皿回し殺人事件_③
「……で、雨樋か」
「隣のホームセンターに売ってた。考えただろちゅるちゅる」
「龍馬くん麺止まってるちゅるちゅる」
「口の中にまだあるだろ」
家の前には、斜めに掛けられた長い雨樋。片手に素麺、片手に新しいホースを持った龍馬くんが眉を下げる。めんつゆの入った器を手に、小園くんが駆け寄った。
「龍馬さん、食べますか?」
「食べる」
「はいどうぞ、口開けてくーださいっ」
「違うッ!代われよ!」
一向に流れてきそうにないので、ザルに流れ着いた方の素麺に手をつける。私たちの手には紙製の器。風情を考えればガラスの器を使いたいところだったのだが、これも推理のためである。
「それで、警察はどう見てるんだ」
「自殺とするには違和感がありますが証拠がないので事件とも言えません」
この上ない棒読みで言った龍馬くんが隣に膝をつき、ずるずると素麺をすする。
「建前上はな。そういう時は事件として捜査することにしている。
今回は深入りしないでおけ。殺害方法さえわかれば、あとはこっちでやる」
「殺害方法がわかれば犯人もわかるもんじゃない?」
「だから関係者のことは教えない。現場の状況はちゃんと伝えるよ。
……無茶言ってるのはわかってる。が、まだ早い」
誰に何がまだ早いのかはわかっていたし、龍馬くんも言うつもりはなさそうだった。
大紫兄も黙っている。幾らかの安堵とともに、まぁ二人ならこうするだろうなという予測もあったので、何も言わずに頷いた。
「写真の代わりにCGを作ってある。後で見せるから……めんつゆ足すか?」
「うん」
素麺をつまむと、ひどく絡まっていた。正面から箸が伸びて、固まった麺を半分取ってくれる。何となく力の抜けたような大紫兄の顔を覗き込むと、錦糸卵が大量に乗せられた。催促したわけではないのだが、ありがたく貰っておく。
こんな制約が必要なのは私のためだ。そもそも春のあれがなければこんな依頼は数多ある事件の一つに過ぎないし、なんなら私たちは探偵でもなかっただろう。
だからなんだと言うと、その先まで思考を進められた試しはない。結果だけを固く立てて、後から思い出したように過程を悩み出す大紫兄とは違う。
だから上手くいくのだろうけれど。
「これも食べな。あとこれ」
「……麺沈んだんだけど」
気が付くと、器には惣菜コーナーで買ってきた焼き鳥やらコロッケやらが山盛りになっていた。




