表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第五章|翡翠の辿り着く場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/45

29.溶けゆく境界

 気がつくと、私は屋敷のどこでもない場所にいた。

 私は、ビセンテさんの部屋にいたはずだ。ここは、どこだろう?

 周囲を見渡しても、現実感のないヴェールを被ったような景色が広がるばかりだ。


(ここで、溶けていくのも――いいかもしれない)


 ふと、見上げると夜空のような宵闇が広がっている。

 本当に溶けていきそうな闇に、私は――願う。


(本当に、私が忌まわしき魔物のようなものならば――溶けて、消えてしまいたい)


 その時、ふっと目の前に光が灯る。


 「――アリーチェ」


 懐かしい声がした。八年前に聞いた、あの声。


 「おばあ……さま……?」


 光の中で、在りし日のお祖母様が――凛とした声と姿で、微笑んでいる。

 そして、お祖母様の隣には、私の姿によく似た水色の髪に、翡翠の瞳をもつひとりの女性が佇む。


 「アリーチェ、取り込まれてはだめよ。あなたのその瞳は――魔物などではありません。言ったでしょう? 誇るべきものと」


 お祖母様が微笑みながら、呟く。その目は少し――寂しそうだった。

 そして、光の中から、お祖母様の手が伸び、私の肩を抱く。


 「アリーチェ。顔を……よく見せてちょうだい」


 私は、少し背の高いお祖母様の視線に合わせ、顔を上げると、お祖母様の顔がほころぶ。

 そして、ふっと哀しそうに、声を落とす。


 「わたくしが世を去る時……あなたと、ミレイアが心配だった。わたくしが……世間から守りきれなかったばかりに――ミレイアは、取り込まれてしまった。しかし、彼女のしたことは……許されない」


 その言葉に、私の脳裏で母からの仕打ちが駆け巡り、胸が締め上げられる。

 視線を落とす私に、お祖母様は続ける。


 「アリーチェ、あなたの一番近くにいる人を、信じなさい。――大切な人が、できたのでしょう?」


 私は、少しだけぼうっとして頷く。

 お祖母様は、隣にいる女性へ視線を向け、静かに話す。


 「――あまりに似ていて、驚いたでしょう? この方は、わたくしの祖母……エレノア」


 静かに、――エレノア様が微笑む。

 やっぱり。この方が……追放された王太女。私の――ご先祖様。

 私を鏡に映したかのような姿のエレノア様。彼女が静かに話す。


 「――アリーチェ。翡翠の瞳を継いだ子。私は――ずっとあなたを見守っていました。ここにいるエウフェミアと共に」


 その時、ふっと淡い茶色の髪をした――僅かにアウレリオ様の面影を残した女性が、エレノア様の隣に姿を現す。


 「エレノア……様? そして、あなたは……ルチアーナ……様?」


 ふたりは頷く。そして、ルチアーナ様が、沈痛な面持ちで告げる。


 「あの日――義母が話していたのを聞いた。私たちの亡くなった母より……後妻である義母を愛していたお父様は、義母の言う通りに――姉と私を王家から追い出し、妹の……デルフィーナが王位を継いだ。でも、お父様は知らなかった。デルフィーナは、お父様の子ではないと。あの子は――義母と、当時の宰相の間の子だったの……!」


 ふっと闇の中に王城が映し出される。見えたのは、王妃らしき女性と――愛を囁く、男性。


 それを見て、ルチアーナ様は震える声で続ける。


 「お父様が身罷られて、デルフィーナが王位を継ぎ……しばらくして、『翡翠の瞳は、災いを呼ぶ』と言われるようになった」

 「……それで、私は……」


 私は――自分の目に触れた。

 かつての母の声が、突き刺すように聞こえてくる。

 私の口は、震えながら、声を落としていた。


「やっぱり、私は――翡翠の、瞳は……」


 ルチアーナ様が首を静かに振り、私に手を伸ばす。彼女の微笑みは――アウレリオ様によく似ていた。

 そして、ルチアーナ様の声と――彼の声が僅かに重なって響く。


 「アリーチェ、翡翠の瞳は――忌まわしきものなどではない。誇り高き色です」


 私の脳裏に、彼と出逢ってからの日々が走り抜ける。まるで走馬灯のように。


 エレノア様が、静かに語りかける。


 「私の血を引くあなたと、ルチアーナの血を引く彼が巡り合ったのは――おそらく終わらせるため。そして、新たな始まりのため。だから――消された歴史に、光を当てて」

 「できるのでしょうか――私たちに」


 ルチアーナ様が微笑む。


 「いいえ、全てを明らかにするのは――あなたたちにしかできない」

 

 そして、お祖母様が私に問う。


 「アリーチェ、あなたは、どうしたい? わたくしたちと共に行く? それとも――信じて、生きる?」


 一瞬答えに詰まる。しかし、ルチアーナ様の声に重なって聞こえた彼の声が、私を呼ぶ。

 私は、ぎゅっと手を握り、ゆっくりと頷く。


 「――生きます。どのようなことがあっても。翡翠の瞳と、彼と共に」


 私の声に安心したかのように三人は微笑み、少しずつ光の粒子となって溶けていく。

 そして、三人に誓うように、話しかける。


 「……もう迷いません。全てを明らかにして――終わらせる」


 私の目の前に光が爆ぜたように広がり、思わず目を閉じる。

 暖かい風が私を包み、ふっと意識が溶けてゆく。


 「――アリーチェ?」


 聞き慣れた、一番安心する彼の声が響く。

 導かれるように、声のする方へ私は流される。


 次に目が覚めた時は、私はもう迷わない。

 開かれる私の視界に、揺れる琥珀の瞳がうっすらと映った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ