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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第三章|血霞と翡翠

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21.信じたくなかった父からの手紙

 エルミラが震える手で渡してきた手紙、それは確かにお父様の字だった。

 封筒には『フェルミン・オルドラン』と間違いなく書かれている。

 封蝋が押されているそれを開き、読み進めると、信じられないことが書いてあった。

 便箋を持つ手が震える。


 ---


 ――アリーチェ。

 信じたくないだろうが、話を聞いてほしい。


 ミレイア――君の母が、国の宰相サヴェリオ・フランドルと通じていた。

 隠していた手紙を見つけ、調べさせた。

 母上が身罷った八年前から、関係を持っていたらしい。

 まだ確信は持てないが、お前の瞳のことと関係しているだろう――そして、私の病も。


 国は――オルドラン家を狙っている。

 ファルネーゼ侯爵の打診でファビオをそちらに送ったのも、そのためだ。

 信じたくはないが、ミレイアが贈った指輪は、私を弱らせるためのものと思われる。


 ミレイアの裏切りで、お前に随分つらい思いをさせた。

 許してくれとは言わない。

 ただ、お前の幸せを、願っている。


 そして、翡翠の瞳は、誇るべき色だ。


 ――父より。


 ---


 手紙をぎゅっと握る。全身の震えが止まらない。

 まさかとは思った。いくらあの人でもそこまではしないと、信じたかった。

 路傍の石のような感覚になっていたが、あの人は私の母だ。まさか家を滅ぼすために宰相と関係を持っていたなんて――。

 なぜ、何のために。お父様まで間接的に手に掛けようとしたのか。


 図書室の入口に立ち尽くし、息が浅くなり、目からはとめどなく熱いものがこぼれる。

 

 「アリーチェ様……?」


 心配そうに尋ねるエルミラに、手紙を見せる。彼女の顔色もまた、血の気が引き、白くなっていく。

 私は、手を握りしめながら、その場に力なくへたり込んで動けない。立ち上がろうとしても、立つ力が入らない。


 そして、母の言葉が呪いのように私の頭にこだまする。

『忌まわしい子』

『災いを呼ぶ子』

 私は声にならない声を上げ叫びそうになるが、喉が詰まったかのように、音が出ずに口が、ただはくはくとしているだけだ。


 「……っ! アリーチェ! しっかりしろ……!」


 遠くでアウレリオ様が私を呼ぶ声がする。それが私を踏みとどまらせる。

 ヴェールを被ったような視界の先で、エルミラが、彼に手紙を渡しているのが見えた。

 

(アウレリオ様――!)


 声にならない声を上げ、私は目の前が白くなるのを感じた。

 手放す意識の中で、お祖母様と、私にそっくりな翡翠の瞳を持った『誰か』の姿が見えた。


 お祖母様と、『誰か』は頷き、微笑みかける。――自然と心が、あたたかくなる。


 (――大丈夫。助けなきゃ)


 うっすらと目を開けると、赤い装飾の部屋に、ぼんやりとアウレリオ様の姿が見えた。


 「――アリーチェ!? 気がついたか!?」


 ぼーっとしている私を、彼は抱き上げる。

 いつの間に私は、気を失ってしまったのだろう。


 「……アウレリオ……様。大丈夫です。少しふらっと……しただけです」

 「手紙はエルミラから見せてもらった。大丈夫なわけ……ないだろう……!」


 彼の目からはとめどなく涙がこぼれている。その顔を見て、私は胸がきつく痛んだ。

 しばらく私を落ち着かせようと抱きしめてくれる彼の手は温かく、そして震えていた。

 彼の手が、私の目の上に触れる。そして、言い聞かせるように声を落とす。


 「アリーチェ。何度でも言う。君は――忌まわしきものなどではない」


 彼の手の上に、そっと私の手を重ねる。


 部屋の燭台が、ゆらりと揺れる。


 「伯爵夫人と、宰相のことは調べさせる。――そして」

 「お父様には時間がありません――! 私は、助けたいのです」


 私たちは頷き合う。


 「宰相と伯爵夫人の関係と、証拠さえつかめれば……!」


 彼は震えながら低いトーンで話す。


 「――アリーチェに対する扱い、オルドラン伯への裏切り……必ず……!」


 そう話す彼の拳は、わなわなと震えていた。

 

 お父様への裏切りで成り立っていた家、そして、あの人()だけが着飾っていた理由に嫌と言うほど直面せざるをえない。

 あの人()のむせ返るような香水の香りが、ふいに蘇る。それでも、私の心は揺るがなかった。

 今できることは、呪いの解除方法を調べること。そして、すべての証拠をひとつひとつ集めること。


 部屋の中に、フリオさんとエルミラが呼ばれ、アウレリオ様が低いトーンで伝える。

 

 「フリオ。オルドラン伯爵家に使者を出し、伯爵夫人の情報を集めろ。あと、王都の図書館に書簡を送る。内密にこの件を探れ。結果次第で――王城へ、私が出向く。エルミラは――アリーチェを屋敷の者と守ってくれ」

 「――承知いたしました」


 エルミラと、フリオさんが一礼する。

 

 線でつながりつつある点を、ひとつずつ解き明かす。それがお父様を救うことにも、全てが明らかになることにも繋がる。そう信じてならなかった。

 五年前の襲撃、翡翠の瞳。点は、必ず一本の線となる。


(ファビオには知らせないでおこう。――あの子を、巻き込みたくない)


 強く頷く私に、アウレリオ様が触れる。

 そして、誓うように私を抱き寄せて口付けを落とす。


 私たちは、「全てを解き明かす」そう視線で誓う。

 部屋の燭台がゆらりと揺れて、窓からは東雲色から光が差し込み始めていた。

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