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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第三章|血霞と翡翠

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22.全ては噛み合っていく

 あの人()のお父様に対する裏切りを知り、私の心臓は軋んだ。


 「――アリーチェ様。何と言ってよいかはわかりませんが……あなたは、ひとりじゃありません」


 少し震えが残る私の背中から、エルミラの呟く声がする。

 ふっと、私もぎこちなく口角を上げ、笑おうとして――頷いた。

 そうだ。私はあの頃とは違うのだ。あの人()の言う通りに奪われていた――王都での日々。

 私の足は、自然と図書室の方へ向いていた。


 図書室の扉を開けると、朝日がうっすらと差し込み、しんと静まり返って誰もいない。


 (――あの本を、一度最後まで読んでみよう)


 棚にある古びた本を取り出す。しかし……こんな書物が、なぜここにあるのだろう。


 これまでに知ったことを、なぞるように読み返す。初代女王陛下、追放された王女――そして、塗り替えられた王家の話。

 そこから先は、不自然なまでに白紙であった――まるで、何者かに消されたかのように。


 (白紙――? いや、何かで消されたような、不自然な色)


 ページを捲っても、何も書かれていない。まるで、ウィンドミルの歴史が途中から消されているかのように。


 最後の方のページにたどり着いたとき、――そこだけ、あとから書き足されたような文字があった。


『あの子は――お父様の子ではありません。ウィンドミルの歴史は――誰かが真実を見つけ出してくれると願って――ルチアーナ・ファルネーゼ』


(追放された第二王女――ルチアーナ様。ファルネーゼ家のどこかに、真実が伝わっている――?)


 五年前の襲撃は――ただ血筋を消すためだけではない。ルチアーナ様がそう訴えているように浮かぶ。

 ふと、お父様から譲り受けた翡翠のブローチを取り出す。

 気がつかなかったが、中が開く形になっていた。そっと押すと、かすかな音を立てて開いた。

 中に、古い紙切れのようなものが入っている。インクも所々掠れていて、なんとか読み取れる範囲で――こう記してあった。


 ---


 お父様は、血が繋がっていないことも知らずにあの子を王にする。

 義母、コルネリア・ウィンドミル――いえ、フランドルはお父様の寵愛を利用し、ウィンドミルを塗り替えようとしている。

 デルフィーナは……お父様の子ではない。

 真実が――いつか明かされんことを。


 ---

 

 下の方に『エレノア・オルドラン』と記されたそれは、本と共に揃うことを待っていたかのように現れた。


 (夢の中でお祖母様と一緒に現れた、私とよく似た翡翠の瞳の女性――あの方は、もしかして)


 このブローチだけ、お父様が肌身離さず持っていた理由が――今なら繋がる。

 フランドル――宰相の姓。その宰相と関係を持っている母。

 オルドラン家に代々伝わるこのブローチが、あの人()に見つかるより前に私のもとへ渡ったのは――何かの導きか。


 宰相は――何かを知っている。

 そうでなければ、この繋がりは説明がつかない。


 (襲撃も、翡翠の真実も――繋がっている。でもどうやって? お父様を(むしば)む呪いは、誰が、どのようにして?)


 私は考えあぐねたまま、図書室の中を探した。薬草術や魔術――様々な本が揃っている。その中で、一冊の本がまるで誘うように存在を放っている。

 ページを捲るごとに、嫌な予感がじわりと背中に広がる。


 次第に呼吸が浅くなり、指先が、凍ったように冷たくなる。

 

『装飾品などを媒介とし、相手を次第に衰弱させ、死に至らしめる』

『その術は、特定の家系にのみ伝わる特殊なものである』


 その記述だけが目の前に浮かぶように見える。

 呼吸が、さらに浅くなるのを感じ、意識が遠のく。


 「――アリーチェ? ここにいたのか? ……アリーチェ!」


 アウレリオ様の声ではっと現実に戻される。彼が心配そうな目で私を見る。


 「また顔色が悪かった――何か、あったのか?」


 彼の視線が手元の本を見据える。


 「アウレリオ様、これを――あの本の最後には、書き足された文字が。それと……オルドラン家に伝わるブローチの中には……この紙が」


 震える手で彼に手渡すと、一瞬彼の目が鋭くなり、そしてわずかに揺れる。

 

 図書室のランプが静かに揺れ、張り詰めた重い空気が私たちを包む。


 彼が沈黙を破るように低いトーンで声を落とす。


 「やはり……繋がっていたのか……全てが――」


 私の横の椅子に彼は腰を下ろし、机上にある本へ目を通し、次第に彼の身体も僅かに震える。

 沈黙が包んだまま、窓の外の景色は橙から白い光、そして再び橙色に染まっていった。


 そして、彼が目の色を変え、口を開く。


 「――調べを進めよう。アリーチェ、君はしばらく屋敷から離れないほうがいい」


 静かに私は頷く。

 点と点は、繋がっていき、やがて大きな渦になろうとしている。

 

 彼は、ただ、静かに私を抱き寄せ、呟いた。

 

 「大丈夫……大丈夫だ。俺を――信じて、待っていてくれ」

 「ええ、私はいつもあなたのそばに」


 私は彼の手を握りしめ、お互いの胸元へもってくる。

 彼はかすかに微笑み、揺れる目で私を見つめる。


 「アウレリオ様。大丈夫です。私たちはひとりではありません――それに、これらも」

 「――そうだな」


 本と古い紙切れ――追放された王女の筆跡に視線をやり、お互いに頷いた。

 まるで導かれるようなタイミングで集まったそれは、私たちの行く先を示しているようだった。

次の話から第四章に入ります。

アウレリオ視点で進む、真実への調査――その先に、アウレリオとアリーチェは、何を見るのか。


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