表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第五章|翡翠の辿り着く場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/45

30.翡翠の決意

 うっすらと目を開けると、アウレリオ様の瞳が私を今までになく近くで捉えていた。

 彼の揺れる瞳に、涙が浮かび、ぽたりと一粒私の頬に落ちる。


 「――アリーチェ! ……よかった! ……本当に……目が覚めて……!」

 「アウレリオ様……ちょっと……痛いです」


 身体が折れてしまいそうなほどの強い力で抱きしめられ、私はぽつりとこぼす。

 彼は私を抱き寄せたまま、呟く。


 「君まで喪ったら……俺は……!」

 「もう大丈夫です――私は、いなくなりませんから」


 その時、コホンとビセンテさんの咳払いが聞こえる。


 「――若様。目覚めたばかりのアリーチェ様にそのようなことは……とにかく、お目覚めになられて、よかった……」


 横でエルミラの瞳も揺れている。


 「私も……このままアリーチェ様が目覚めなかったら……どうしようって……」


 胸が、ぎゅっとなる。


 「ごめんなさい、――もう、大丈夫です。私は、どこにも行きません。そして――」

 「全てを明らかにして、終わらせる、と? 君の母も……罪に問われる。それでも、いいのか?」


 アウレリオ様の心配そうな顔を見て、私は首を振り、答える。


 「もう、いいのです。――罪は罪です。そして、私も、どのような結果になっても……受け止めます」


 憎しみも、諦めもないと言ったら嘘になる。あの人は私の母だ――しかし、許せるわけでもない。

 一拍おき、アウレリオ様に話す。


 「……全てを、明らかにしましょう。そして――終わらせましょう。歪んだ歴史も、全て」


 彼は「ああ」と呟き、頷く。

 そして、私の方を見て――声を落とす。


 「アリーチェは屋敷にいてくれ。俺が――王城に出向き、終わらせる。エルミラ、アリーチェのことは頼んだ」

 「もちろんです。何かあったら私がアリーチェ様を守りますから!」


 エルミラがにっと笑い、力強く答える。


 「言うようになったな、エルミラ?」


 アウレリオ様がエルミラに悪戯っぽく話す。おそらく、これが本来の「やんちゃ」な彼なのだろう。


 (『あなたの一番近くにいる人を、信じなさい』ってお祖母様の言葉が、わかる気がする)


 彼の見せた笑顔に思わず私の顔もほころぶ。

 そして、今の私には立つ場所がある。この国境の町と、彼の隣で。

 あたたかいこの場所で、私はこれからも生きていく。そして、守っていく。

 お祖母様、エレノア様にルチアーナ様も見守ってくださっている。


 窓を見ると「大丈夫」と答えるように、差し込む光が一瞬ふわりと光る。


 ふと、アウレリオ様を見ると、彼は微笑みながらも、琥珀の瞳の奥に決意を灯して呟く。


 「……大丈夫だ。必ず終わらせてくる。だから――待っていてくれ」

 「はい……!」


 私も、胸の奥が熱くなる。ビセンテさん、エルミラ、フリオさんも頷く。


 「それでは王城に謁見の申し出をしてまいります。ご主人様は出立のご用意を――」

 「わかった」


 フリオさんが部屋を出ていったあと、私の胸がさらに熱を持ち、鼓動が早くなる。


(とうとう、始まる……もう、大丈夫。お祖母様、エレノア様、ルチアーナ様。見ていてください)


 胸の前で祈るように手を組む。エルミラと、アウレリオ様がそっとそれに手を重ねる。


 「――そろそろ夕飯の時間です。たぶん、アルヴィンも……いつもよりさらに腕によりをかけていますよ」


 エルミラがにやりとする。調べている間にアルヴィンにも伝えていたのだろうか。


 食堂に行くと、アルヴィンが腕組みをして、にかっと笑っていた。


 「今日は前祝いってことで。――すべてが終わったら、パーっとやりましょう。遅くなったけれどアリーチェ様の誕生日パーティーも兼ねて!」

 「――ありがとう、アルヴィン」


 私が微笑むと、アウレリオ様のアルヴィンを見る視線が若干鋭くなる。そんないつもの光景が、あたたかい。

 アウレリオ様が王城に行っている間、私がファルネーゼを守る。私が立つ場所を。


 最初は政略結婚という形でここに来たけれど、ファルネーゼ領(国境の町)は、いつの間にか私にとって大切な場所になっていた。

 このあたたかい空気を、人々を守って、彼の隣に立って生きていくのだ。


 そして、彼は、悲しみ、そして歪みを終わらせに行く。


 部屋に戻ると、扉を叩く音がして、アウレリオ様が入ってきた。

 そして、静かに私を抱き寄せる。

 私は、彼を見上げ微笑むと、彼の琥珀の瞳が揺れて、次第に近づき――唇が触れる。


 ――しばらく、そうしていたい。


 そう思うほど、彼の腕の中は暖かく、お互いの鼓動の響き合う音が聞こえるかのようだった。


 「もう、絶対、君に悲しい顔はさせない――そのために俺は行く」

 「そして……喪った人たち、全てを照らす。あなたにも悲しい顔はさせません」


 私たちは誓うように呟く。

 もう一度、口づけを交わし――彼の腕の中で、眠った。

 私の髪にそっと触れる彼の手は優しく、されるがままに触れられていた。


 彼の瞳を見ると――涙が僅かに溢れている。

 私はそれを、そっと拭った。

 

 彼はここまでどれだけの寂しさと恐怖を背負ってきたのだろう。

 悪名を囁かれても、耐えて生きてきたのだろう。

 目の前で家族が殺されていた、あの日から――。


 私はそんな彼をそばで支えて、生きていく。改めてそう心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ