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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第六章|全てを明らかに

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32.全ては照らされてゆく

 ――王城、玉座の間。

 

 アウレリオ、フリオ、フェルミンは女王デルフィリアの前にいた。

 後ろには証人としてサラとアグスティンも控えている。

 

 周囲の衛兵は、心なしか、ピリッとした空気を発している。

 まるで、これから始まることを、予見しているかのように。


 デルフィリア女王の側に控える宰相サヴェリオ・フランドルは口角を上げ、余裕に満ちた不敵な笑みを見せている。


(ここから、どう崩す――? 物証は全部揃っている。オルドランとファルネーゼ両家の証言も得られる)


 アウレリオは頭の中で最後の計画を素早く練る。表情ひとつ変えずに。


 「――陛下、畏れながら申し上げます」


 彼が口を開くと、宰相の眉がピクリと動く。

 デルフィリア女王は笑みをたたえながらも――目は笑っていない。


 「陛下もご承知おきのことかと存じますが、五年前、我がファルネーゼ侯爵邸で起きた襲撃事件に関する不審な点がいくつか見つかり、調査を進めました。先代の父レイナルド、母アルセリア、姉アデリナ、そして当時の侍女長クロエ・シフエンテスが何者かによって――殺害されました」


 空気が一瞬、風もなく凍てつく。


「――それが、今回の謁見と何の関係があるのかね? ファルネーゼ卿」


 ふふんと見下ろすように吐き捨てる宰相を鋭く見据え、アウレリオは続ける。


「――襲撃した者は、どこかの私兵のようでした。賊などではない。……これが、その証です」


 布に包まれた金属の紋様を女官経由で女王へ手渡すと、一瞬、女王の顔色が変わる。


「これは――」


 女王はちらりと宰相を見るが、彼は表情を変えない。


「――そんな物、どこにでもある紋様ではないか。ファルネーゼ卿、君はまだ若い。亡き家族への執着は理解するが……その証拠は、本当に信用できるのか? 紋様ひとつで証拠とは――さすがに早計がすぎる」


 嘲笑うかのような口調で放たれるその言葉に、一拍、空気が張り詰めた。

 しかし、彼は退かない。


「どこにでもある紋様とおっしゃいましたが……それではなぜ、私の妻の実家、オルドラン伯爵家からも出てきたのでしょうか?」

「それは――ありきたりなものだから、じゃないのか? ファルネーゼ卿、復讐は結構だが――」


 『オルドラン』の名を出した瞬間、宰相の瞳が僅かに揺れたのを、アウレリオは見逃さなかった。


「――陛下、こちらをご覧ください。紋様が同じ物でございます」


 フェルミンが一歩前に出る。指輪を女官に渡した時――宰相が静かに吐き捨てる。


「……それが、何だというのだ、ただの……偶然の一致だろう」


 フェルミンが、指輪を外して、指に残った赤黒い顔料の痕を見せる。

 宰相の瞳が、また揺れる。


「――装飾品も、すべて同じ紋様が入っていましたな、そして同じ赤黒い印が」


 震える彼の手に、手紙がぐしゃりと握りしめられる。


「そして、この指の赤黒い顔料で描かれた印……この術は、ある家に伝わるもの。そして、それを持ち込んだのは――我が妻、ミレイア」


 『ミレイア』の名を聞き、宰相は呻くように声を上げる。


「忌まわしき翡翠の瞳を産んだ女に……役目を与えてやったというのに……!」


 アウレリオは、メモと手紙を取り出す。


「役目、というには伯爵夫人とずいぶん懇意にされていたようですね? つまり、閣下、あなたはご存知だったと――そう仰っている」


 彼はさらに表情を崩さず、続ける。――反して、宰相の目は、揺れ続けていた。


「そして――あなたは伯爵夫人へ宛てた手紙にこう書かれていた。『翡翠の血を消すことは、この国のためでもある』と。閣下、私の妻アリーチェにも、術を込めた装飾品を贈ろうとされましたね?」


 サラが「こちらに……」と装飾品を差し出す。アリーチェの誕生祝いに贈られるはず、だったもの。

 それを見て、宰相が声を上げる。


「――あの日、成年式で君が……王都にいたことを失念したのが誤りだったようだ、ファルネーゼ卿! 生き残った君が、翡翠の瞳を持つ娘を選ぶとは。その結果、その装飾は彼女に渡らなかった……!」


 女王が静かに口を開く。


「全ては、あなたがやった……そう仰るのですか? サヴェリオ・フランドル宰相、答えなさい……!」


 不敵に笑み、宰相が答える。


「全て……この国のためなのです、陛下。歴史がふたつあってはなりません。真実が明らかになってはこの国が揺らぎます。――ですから、『翡翠』とそれに連なる血は……ウィンドミルから消えていただかないといけません」


 女王の瞳が揺れる。


「歴史が――ふたつ。これは、どういうことなのですか? ウィンドミル王家に、かつて何かあった、と?」


 フリオが、屋敷の図書室にあった歴史書とアリーチェのブローチに入っていたメモを取り出し、女官に手渡す。その時、女官の手が震え、震えたまま女王に差し出す。


 女王の顔色が、さっと青白くなる。


「初代女王が翡翠の瞳を持っていたことは、知っていましたが……まさか……そんな……」


 アウレリオは重い口を開く。


「畏れながら陛下、この国は――」


 言いかけたところで、宰相はくっくっと狂ったように笑いだす。


「既にこの国は我がフランドル家のものだというのに……! 初代女王の血など、王家には残っていない……!」


 その時、衛兵に拘束されたミレイアが、連れられてきた。


「……ミレイア……!」


 フェルミンの震える低い声が、玉座の間に響いた。

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