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DEAD-LOCK ―探偵たちの休日出勤―  作者: 西浪
皿回し殺人事件

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皿回し殺人事件_⑤

 私たちにとって、大抵の密室は大した問題ではない。

 事故や自殺でない完全な密室下の殺人など、存在しえないからだ。


 あの時もそうだった。

 すぐにわかった。

 だから腹立たしかった。陳腐なやり方に邪魔をされたことが。


 別の思考で煮詰まり始めた頭を冷やすべく、残りの麦茶をあおる。窓の外に、さっき使った雨樋が見えた。うちは素麺を流すのに使ったわけだが……要はああいうことだ。

 視線をやると、大紫兄も同じ方を向いている。いつも通り、同じ思考でまとまったらしい。

 目が合った大紫兄は、少し眉を上げた。碧波から言いな、の合図だ。


 「現場が密室扱いなのは、鍵が部屋の中にあるからだよね。

 でも遺体発見時には、台所の窓の鍵が開いていた。格子があるから人が出入りすることはできないけど、それだけの隙間があるなら、鍵を室内に入れることは容易に可能だ。

 うってつけの道具もある。立野の家から、凶器以外に一つなくなったものがあるでしょ」

 「ありましたっけ……?」

 両手でコップを持ったまま、小園くんが首を傾げる。

 「立野が得意な芸は皿回し。イメージとしての皿回しって、どうやる?」

 「こう……両手に棒を持って」

 「そうだよね。東が言うに、『立野の皿回しの腕は一級品』。片手だけで芸を完結していたとは思えない。立野の皿回しスティックは二本あったんじゃないかな。

 でも、クローゼットの中にあったのは一本だけ。もう一本は、密室作りに利用したのち持ち去られたと考えられる」


 私が話す間にソファーを離れた大紫兄が、家の鍵を手に戻ってきた。

 うちの鍵にも、立野のものと同じようにカラビナがついている。座った大紫兄は机にあったペンを取り、そのカラビナに通して持ち上げた。

 「犯人はクローゼットからスティックを取り出し、部屋を施錠して窓の方へ回った。

 スティックにこうやって鍵を通し、窓の隙間から差し込む。ローテーブルの上に上手いこと落として、台所の窓を閉める。これで『密室』の完成だ」

 緩やかにペンが傾けられた。カシャンと音を立てて、机に鍵が落ちる。

 「普通に投げ入れるんじゃ大して遠くにやることはできないし、不自然なところに落とすわけにはいかないからな。

 立野の皿回し用スティックは、特注品の一メートル近いものだ。現場は狭小ワンルーム。台所の窓からローテーブルまでなら、確実に届く」

 そこまで言うと、大紫兄はソファーに凭れかかった。自分のコップを傾けつつ、私のコップをに麦茶を足す。よくある推理終わりのコーヒーみたいなもんだ。

 「東は犯人としては除外。

 わざわざこんな方法で密室を作る理由がないからな。そもそも偽装工作をしなくたって、玄関を開けておけばただの他殺にできるんだ。

 犯人は、どうしても密室を作りたい理由があった人物。だけど」

 「それを捜査するのは俺たちの仕事、だな」

 呟いた龍馬くんが立ち上がり、鞄からクッキー缶を取り出した。

 「二人で食ってくれ。ちゃんとした礼は後日する」

 「さっき出してくれて良かったのに」

 「いいのか?すぐなくなるぞ。……またな」

 眉を上げて笑うと、龍馬くんは足早に玄関へ。荷物をまとめた小園くんが追いかけ、あっという間に事務所は静かになった。




 「……なんか味気ないんだけど」

 ソファーに寝転び、ゆっくり回る天井を見上げた。今回の推理は悪くなかった。にもかかわらず物足りないのは、間違いなく犯人を突き止めなかったせいだろう。

 これ以上深入りできたかと言われれば、無理だっただろうとは思うが。

 でも私たちにはまった枷だって、いつか解かなければいけない時が来る。

 一年後になるか十年後になるかわからないが、いつまでもデッドロックが保てるわけではない。

 ……いつまで保っていられるだろうか。

 そもそも、保っていた方がいいのだろうか。


 「探偵やってれば、そういう事件もあるよ」

 目を覆うようにして、大紫兄の手が乗った。揺れていた天井が消えて、少し頭が冷える。座枠が少しだけ軋み、すぐ側で声が聞こえた。

 「碧波、週末何時に起きる?」

 「……私メニーちゃん知らないよ」

 「知らなくても、行けば楽しいよ。あんなに行きたがってたでしょ」

 くすくすと満足気な笑い声が響き、スマホの電源ボタンを押す音が聞こえる。

 目が覚める頃には、シーのチケットやファストパス、パーク内ホテルまできっちり予約されていることだろう。

 確かに今が一番楽しそうなので、ぜんぶ任せることにしよう。


 週末は晴れていればいいなと思う。

 



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