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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第四章|真実を探して

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23.繰り返さぬように

 ゆらりと燭台の揺れる赤い装飾の部屋で、話し声がする。


 「――で、オルドラン伯爵家からの報告は」


 アウレリオは私室で、秘密裏に王都へ派遣した使者からの報告を受け、わずかに眉を寄せた。

 使者は書簡を差し出し、声を潜めて告げる。


 「……オルドラン伯爵家家令、アグスティン・フォルネル様、そしてメイド長サラ・フライレ様より証言が得られました」


 アウレリオは書簡を受け取ると、それを開き、見据えるように読み進め――次第にその視線は鋭くなる。


 「八年前、先代エウフェミア様が身罷られた後、伯爵夫人は王城近くに外出が増え、帰宅しない日もあり、夫人の装飾は家の経済状況にも関わらず、だんだん華美なものとなっている。差出人不明の贈り物が繰り返し届くようになった。――贈られてきたものには『同じ紋様』が彫られており、伯爵の私室に飾られた」


(やはり、転機は八年前か――そして『同じ紋様』の装飾)


 使者が目を伏せながら、重い口を開ける。

 

 「サラ様の話ですが、オルドラン伯爵の薬は――伯爵夫人が毎回薬師のもとから持ってこられていたとのことです」

 「アリーチェは何も知らずにそれを毎回、伯爵のもとへ――?」


 アリーチェがそれを知れば――きっと、自分を責める。これだけは明かしたくないとアウレリオは心の中で思う。

 彼の琥珀色の瞳が僅かに揺れる。


 使者が、更に重いトーンで話を続けた。


 「サラ様から、ご主人様へ渡すよう言付かったものです――これは、アリーチェ様にもご内密にと」

 アウレリオは受け取ったサラからの手紙を見て、さっと血の気が引く。


 --------------------------

 ――アウレリオ・ファルネーゼ卿。


 謹んで申し上げます。

 先日、奥様宛に届いた手紙を屋敷の掃除の際に見つけ、侯爵様のお耳にも入れておかねばと存じ、取り急ぎ筆を執りました。

 宰相閣下と奥様の関係につきましては、すでにご承知のことと存じますが、宰相は、いずれアリーチェ様を標的とする意図をお持ちのようでございます。

 『令嬢の誕生日祝いとして贈る予定』として装飾品を用意していたとのこと。


 どうか、アリーチェ様を、お守りくださいませ。


 ――サラ・フライレ。

 --------------------------


(アリーチェ……! まさか……! 屋敷から出ないよう伝えて正解だった、ということか――)


 彼の手の震えが強くなる。思考が、急速に巡り始める。

 彼女の十八の誕生日は――こちらに発つ日だった。一歩間違えれば彼女の身も蝕まれていただろう。

 そして、貴族の婚姻は王城にも伝わる。宰相は――必ず次の手を打ってくる。


 「至急、フリオを呼んでくれ――! そして、ビセンテにもこの件を伝えてくれ」


 アウレリオは使者に告げる。「はっ」と一礼し使者は部屋を、急ぎ出ていく。

 

 ――次はファルネーゼが狙われる。五年前のようには、させない。

 

 今度こそ、大切な者と、ファルネーゼ領の民は守らねば、亡き両親と姉――そしてクロエに合わせる顔がない。

 喪ったものの仇かは、まだわからない。

 だが――相手は、確実にアリーチェを狙っている。


 遠くから急ぎ走り寄る音が聞こえる――フリオか。


 私室のドアが強めの音を立てて開かれ、フリオが息を切らし入ってくる。


 「――お呼びでしょうか……!」

 「フリオ、宰相はオルドラン伯爵夫人を通じ、アリーチェを狙っている。手を打たれる前に、証拠を掴む。屋敷の者にも内密に――屋敷内を探れ」


 フリオの顔がさっと青白くなる。まるで五年前の惨劇を目の前にした時のように。

 アウレリオはさらにトーンを落とし話を続けた。


 「確信は持てないが、五年前の屋敷襲撃とこの件は――おそらく繋がっている。屋敷に痕跡がまだ残っているはずだ」


 フリオが眉を寄せ、強い口調で答える。

 

 「――承知しました。必ずや」


 フリオが一礼し部屋を出ていき、室内に静けさだけが残る。

 

 燭台がゆらり、ゆらりと揺れ、そして――彼の琥珀の瞳も揺れる。

 じわり、じわりと――彼らを狙う気配が、すぐそこまで迫っている。

 その危機感が、五年前の光景を呼び起こす。

 まるで、今もそこにあるかのように。


 彼は、喪った家族の肖像画を見つめ、心の中で問いかける。


(父上、母上、姉上……クロエ。俺は、どうすべきなのでしょうか。正しい答えを、選ぶことができるでしょうか?)


 肖像画は黙って彼を見つめている。


(こういう時、父上はどのような選択をしただろうか。いや、聞くだけで叱られる――答えは、ひとつしかない)


 彼の脳裏に、かつての父レイナルドの姿が浮かぶ。父は、背中で当主としてのあり方を教えてくれていたのだ――自らが犠牲になっても。

 今度は、自身が選び、守る番だ。かつての惨劇を――繰り返さぬように。


 彼は窓辺に行き、外を見る。夕闇に町の灯りがぽつ、ぽつと揺れている。

 それは、進むべき道を照らすように、静かに揺れていた。


 彼の脳裏に初めて会った時のアリーチェの瞳、そして、現在の彼女の姿が浮かぶ。


 ――絶対に、失いたくない。


 彼は強く頷きゆらめく町の灯りをじっと見つめていた。

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