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翡翠の瞳は隠さない~虐げられた令嬢は辺境の地で溺愛されながら翡翠の瞳で真実を照らす~  作者: 凪砂 いる
第三章|血霞と翡翠

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17.誓いの朝

 目が覚めて、あたりを見回すと、深い紅色の調度品で揃えられた部屋の――ベッドの上にいた。

 私は昨夜、初めて見たアウレリオ様の涙や震える瞳を思い出し、しばしぼうっとして、気がついたら顔が急に熱を持った。


(え……なぜ、アウレリオ様のお部屋に? そして、ベッドに?)


 頭の中が真っ白になっていると、ふふっと微笑みながら彼が入ってきた。


 「おはよう、アリーチェ。……よく眠れたか?」

 「えっと……私、あのまま……アウレリオ様のところで……?」

 「そうやって赤くなる君も……可愛い」

 「と、とりあえず……部屋で湯浴みと着替えをしてまいります!」


 部屋の外に出て、ふぅ。とひとつため息をつく。

 何事もなかったように部屋に戻ると――エルミラがいた。


 「……私は何も見てませんし、聞いてません! さぁ、湯浴みと……お着替えをお持ちします!」


 赤くなって目が泳いでいるエルミラを見て、私はふふっと笑う。

 屋敷はいつもの明るさを取り戻していたが、なんだか昨日までとは違って見えた。

 

(この屋敷で――あんなことがあったなんて)


 明るい屋敷の裏にある過去の片鱗を、昨日、彼から直接聞いた。なぜ、彼も屋敷の人々も時折遠い目をするのか、その理由を。

 屋敷の過去と、図書室の本――そしてお祖母様の言葉は繋がっていると僅かながら感じ始めた。


 戻ってきたエルミラが、ぽつりと私に話す。


 「ご主人様……アリーチェ様に話されたんですね。五年前のこと」

 「ええ。アウレリオ様のご両親、お姉様……そして」

 「……当時の侍女長、私の祖母が……殺されました。祖父は母や見習い侍女だった私、他の屋敷の人々を離れに逃がして、そのせいで――」


 私は、何も言えなかった。ただ、頷くことしかできなかった。

 エルミラは震えながら話を続けた。


 「なぜ……あの日、屋敷が襲われたのかは、私もわかりません。ただ、襲ってきたのは賊ではなく――どこかの兵でした」


 着替えを済ませ、エルミラが屋敷の近くにある墓地へ案内してくれた。

 静寂に包まれたその場所には、冷たい墓石が4つ。丘の下の国境の町を見下ろすように並んでいた。


 「おばあちゃん――そして、レイナルド様、アルセリア様、アデリナ様……アリーチェ様です。アウレリオ様が、奥方様をお迎えになりましたよ」


 跪き、静かに祈るようにエルミラが呟く。私も、ひとつひとつ花を手向け、跪き、目を閉じる。

 風が吹き、手向けた花がふわりと揺れ、私の胸の奥にあたたかいものが灯った。


 「――エルミラ、アリーチェ。ここにいたのか」


 背後から声がし、振り向くと、アウレリオ様が立っていた。

 彼は私たちに、少し哀しそうな微笑みを向け、そして墓へ向き直り――誓うように声を落とした。


 「父上、母上、姉上。そしてクロエ。俺は、今度こそアリーチェを、屋敷を――ファルネーゼ領を守ります。そして、真実を……明らかにします」


 私たちを静かなそよ風が包みこんで、太陽の光が柔らかく私たちを照らす。


 「……朝食がまだだろう、屋敷に戻ろう」


 彼は静かに微笑んで、屋敷の方へ背を向ける。私たちも、後から続いて歩いていく。

 私は、改めてファルネーゼ侯爵夫人として彼を、あたたかいファルネーゼ領の人々を守りたいと、そう心の中で強く誓った。


 そういえば以前、ビセンテさんが「ファルネーゼとオルドランの縁」と話していた。

 もしかしたら、私の翡翠の瞳も、お祖母様の話も、屋敷の事件も――全てが繋がっているのだとしたら。


 朝食を食べながら私は先ほどの考えが頭の中をぐるぐると回っていた。

 昨日図書室でアウレリオ様が調べていた本、私が手に取った本。点と点がうっすらとひとつの線で結ばれていく。確信は持てないけれど。

 彼を傍で支えると決めたからには、私も調べよう。五年前の件を。翡翠の真実を。


 ――話を聞こう。全てを知る人に。


 「エルミラ、ビセンテさんがいらっしゃる離れにお邪魔してもいい?」

 「アリーチェ様がいらっしゃれば、祖父もきっと喜びます」


 エルミラは全てを承知したように頷く。


 「アリーチェ、どこかに行くのか?」


 アウレリオ様が私に尋ねる。しかし、その口調は、すでに見抜いているようだった。


 「ええ。離れに。アウレリオ様は?」

 「俺は、図書室で昨日の調査の続きをする。――何かあったら、図書室に」


 私とエルミラは頷き、離れの方へ向かって歩み始める。窓から差し込む光が、今日はやけに明るい。

 渡り廊下から見る中庭の花が、季節の移り変わりを告げるように、いつもより色が鮮やかに見える。

 そよ風は暖かく、太陽の光が高いところからキラキラと中庭を照らしていた。


 「奥方様、そしてエルミラ。……どうかなさいましたか?」

 

 以前会ったときより少し顔色が僅かによくなっているビセンテさんが、私たちの方を向く。


 「おじいちゃん、アリーチェ様にお話して……あの日のことを」


 エルミラが覚悟を決めた眼差しで口を開くと、ビセンテさんは少し躊躇う目をし、呟く。


 「奥方様。……あの日のことをお話します。五年前、屋敷が何者かに襲われた日のことを。お辛い話かもしれませんが……」


 私は首を振り、覚悟を決め、声を落とす。


 「いいえ、全て教えてください。あの日、何があったのかを。私は、知らなければなりません。――ファルネーゼ侯爵夫人として」

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