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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第六章|全てを明らかに

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34.真実と戸惑い

 王城での出来事は、すぐに王都中を駆け巡った。

 民衆は明かされた真実と一連のことを、まだうまく理解するには躊躇(ためら)いがあるようだ。

 無理もない。五代前――百年以上前からの価値観なんて、すぐに変わるものではない。

 そして、国の歴史が塗り替わったとしても、この国の王家は変わらず続いていく。


 「宰相閣下が……あんな恐ろしいことを裏でされていたなんて……」

 「魔力封印の上、終身幽閉になったそうよ。――牢は魔力が効かない構造になっているとか」


 民衆が囁くのを聞きながら、アウレリオは歩いていた。

 向かうのは――王都で滞在しているオルドラン伯爵邸。

 宰相の力が及ばなくなり、フェルミンの体調も少しずつ快方へ向かっているようだ。

 しかし、彼の指輪は――外されていなかった。


 「ミレイアを宰相の手から守りきれなかったのは――私の責任だ。だから、この指輪は……戒めとして、つけておく」


 声を落とすフェルミンの目は、僅かに揺れている。

 責任を感じている彼に、アウレリオはかける言葉を一瞬失う。


 「ご主人様! そして――ファルネーゼ侯爵様。王城から文が届いております」


 ――王城? 何の用だ?


 一瞬アウレリオの頭の中を疑問符が駆ける――。しかし、要件はなんとなく察することができた。


 「……オルドラン伯爵。……そちらを、開封していただけますか?」

 「これは、女王陛下が公式に使用される封蝋――国は、我らに何かを求めているようです」


 フェルミンが封を開くと、おそらく女王の直筆で、思いもよらぬことが書いてあった。


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 ――アウレリオ・ファルネーゼ侯爵及びフェルミン・オルドラン伯爵。


 この度のお二方の働きに、深く感謝いたします。

 おかげで、この国の誤りを照らすことができ、私も安堵しております。


 話というのは、他でもありません。

 私のもとで、手助けをしてくださいませんか?

 正統な血を引くあなたがたに、私がお願いするのも烏滸がましいかもしれません。

 ですが、この国を照らすため助力いただきたいのです。


 この国の過ちの責は、私――いいえ、現在のウィンドミル王家が負います。


 そして、お二方の今回の件の多大な功績を称え、そして、この国に対しての償いとして。

 公爵の位を授けたいと考えております。


 その件については後ほど王城から正式通達に向かわせます。


 多大なる感謝を込めて。


 ――女王 デルフィリア・ウィンドミル。


 --------------------------


 「やはり……そうきたか……」


 アウレリオは呟く。

 国の真実が知られた今、正統な血を持つものを王城に入れておきたいのだ。

 そのための陞爵(しょうしゃく)ということは理解できた。

 断ることはできないだろう。しかし、国境の町(現在の領地)だけは安堵してほしいものだ。


 「正式な打診がくるのはしばらく後でしょう。――一度、アリーチェのもとへ、戻ってやってくれませんか?」

 「そうするつもりです。オルドラン伯爵――いえ、義父上(ちちうえ)。明日、ファルネーゼ領へ戻ります」


 夜、アウレリオは客室から、屋敷のバルコニーへ出る。

 満天の星がことさらに夜空に輝いて見えた。まるで、明日からの国の行く末を照らすように。


(全て、終わった――。父上、母上、姉上、クロエ……俺は、この国を照らすことができたでしょうか)


 ひとつの星がきらりと光る。喪った者からの返事のように。

 アウレリオの頬に一筋の涙が伝う。そこには『血霞の侯爵』と謂れなき異名を付けられた彼の姿は、どこにもなかった。


(この件の裁定は、ファルネーゼ領にも伝わっているだろう。アリーチェが動揺しなければよいが――)


 彼は、屋敷に残してきた妻のことを想う。今回の件で一番心を痛めているのは、彼女だ。

 戻ったら彼女の傍にいよう。彼はそう夜空の星々に誓った。


 朝になり、フェルミンに出立の挨拶をし、アウレリオとフリオは馬車へ乗り込む。

 カタカタと動き出す車輪に、屋敷で待っている彼女との距離が近くなっているのを感じていた。


 そして、窓の外の草木は陽の光を浴びて、今までと違う輝きを見せているように感じる。

 この国は少しずつ、だが、確実に動き始めている。

 百年以上にわたった価値観も、少しずつ変わっていくだろう。


 ファルネーゼ領は、無事だろうか。そして、何よりアリーチェは――心労で倒れてはいないだろうか。

 彼は、組んだ足先を何度も組み替える。

 そして、ふっと力が抜けていくのを感じていた。


 ゆっくりと時が経つ。外の景色を彼はぼうっと見つめる。

 全て終わった。そして、これから始まることを彼は考え、ひとつ呼吸を落とす。


 ただ、屋敷に置いてきたアリーチェの心情を思うと、一刻も早く彼女のもとへもどらねばと彼は強く思う。

 当然の帰結とはいえ、母親を喪った彼女は――大丈夫だろうか?

 彼女の翡翠の瞳が悲しみで揺れるのを、もう見たくはないし、これからもさせない。


 戻ったら、彼女が笑顔でいられる生活を、今度こそ――前を向いていけるように。

 カタカタと走り、揺れる馬車の中で、彼は、その手を握りしめた。

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