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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第四章|真実を探して

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26.王都にて

 王都の財務局は今日も忙しない。絶え間なく紙とペンの擦れる音がする。

 財務局の文官の男が、アウレリオを見て僅かに視線を落とす。

 領地報告の書類と彼を交互にちらちらと見ながら、言葉を探すように口を開く。


 「……何か、不備でも?」

 「――いえ、こちらで承りました」


 アウレリオが背を向けた瞬間、ふっとかすかな息が文官から漏れる。

 彼は、その音を聞き逃さず、しかし表情は崩さず部屋から出た。


(王都は久々だが――どこかから気配を感じる)


 自意識過剰などではない、どこか寒気すら覚える違和感を含んだ空気が張り詰める。

 

 コツンと靴の音がし、声をかけられる。


 「久しいな。ファルネーゼ卿。結婚したそうじゃないか。おめでとう」


 銀色の髪が揺れ、深い紫色の外套を纏っている。浅葱色の瞳で彼を見るその笑みは柔らかくもどこか不敵に見えた。

 ――サヴェリオ・フランドル宰相。


 「ありがとう存じます。ご無沙汰しております。フランドル宰相」


 アウレリオは平静を装い、あくまで丁寧に一礼し挨拶を交わす。

 瞳は、「どのように追い詰めようか」という計算と怒りの色を宿して。


 「本日の茶会、楽しみにしているよ」


 それだけ言い、宰相は去っていく。

 参加しないわけにはいかないが、宰相側も何か探りを入れている。

 ぎり……と唇を噛み、立ち去る宰相の後ろ姿を、鋭い目つきで睨みつけた。


 王城の外へ出ると、太陽の光が白く照らす。秋の風は涼しく、アリーチェと過ごした日々がこんなに経っていたのかとも思う。

 すべてが終わる頃には、収穫祭の時期だ。その頃には彼女の心からの笑顔を見られるだろうか。

 彼女と出会った王都の風は、春の花の香りと灰色の湿気が混ざった、そんな風だった。


 王城の中庭で行われた茶会には、王族、貴族様々な人々が集まっていた――病床のオルドラン伯爵を除いて。

 栗色の髪に浅葱色の目をした王族――特に当代女王デルフィリア・ウィンドミル陛下は顕著だった。


(やはり――翡翠色の瞳をした王族は、どこにもいない)


 陛下の前で宰相が何かを仕込むとは考えづらいが、アウレリオは念の為出された菓子のくずを少し、布に包んだ。


 「血霞と翡翠の瞳の娘――確かに似合いだな」


 背後からぼそっと声が落とされる。アウレリオはそれでも貼り付けたように表情を崩さない。

 王都のこの空気は苦手だ。さり気なく刃を向けられるこの感触。

 この空気に晒されて生きてきたアリーチェの苦悩を思えば、彼はこのくらいなんともないと思う。


 茶会が終わる頃には、日の光は橙色を含み始めていた。

 使者からの密書には【宵の刻、宿屋裏の深い茂みで】と書かれていた。

 オルドラン家の調査はサラとアグスティンが行ったという。

 ファルネーゼ側の証拠とオルドラン側の証拠が集まれば――崩せる。


 時間はまだある、アウレリオは王立図書館へ少し立ち寄ることにした。

 屋敷にはない本も、ここにならある。何かが掴める。直感めいた何かが彼を動かす。

 奥に隠されるように並んでいた本を一冊さっとめくると、目に留まる記述を見つける。


 『装飾品を媒介とする呪術――装飾品に昆虫を原料とした粉末顔料に術を込めて印を描く。それは離れている場所でも発動し、一見病のように衰弱させ、対象を死に至らしめる――現在はフランドル家のみに伝わるものとされている』


 ――!

 アウレリオに電撃のようなものが走る。


 『フランドル』


 その文字が、何かを示すように浮かんでいる。

 彼は、サッと走り書きのように内容を書き写す。

 

(これは全てを開く鍵となる)


 彼は確信めいた何かを感じ、口角を僅かに上げた。


 夜、虫の声が僅かに聞こえる頃、アウレリオは昼間にあったことを思い起こし深く息をついた。

 王都に着いて、改めて確信した。宰相の僅かに不敵な態度、王族の姿――そして、王立図書館の奥に隠すように並んでいた一冊の本。

 これら全てが――点をすべて繋ぎ、開く鍵となると。


 「――ファルネーゼ……卿?」


 振り向くと、後ろに震えて青白い顔をしたサラが立っていた。

 おそらく……夫人に見つからないように持ち出したものと――手紙を添えて。


 そして、別行動をしていたフリオと王都へ派遣した使者も集まってくる。

 欠片は、すべて揃った。

 あとはこれらを――つなぎ合わせ、鍵を開く。


 夜の風が少しひやりとする。

 宵闇に立つ彼らは、息を潜めるように身を寄せる。


 「ご主人様、王都での調査結果を――」


 フリオの言葉に、彼は深く頷く。


 「サラも、すまない。そんなに震えて……怖かっただろうに」

 「いえ、ご主人様より手紙を預かってまいりました。あと、奥様が隠されていた手紙を――お持ちしました」


 四人は頷き合う。そして、さらに息を潜める。

 使者が、声を落とす。


 「外では誰が聞いているかわかりません。お部屋をご用意しました……そちらへ」

 「すまない……ご苦労だった」


 使者とフリオが用意した部屋は、宿の裏から入る隠し部屋のような地下の石造りの部屋だった。

 ただ燭台だけが揺れるその部屋は、しんとして音も響かない。


 「では、始めようか」


 アウレリオが声を落とすと、そこにいた者の喉がごくりと鳴った。

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