74.聖女の家族救出
書簡に書かれていたとおり、犯人からの迎えの馬車が王城に来た。
ルチアは極小にしたリベルを袖口に隠し、馬車に乗った。
馬車は御者の他に覆面の男が中に乗っていた。
「力を使われては困るので眠ってもらう」
そう言って男はルチアに薬を嗅がせた。
ルチアは薬が効かないように力を使っていたので、効いたふりをして椅子に倒れ込んだ。
どのくらい経っただろうか、馬車が止まった。
一緒に乗っていた男はドアを開け、馬車から降りた。
ルチアは様子を伺いながら起き上がり、窓の外を覗いた。
ここがどこかはわからないが、山の中だ。
今にも崩れそうな小屋があった。
あの中に家族がいるに違いないとルチアは思った。
ルチアはリベルを袖から出した。
「小屋の中を見て来てくれる?父さんたちの様子と敵が何人いるか把握して来て欲しいの」
《了解》
リベルは窓からこっそりと飛んで小屋に向かった。
しばらくしてリベルが戻って来た。
《ヤンたちは小屋の中でいたよ。縛られていたけど怪我とかはしていないようだった。敵は四人。この馬車に乗っていたやつと御者と小屋の見張りが二人。誰かを待っているみたいだったよ。その誰かが来るまではここを動かないんじゃないかな》
「そう、じゃあとりあえず四人には眠ってもらいましょうか」
ルチアは馬車を降りてまず馬車の外にいた御者を眠らせたあと、急いで小屋に向かって中に入った。
「聖女!どうして…」
男が三人驚いてルチアを捕まえようとしたが、その前にルチアが手をかざしスペルを唱えた。
「ドルミー!」
三人の男はバタバタと倒れ眠った。
「みんな大丈夫?」
ルチアは家族の元に駆け寄り猿ぐつわと縄を解いた。
「ありがとう、ルチア。迷惑かけてごめんね」
モリーが申し訳なさそうに言うと、他の家族も謝った。
「みんなが誘拐されたのはわたしのせい……謝るのはわたしのほうよ。ごめんなさい、辛い思いをさせて…」
モリーがルチアを抱きしめた。
「何を言ってるの。こうして助けに来てくれたじゃない。わたしたちは怪我もなく無事だから」
ヤンもニナもルチアを抱きしめた。
スカイはそばで見守った。
ルチアは流れた涙を拭うと立ち上がって言った。
「みんな、リベルに乗って王宮に行って。リベルは王宮に戻ったら騎士様たちをここに案内して」
「ルチアはどうするんだ?」
ヤンが心配そうに言った。
「わたしはここに残ってる。まだ誰か来るようだから逃さないようにしないと」
「ルチア一人は危険だ。俺も残る」
スカイが言うとニナがすかさず言った。
「スカイ兄が残っても足手まといよ、そうでしょルチア姉」
確かにその通りだ。
剣も持ったことのない農家の息子なのだから、人質に取られればかえって足手まといになる。
「ごめん、兄さん。ここは一緒に王宮に戻って。わたしには聖女の力があるから大丈夫」
ルチアがそう言うと、スカイは眉をしかめて視線を逸らし悲しそうに言った。
「…わかった」
みんな小屋の外に出た。
「あ、一人縛り忘れているわよ」
ニナがそう言うと、スカイが御者を縛って小屋の中に引きずり込んだ。
ルチアはリベルを大きくした。
「クレス!」
リベルは四人が乗れるほどの大きさになった。
「すっご〜い!ルチア姉ったらいつのまにこんなことができるようになったの⁈」
ヤンとモリーとスカイとニナがリベルの乗るとリベルは高く舞い上がって王城を目指して飛んだ。
ルチアは馬車の中に隠れて誰が来るか待った。
しばらくすると馬車がやって来た。
馬車はルチアが隠れている馬車を通り越し小屋の真ん前で止まった。
馬車から男が二人降りて来てすぐに小屋の中に入って行った。
ルチアは馬車から降りて、小屋に向かった。
小屋の中から怒鳴り声が聞こえて来た。
「おい!こら!起きろ!どうなっているんだ!聖女はどこだ!」
「わたしはここよ!」
ルチアは入り口に立って言った。
振り返った男たちは驚いたが、喋っていない方の男がすぐにルチアに飛びかかろうと動いた。
「ドルミー!」
ルチアは男たちに向かって手をかざし、スペルを唱えた。
男たちはその場で倒れ込んで眠った。
ルチアは小屋にあったロープで二人の男の手足を縛った。
ルチアが小屋の外に出ると、リベルがフィデスを乗せて戻って来た。
フィデスはリベルから飛び降りると急いでルチアの元にかけて来た。
「ルチア、大丈夫だったか?怪我はしていないか?」
「平気です。怪我はしていても治せるし」
「それはそうだが、いくら治せるといっても怪我をしたときは痛いだろう」
フィデスは安堵した顔で少し微笑んで言った。
「それはそうですね」
ルチアも笑いながら返した。
「誘拐犯たちは小屋の中で眠っています」
ルチアはフィデスに状況を説明した。
「そうか、もうすぐ王家の騎士団が到着する。その前に起こしておこうか」
「はい、わかりました」
ルチアは小屋に入りスペルを唱えた。
「スールゲ!」
淡い光が六人の誘拐犯たちを包んだ。
男たちは目を覚まして驚いていた。
「これはどうなっているんだ!」
叫んだ男をフィデスが見て怪訝そうな顔をして言った。
「貴様、王宮勤めをしている政務官だな」
「はっ……コンコルディア公爵様……いえ、あの……」
後から来た男の一人だとルチアは思った。
「お前が聖女の誘拐を首謀したのか?」
「と、とんでもありません!わ、わたしは、た、頼まれて、し、知らずにここに来ただけです!」
「あら、知らずに来たわりには聖女はどこだと叫んでいたわね」
ルチアが男の目の前に立って言った。
男は青ざめて萎縮した。
「まあいい。もうすぐ騎士団が来る。せいぜい拷問でも受けて洗いざらい白状することだな」
外で馬の蹄の音が聞こえた。
「騎士団の到着だ。覚悟するんだな」
フィデスはそう言ってルチアの肩を抱いて外に出ようとした。
「わたしの家族を巻き込んだことは決して許さないから!」
ルチアは男たちを睨みながら言ってフィデスと外に出た。
フィデスは騎士団に誘拐犯が中にいることを話して、先に王城に帰ることを伝えた。
ルチアとフィデスはリベルに乗って王城に向かった。




