32.全ては照らされてゆく
――王城、玉座の間。
アウレリオ、フリオ、フェルミンは女王デルフィリアの前にいた。
後ろには証人としてサラとアグスティンも控えている。
周囲の衛兵は、心なしか、ピリッとした空気を発している。
まるで、これから始まることを、予見しているかのように。
デルフィリア女王の側に控える宰相サヴェリオ・フランドルは口角を上げ、余裕に満ちた不敵な笑みを見せている。
(ここから、どう崩す――? 物証は全部揃っている。オルドランとファルネーゼ両家の証言も得られる)
アウレリオは頭の中で最後の計画を素早く練る。表情ひとつ変えずに。
「――陛下、畏れながら申し上げます」
彼が口を開くと、宰相の眉がピクリと動く。
デルフィリア女王は笑みをたたえながらも――目は笑っていない。
「陛下もご承知おきのことかと存じますが、五年前、我がファルネーゼ侯爵邸で起きた襲撃事件に関する不審な点がいくつか見つかり、調査を進めました。先代の父レイナルド、母アルセリア、姉アデリナ、そして当時の侍女長クロエ・シフエンテスが何者かによって――殺害されました」
空気が一瞬、風もなく凍てつく。
「――それが、今回の謁見と何の関係があるのかね? ファルネーゼ卿」
ふふんと見下ろすように吐き捨てる宰相を鋭く見据え、アウレリオは続ける。
「――襲撃した者は、どこかの私兵のようでした。賊などではない。……これが、その証です」
布に包まれた金属の紋様を女官経由で女王へ手渡すと、一瞬、女王の顔色が変わる。
「これは――」
女王はちらりと宰相を見るが、彼は表情を変えない。
「――そんな物、どこにでもある紋様ではないか。ファルネーゼ卿、君はまだ若い。亡き家族への執着は理解するが……その証拠は、本当に信用できるのか? 紋様ひとつで証拠とは――さすがに早計がすぎる」
嘲笑うかのような口調で放たれるその言葉に、一拍、空気が張り詰めた。
しかし、彼は退かない。
「どこにでもある紋様とおっしゃいましたが……それではなぜ、私の妻の実家、オルドラン伯爵家からも出てきたのでしょうか?」
「それは――ありきたりなものだから、じゃないのか? ファルネーゼ卿、復讐は結構だが――」
『オルドラン』の名を出した瞬間、宰相の瞳が僅かに揺れたのを、アウレリオは見逃さなかった。
「――陛下、こちらをご覧ください。紋様が同じ物でございます」
フェルミンが一歩前に出る。指輪を女官に渡した時――宰相が静かに吐き捨てる。
「……それが、何だというのだ、ただの……偶然の一致だろう」
フェルミンが、指輪を外して、指に残った赤黒い顔料の痕を見せる。
宰相の瞳が、また揺れる。
「――装飾品も、すべて同じ紋様が入っていましたな、そして同じ赤黒い印が」
震える彼の手に、手紙がぐしゃりと握りしめられる。
「そして、この指の赤黒い顔料で描かれた印……この術は、ある家に伝わるもの。そして、それを持ち込んだのは――我が妻、ミレイア」
『ミレイア』の名を聞き、宰相は呻くように声を上げる。
「忌まわしき翡翠の瞳を産んだ女に……役目を与えてやったというのに……!」
アウレリオは、メモと手紙を取り出す。
「役目、というには伯爵夫人とずいぶん懇意にされていたようですね? つまり、閣下、あなたはご存知だったと――そう仰っている」
彼はさらに表情を崩さず、続ける。――反して、宰相の目は、揺れ続けていた。
「そして――あなたは伯爵夫人へ宛てた手紙にこう書かれていた。『翡翠の血を消すことは、この国のためでもある』と。閣下、私の妻アリーチェにも、術を込めた装飾品を贈ろうとされましたね?」
サラが「こちらに……」と装飾品を差し出す。アリーチェの誕生祝いに贈られるはず、だったもの。
それを見て、宰相が声を上げる。
「――あの日、成年式で君が……王都にいたことを失念したのが誤りだったようだ、ファルネーゼ卿! 生き残った君が、翡翠の瞳を持つ娘を選ぶとは。その結果、その装飾は彼女に渡らなかった……!」
女王が静かに口を開く。
「全ては、あなたがやった……そう仰るのですか? サヴェリオ・フランドル宰相、答えなさい……!」
不敵に笑み、宰相が答える。
「全て……この国のためなのです、陛下。歴史がふたつあってはなりません。真実が明らかになってはこの国が揺らぎます。――ですから、『翡翠』とそれに連なる血は……ウィンドミルから消えていただかないといけません」
女王の瞳が揺れる。
「歴史が――ふたつ。これは、どういうことなのですか? ウィンドミル王家に、かつて何かあった、と?」
フリオが、屋敷の図書室にあった歴史書とアリーチェのブローチに入っていたメモを取り出し、女官に手渡す。その時、女官の手が震え、震えたまま女王に差し出す。
女王の顔色が、さっと青白くなる。
「初代女王が翡翠の瞳を持っていたことは、知っていましたが……まさか……そんな……」
アウレリオは重い口を開く。
「畏れながら陛下、この国は――」
言いかけたところで、宰相はくっくっと狂ったように笑いだす。
「既にこの国は我がフランドル家のものだというのに……! 初代女王の血など、王家には残っていない……!」
その時、衛兵に拘束されたミレイアが、連れられてきた。
「……ミレイア……!」
フェルミンの震える低い声が、玉座の間に響いた。




