の前にある謎を「勿体ない」と思ってしまうのは、探偵の(さが)だろうか。

 想像以上に、この仕事には適性があったらしい。

 いつもの癖で隣を見る。大紫兄は一瞬首を振りかけたが、後ろから手を回すとゆるく肩を引いてきた。ソファーに深く凭れる格好になる。

 いつからだったのかは知らないが、頭に嫌な痛みが纏わりついていた。


 「碧波はどうしたい?」

 「許可ってことだと取るよ?」

 「碧波がいいなら、いいよ。だって勿体ないじゃない?これで終わるのは」

 大紫兄が笑みを浮かべた。苦くない、楽しげな笑みだ。適性があるのは彼も同じということか。

 「やろう。おおかた目星もついてるでしょ」

 「だね。どうよ龍馬、俺たち成長してるだろ」

 「あんまり成長されると、こっちの仕事がなくなりそうだけどな」

 冗談交じりに肩をすくめると、龍馬くんはソファーに深く座り直した。

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