第三十五話 終幕
数日後――。
こうして、事件はさらに複雑さを増すなかで、一つの終息に向かっていた。
だが――。
「心中事件に見立てた殺人」
「用務員が失踪した教師の遺体を埋め、結果的に逮捕された。用務員は犯人の生き別れの父」
という事実はあまりに衝撃的で、センセーショナルで再び学校は大きくメディアに取り上げられた。
とはいえ、生徒や保護者たちの反応は意外なほど冷静で――むしろ、学校に対する不信よりも、
「なぜ昨年の事件の時点でもっと深く捜査がなされなかったのか」
という、社会全体への疑問が広がっていった。
「もっと早く真相に近づけていれば……」
そんな思いが、遅すぎる後悔と共に浮かんでは消えていった。
その一方で、生徒たちはこれまで以上に守られ、学校の対応も誠実なものであったことが再評価されるようになった。
世間からは次第に同情と支援の声が寄せられ、かつての「心中事件」の陰に沈んでいた白常盤学園高校は、少しずつ――だが確かに――再び、立ち上がろうとしていた。
野々宮は事件後、受験を控える三年生たちへの心のケアと進路指導に奔走していた。教職員も動揺していた中で、現場を支え続けたのは辻村だった。
野々宮が崩れそうになると、彼はいつも黙って背中を押してくれた。
そんな日々のなか、信作の妻である節子は、静かに一つの事実を明かした。
「……藤守先生が信作さんの息子だったこと、私は前から知っていました」
驚く野々宮と辻村に、節子はぽつりと続けた。
「まさか、教師になって同じ学校に来るなんて思わなかったけど……でも、あの子のひねくれた性格を、遠くからでもどうにかしてあげたいって、信作さんは言ってました」
その声には、夫婦として、そして親としての複雑な思いが滲んでいた。
学園内の屋上には、あの事件で命を落とした友梨恵と龍弥、そして過去に命を絶たれた門倉を悼む慰霊碑が設置された。
生徒、保護者、卒業生が協力して建てたその碑には、「いかなる理由であれ、若い命がこの場所で失われた事実を、決して忘れてはならない」という想いが込められている。
節子は、その碑の前に立ち、そっと目を伏せた。
「……すべての始まりは、私たちの過ちからだったのかもしれません。不倫をしなければ、藤守先生もあんな風にはならなかったかもしれない。門倉先生と友梨恵さんも、もっと違う未来があったかもしれない……」
刻まれた龍弥の名を見つめながら、節子は言葉を詰まらせる。
「何の罪もない龍弥くんが……生徒が、大人たちのいざこざに巻き込まれて命を落とすなんて……本当に、もう……」
その涙には、不倫によって崩壊した家庭で育った実の娘が、転校先で自死したという、自らの過去とも重なる想いがあったのだろう。
辻村がそっとハンカチを差し出すと、節子はそれを受け取り、静かに涙をぬぐった。
「でも家族捨てて駆け落ちしたからには私との生活を第一に考えて欲しかったけどね。そう思うと完全に吹っ切れた……」
節子は立ち上がったフフっと笑った。やはりその笑顔には昔の美しさが見えてきた辻村。
「過去を悔やむ気持ちもあるけどこうなったからには今は前に進まなきゃ。それに今度……演劇部の子から台本を頼まれてて。年内に書き上げないとー」
とその場から去っていった。




