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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第四章|真実を探して

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25.点は集まってゆく

 屋敷の離れのビセンテの部屋に、アウレリオとアリーチェ、そしてエルミラとフリオが集まっていた。

 ビセンテは四人を見渡し、納得がいったかのように頷き、呟く。


 「……その顔を見れば、わかります。あの日のこと、翡翠のことで……何か掴めたのですね」


 アウレリオが胸元から布に包まれた錆びた紋様の入った金属を差し出すと、ビセンテの顔が一瞬曇る。


 「……やはり、そうでしたか。あの日、襲撃した兵が落としていった物で間違いありません」


 ビセンテがベッドの横にある引き出しから、箱を取り出す。錆びる前のものと思われる同じ文様の装飾が入っていた。


 「私も――あの日の戒めとして、持っていたのです」


 その時、アリーチェの顔がさっと青白くなり、震えるように呟く。

 翡翠の目が、小刻みに揺れ――涙が浮かんでいる。


 「――その紋様、見覚えがあります。父の指輪に彫られているものと……同じ紋様です」

 

 エルミラも、震えながらコクリと頷く。


 「……あの日、襲撃してきた兵の剣の柄の紋様――同じです」

 「では、やはり、ファルネーゼを襲ったのも、オルドランの件も――」


 フリオの言葉に、その場にいた全員が、ごくりと息を呑む。

 ふっと燭台が揺れ、空気が張り詰める。


 「……ああ。宰相と、その私兵がやった。ここまで同じ紋様がファルネーゼとオルドランで揃った――そういうことだ」


 アウレリオが低く震えた声を落とす。

 そして、彼は話を続ける。


 「これだけでは――宰相を問い詰めても、しらを切るだろう。もっと……決定的な証拠がなければ」


 ビセンテが眉をひそめて声を落とす。


 「今、表立って動いては、宰相と伯爵夫人は証拠を隠滅し――そして、次の行動に移るでしょう。まずは内密に王都へ使者を送り、オルドラン側にも協力を仰ぐのです。行動はそれからでも遅くない」


 ビセンテの話に四人は頷く。部屋を包む空気が、より一層重くなる。

 

 「……それでは、王都へ使者を派遣しましょう。手筈が整った後、ご主人様が王都へ表向きの用事を作り――赴くというのは、いかがでしょう?」


 フリオが沈黙を破るように声を落とす。ビセンテがそれを聞き、深く頷く。

 アウレリオがにやりと口角を上げる。


 「――ちょうど近々、領地の報告に王都へ出向く予定がある。その時までに……揃えてくれ」

 「かしこまりました」


 フリオが深々と一礼し、部屋を出ていく。


 アウレリオはアリーチェの方をちらりと見る。彼女は、エルミラに肩を抱かれ震えている。

 今にも倒れそうなその様子に、彼も手を差し伸べ、彼女を支える。


 「アリーチェ、部屋に戻ろう――少し、休もう」


 彼女は頷き、よろよろと彼に肩を委ねる。


 「ビセンテ、ありがとう。――あとは任せてくれ。あの日のこと……全てに、決着をつける」

 「ええ……皆、これで浮かばれるでしょう。そして、この国も――」


 翡翠の調度品であしらわれたアリーチェの私室のベッドに、彼女を寝かせ、アウレリオは視線を落とす。

 すぅすぅと寝息を立て、眠りについたアリーチェを見て、僅かに彼は安堵の笑みを浮かべる。


(彼女は――どれだけ眠れない夜を過ごしていたのだろうか)


「人のことは言えないが」と彼は独りごち、窓の外を見る。

 使者が王都へ発とうとしている。――うまくいけば、全て……終わる。


 そして、アリーチェをエルミラに任せ、部屋を後にし歩き始める。


 彼は、屋敷の近くにある墓地へ赴いていた。

 石でできた冷たい墓石が、今日は、何故かあたたかく見える。

 まるで、すべてを見届け、先へ進めと――行く先を示すようにそこにあった。


 彼は、両親、姉、クロエ――それぞれが眠る墓を見渡し、そこから見える景色をただ見つめていた。

 目を閉じると風の音と町のざわめきが混じり合って聞こえる。

 彼は静かに手を握りしめ、石の下に眠る者――そして、風に乗った町の空気に、誓う。


 「これから、五年前のこと、そして、その裏にあるもの全てを――明らかにします。無念は、必ず果たします」


 墓の前で彼は強く声を落とす。太陽の光が墓石に当たり、きらりと一瞬輝く。

 それは、喪った四人からの返事のように彼の瞳に強く焼き付いた。


 夕暮れ時の空の下、彼は屋敷へと戻る。ただしんとした静かな空気の中、彼の靴の音だけが重く響いている。

 足早に部屋へ戻る彼の影が、長く伸びている。

 今日は早く休んで、次の手に備えよう――そう決めた彼の目が鋭く光る。


 屋敷の惨劇の仇、そしてアリーチェを守るため、彼は動く。

 こちらに来てからの彼女は、くるくると表情が変わり、彼はそれから目を離せなくなっていた。

 初めて持ったその感情に、彼は戸惑いながらもどこか楽しんでいる自分に気づいた時――彼女を傷つけるものがあるのなら排除したい。

 そう執着めいたものを感じていた。


 部屋に戻った彼は、椅子に腰を下ろし、一度深く呼吸をする。

 そして、じっと家族の肖像画を見つめていた。

 肖像画の中の両親と姉は、何も語らない。ただ、沈黙の重さだけがそこにある。

 燭台の灯りがゆらりと揺れ、部屋の中を照らす。


 数日後、王都へ発つことになるだろう。その時は――(宰相)の思惑を全部断つ。

 そう決めた彼の目は鋭さを増していた。

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