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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第三章|血霞と翡翠

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19.点と点は結ばれていく

 ビセンテさんから語られた屋敷の惨劇に、何と言葉を発すればいいか、わからずに――締め付けられる胸の感覚だけ感じていた。


(ビセンテさん、エルミラ――そして、アウレリオ様はそれを抱えて、生きてきた)


 重さを含んだ空気だけが、私たちを包む。ランプの光がゆらりと揺れる。


 「――気がついたら、私は離れのこの部屋におりました。それから――深手を負い、一命はとりとめたものの、この身体です」


 力なく笑うビセンテさんに、私は声をかけられなかった。


 それでも、話を続ける。横で私とエルミラは黙って聞いていた。


 「ファルネーゼは終わっていない。私の思ったとおりでした。あの日からおひとり残された若様は……立派になられた。ただ、お一人で戦ってこられた――そんな風にも思うのです。アリーチェ様を奥方様に選ばれてから、若様は少しだけ、昔のような笑みを見せるようになられた」


 ビセンテさんは、私の瞳を真剣に見つめ、話す。


 「アリーチェ様のその翡翠の瞳が、若様を照らしたのです。若様は……これまでお一人で全てを抱え込もうとされてこられた。アリーチェ様、若様のお側に、これからも――」


 私は、「はい」と深く頷く。窓から差し込む光が一段と強くなる。

 家族を失ったアウレリオ様の孤独は、いかほどだろう。ひとりで、ずっと戦ってきた彼の背中がふと浮かんで――胸が軋む。

 

 そして……彼の寂しそうな目、あの夜震えていた彼の姿が私の脳裏に次々と浮かんでくる。


 私は胸の前で手を握りしめ、目を閉じる。


 ビセンテさんの部屋を後にし、中庭で少し休む。


 (話の中で聞いた『この国に残ってはいけない血』、翡翠の瞳、お祖母様の話、本にあった初代女王陛下の話――繋がってる気がする)


 これまで僅かに点と点がつながる感じはしていたが、それが色濃くなっていく。

 横でエルミラが悲しそうに微笑んでいる。


 「……私は、屋敷で侍女として働く祖母や、母の背中を見て、侍女になりました。こうやってアリーチェ様にお仕えできていることで、祖母も喜んでいるかと思います」


 私は何も答えず、ただエルミラの顔を見て頷いた。

 少しだけ、エルミラの顔がほころぶのを見て、私の張り詰めた胸もすっとほどける。


(もう少し、ビセンテさんに話を聞いてみよう。――そして、図書室)


 エルミラと別れた私の足は、離れのビセンテさんの部屋に再び向かっていた。

 軽く扉を叩き、キィ……と蝶番が軋む音を立て開く。


 「アリーチェ様、いかがされましたかな?」


 私は一瞬息を呑む。そして、声を落とす。


 「――祖母のこと、翡翠のことを……教えていただけませんか」


 ビセンテさんはじっとこちらを真剣に見つめ、ふっと笑う。


 「意志の強いところは本当にエウフェミア様に似ておられる。――承知いたしました。私の知る限りのことをお話します」


 彼は話を静かに続ける。


 「――この国の初代女王陛下は翡翠の瞳を持ち、高い魔力と慈愛の心で国を治めた。その資質を受け継ぐ者は翡翠の瞳をもって生まれ、代々王として王国を治めてきた……これが伝説です。ただ、今の王家に翡翠の瞳の方は……いらっしゃいません。それどころか翡翠の瞳は『災いを呼ぶ忌まわしきもの』とされています。なぜだかおわかりですか?」

 「いいえ。――ただ、祖母は『翡翠は誇り高き色』と話していました」

 「――真実は、エウフェミア様の仰るとおりなのです。翡翠の瞳は、本来『忌むべきもの』ではない」


 その言葉が、妙に私の胸に引っかかる。


 「先日、図書室でそのような話の文献を見つけたのです。アウレリオ様も、歴史書を懸命に調べておいででした」


 一瞬、ビセンテさんがハッとした表情をする。そして、少し俯き、声を落とす。


 「――ファルネーゼとオルドラン。それは、かつて追放された正統な王家の血筋なのです。五年前の事件も――その血筋を消すため、現在の王家が塗り替えられたものということを隠蔽するために何者かの指示で行われたものです」


 それを聞いて、私は新しい疑問が浮かんだ。正統な血筋を消そうとする動きがあるのなら、お祖母様が亡くなった後のオルドラン家の状況も、繋がっているのではないか、と。


 「この状況でファルネーゼとオルドランが巡り合ったのも、必然的なものでしょう。若様が成年式に出席されていたおかげで、ファルネーゼは滅亡を免れた。そして、アリーチェ様、あなたが翡翠の瞳をもって、それをひとり生き残った若様が見つけられ、ファルネーゼにいらっしゃったのも――」


 ビセンテさんが少し涙ぐんでいるのを見て、私も視界が揺れ、熱いものが頬を伝う。

 図書室で、もう一度あの本を読んでみよう。それで点と点が、全て繋がっていく気がした。


 「ありがとう。ビセンテさん――」


 ビセンテさんはわずかに微笑み、頷いた。

 中庭に出た私はすうっと深呼吸をし、視線を上げる。――図書室だ。もう一度あの本を読んでみよう。


 図書室には誰もおらず、ただ、窓から白い光が柔らかくさしこんでいた。

 ゆらりと揺れるランプの下――『あの本』を開く。


『追放された王女』――その一節が浮かんで見えた。


 「……アリーチェ?」


 蝶番の軋む音がし、扉のところにアウレリオ様が立っていた。

 私は彼に向き直り、まっすぐ彼の目を見て告げる。


 「……ビセンテさんにすべて聞きました。あの日のことも。今度は私が――支えます。あなたはひとりじゃありません」


 彼の瞳が、わずかに揺れた。

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