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77.デレメモリア

 ルチアは案内人連れられて大聖堂の入り口の前で待った。

 案の定ドレスを着替えたことを聞かれたが、汚れがついたと答えた。


 フォルティスの閉幕宣言がなされ、続いて重大な発表があるとフォルティス自ら告げた。

 ルチアの前の扉が開いた。

 フォルティスの待つ祭壇前に向かってルチアはゆっくりと身廊を歩いた。

 ルチアの後をリベルが飛んでついていく。

 前王妃のドレスを着用していることを知っているフォルティスと数名の側近が、ルチアのドレスが変わっていることに気づいたらしく、眉を顰めたりおかしな顔をしたりしていた。

 ルチアは身廊のちょうど中央あたりで足を止めた。


「ルチア…?」


 フォルティスが困惑した様子でルチアに向かって一歩踏み出したとき、ルチアは両手を広げた。

 リベルはルチアの足元にしゃがみ翼で頭を包んだ。


「デレメモリア!」


 ルチアの両手から眩しい光が放たれ、大聖堂内全体を包んだ。

 大聖堂に参列していた者は皆一瞬目が眩み、気を失った。

 ルチアはその隙に外に出て、大聖堂の周りにいる人たちも記憶が消えるように力を使った。


「デレメモリア!」


 浄化のときとは違い、記憶を消したときはそう長く気を失っていないようなので急いでルチアは大聖堂に戻り、フィデスの近くに座ってみんなが目覚めるのを待った。

 リベルもルチアの元に飛んで来た。


「リベルは記憶消されてない?」


《うん、ルチアの足元にいて翼で頭を隠していたから光を浴びていないみたい。さっき聖堂内を見て回ったけど、起きている者は誰一人としていなかったよ》


「ありがとう、リベル。あとはわたしが聖女だという記憶がちゃんと消されているか確認するだけね」


 ルチアはリベルを手のひらサイズに小さくしてドレスの袖裾に隠した。


 聖堂内の参列者が一人二人と目を覚まし始めた。

 半分以上の者が目を覚まし、聖堂内がざわつき始めた頃、フォルティスが目を覚ました。


「静粛に!…………聖女……聖女はどこだ?」


 フォルティスが戸惑いながら聖女を探している。

 ルチアはドキドキしながらフォルティスの動向をうかがった。


「わたしは今から聖女との婚約発表をする予定だったはずだ……え?……そんなバカな……聖女はすぐそこまで来ていて……聖女は…誰だ?」


 フォルティスは真っ青な顔をして頭を抱え込み、必死で聖女のことを思い出そうとしているようだった。


「聖女はどこだ?皆の者聖女を探せ!」


 フォルティスは側近や護衛騎士に命令したが、それらの者たちも困惑していた。

 聖堂内の参列者も口々に言い合った。


「聖女って誰だった?」


「どんな顔していたのか全く思い出せない」


「新聞に写真が載っていただろう?」


「いやあれは白黒だし遠目だったから顔ははっきりと写っていない」


「竜に乗っていただろう。竜を探せば」


「そうだな。あんな大きな竜ならすぐに見つかるのではないか」


 ルチアはみんなの話を聞きながら成功したと安堵した。

 フィデスがルチアのそばにやって来た。ルチアの手を取り大聖堂から連れ出した。


「ルチア、記憶消しは成功したようだな」


「はい。公爵様は覚えていらしゃるのですか?」


「目覚めたときはわからなかったが、君との会話や共に行動したことを考えているうちに聖女はルチアで記憶を消すという話をしたことも思い出した」


 フィデスが話しているときに、騎士が慌てて大聖堂に入って行った。

 そのあとすぐにフォルティスが側近を連れて出て来て、フィデスと目が合って言った。


「公爵、聖女が誰だったか覚えているか?」


「いえ、存じ上げません」


「そうか……公爵と聖女の奪い合いをしたと思うのだが……貴公も覚えていないのか…」


 フォルティスがルチアの方を見た。

 ルチアはフォルティスと目が合ってお辞儀をする振りをして俯いた。


「…そちらの女性は?」


「わたしの専属侍女です。外で待たせていたもので」


 フィデスはルチアを隠すようにして立ち位置を変えた。


「そうか……母の…聖女に着せていた前王妃のドレスが控室に残っていたそうだ。今から控室に行くのだが……聖女は消えてしまったのだろうか?」


「そうかもしれません。魔王を倒したので聖女はもう必要ないと神が判断したのでしょう」


 フィデスが言うとフォルティスは苦笑いをして控室に向かった。

 

「誰もルチアのことを覚えていないようだ」


「はい、良かったです。あとは家族と公爵邸の皆さんの記憶を消すだけです」


「そうか、それが残っていたな。今すぐに帰って消そう。どこで漏れるかわからないからな」


 ルチアは頷いてフィデスと共に馬車で公爵邸に向かった。


 二人が公爵邸に着くとサイオンが出迎えてくれたが驚いていた。


「お二人とも今日も王宮でお泊まりになるのかと」


「そのつもりだったが、ルチアの家族がニナ以外明日の朝帰るだろう。ゆっくりと話ができていないものでな」


 公爵邸のみんなはルチアの家族の拉致事件を知らなかった。

 当然聖女誘拐事件も知らない。


 フィデスは使用人と公爵邸の騎士らを全員をホールに集めるようにサイオンに言った。

 ホールに全員集まると、ルチアはまず家族が世話になっていることのお礼を言った。

 そのあとフィデスは急用だと言ってホールから出て行った。

 フィデスが出て行くとすぐにルチアは力を使って、ルチアが聖女であるという記憶を消した。


 フィデスはその間にルチアの家族を食堂に招き、ホールに戻るとルチアと食堂に向かった。

 

「厨房の者は夕食の準備中でホールにいなかった。準備が終わり次第全員食堂に来るように伝えてある」


「わかりました」


 二人が食堂に行くとテーブルには食事が準備されていて、厨房の者も全員揃っていた。

 ルチアはフィデスを見て頷き、フィデスは食堂から出た。

 ここでもルチアは厨房の者に礼を述べたあと、すぐに家族と共にルチアが聖女であるという記憶を消した。

 

 しばらくすると全員気が付き、狐につままれたような顔をしていたが、厨房の者は仕事に戻った。


 ルチアは家族と一緒に食事をしながら会話を楽しんだ。

 フィデスは家族水入らずで食事を楽しんで欲しいと言って、自分は執務室で食事を取った。

 後で応接室で家族も一緒にお茶を飲もうと約束した。


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