73.聖女の家族誘拐
ルチアとフィデスは大きくしたリベルに乗って上空から公爵家の馬車を探した。
明日の閉幕宣言がされれば祭も終わるので、今日は遅くまで賑わっていた。
リベルは王城から公爵邸に向けて飛んだ。
街を抜けると暗かったが、月が出ていたのでなんとかルチアとフィデスにも見えた。
公爵邸まで飛んだがそれらしき馬車は見当たらなかった。
リベルは公爵邸に降り、ヤンたちが帰っているか確認のため、フィデスが屋敷の中に入ったがまだ帰っていなかった。
再びリベルの乗って郊外の方を飛んだ。王都と隣接する領地の境界の近くで立派なの馬車が止まっていた。
《あの馬車そうじゃない?公爵家の紋章がついているよ》
リベルはそう言って馬車の近くに降りた。
間違いなく公爵家の馬車だ。
フィデスはリベルから降りて馬車に静かに近づいた。
中を覗いたが誰もいない。
フィデスはルチアとリベルの方を振り返って首を横に振った。
誘拐されたのかとルチアは不安になった。とにかく無事でいて欲しいと願った。
フィデスが戻って着てリベルの背に乗ってから言った。
「別の馬車の車輪の跡があった。おそらくここで乗り換えたのだろう」
「……なぜ父さんたちが…?」
ルチアは震える声で言った。
「これは憶測だが、祭のとき、後をつけていたものがいただろう?ルチアを直接誘拐するのは無理だと考えて、人質代わりに家族を拉致したのかも知れない」
「そんな……」
ルチアは両手で顔を覆い、流れそうな涙を隠した。
「……この間はわたしが拉致されて公爵様に怪我をさせてしまって……今度は家族が……わたしが聖女だと公表したばかりに……」
「ルチアのせいじゃない!公表したのもルチアじゃないだろう?全て陛下が図ったことだ。自分を責めるな」
フィデスはルチアを抱きしめて言った。
ルチアはフィデスの腕の中で声を殺して泣いた。
「とりあえず王宮に戻って陛下に伝えよう。ルチアが目的なら、なんらかの接触をしてくるはずだ。それとこの間は人の記憶を操作するのは良くないと言ったが、この件が片付いたら、みんなの記憶からルチアが聖女であることを消そう」
フィデスはギュッとルチアを抱きしめて言った。
ルチアは顔を上げてフィデスを見た。
フィデスは微笑んでルチアの額に口付けた。
王宮に戻ったルチアたちはフォルティスに謁見を求めた。
「こんな夜分にどうした?」
フォルティスは自室で応対してくれた。
「実は……」
フィデスが今日あった出来事をフォルティスに話した。
「そうか……それは難儀なことになったな。国としても最大の協力はする。もし誘拐犯が他国なら国際問題だからね」
「とりあえず相手の出方を待ちます。間違いなくルチアが標的だろうから何らかの接触をしてくると思います」
「うむ……ではまた明日の朝に」
ルチアたちはフォルティスの自室から出て自分たちの客室に戻った。
《ルチア、大丈夫?》
ルチアは薄っすらと笑みをリベルに返したが、青ざめた顔をして今にも倒れそうだった。
部屋まで送ってきたフィデスはルチアが心配だったが、同じ部屋で寝るわけにはいかないと思った。
「ルチア、何かあったらすぐ隣のわたしの部屋に声をかけてくれ。おやすみ」
そう言ってルチアの額に軽くキスをした。
フィデスが行こうとしたらルチアは思わずフィデスの袖の裾を握った。
「あ…ごめんなさい。おやすみなさい」
ルチアは慌てて手を離して俯いた。
フィデスは優しく微笑んでルチアを抱えてベッドまで運んだ。
ルチアは驚いたが、今はこのままフィデスの腕の中でいたかった。
「ルチア……ルチアさえ良ければここにいていいか?」
「公爵様……ありがとうございます。公爵様さえご迷惑でなければ……本当は不安で……みんな無事なのか、何かされてはいないだろうかと考えると怖くて…………そばにいて欲しいです…」
「わかった」
フィデスはルチアを抱えたままベッドに寝転んだ。
「こうして抱いていてあげるからルチアは眠りなさい。家族はきっと大丈夫だ」
ルチアはフィデスの胸に顔を埋めて目を閉じた。
フィデスはルチアの背中を優しく撫でたり、髪に唇でそっと触れたりした。
ルチアは眠れなかったが、フィデスに触れてもらって不安が少し和らいだ。
リベルはルチアたちがいるベッドの横で二人の様子を気にしながら丸まっていた。
早朝、誰かが部屋をノックした。
フィデスがドアを開けると王家の侍従が立っていた。
「コンコルディア公爵様、ここにおいででしたか。陛下がお呼びです。聖女様もご一緒にお願いします」
「支度が済み次第向かう。どこに行けばいい?」
「陛下の執務室までお願いします」
フィデスは頷いてドアを閉めた。
「ルチア、わたしは隣の部屋で着替えてくる。ルチアも支度をしておいてくれ。着替えたら迎えにくる」
「はい」
フィデスは部屋を出て行った。
《何か連絡があったのかな》
「そうかもしれない…」
ルチアは着替えながら家族が無事であるように祈った。
着替えが済んだルチアとフィデスはフォルティスの執務室に向かった。
リベルも小さくしてフィデスの胸のポケットに入ってついて行った。
執務室ではフォルティスが難しそうな顔をして待っていた。
「おはよう、公爵、ルチア」
「おはようございます、陛下」
ルチアは深く頭を下げた。
「何か接触して来たのか?」
フィデスがフォルティスの前に立って言った。
「ああ、誘拐犯から書簡が届いた。これだ」
そう言って手紙をフィデスに渡した。
フィデスは読みながら怪訝な顔をした。
「何と書いてあるのですか?」
ルチアは話してくれるのを待てずに聞いた。
「ルチアの家族は無事なようだ。ただし無事なうちに聖女との交換が指示されている。書簡を届けた一時間後に迎えにをよこすから聖女一人で来るように書いてある。迎えの者に何かあったり一人ではない場合、家族の命はないそうだ」
やっぱり目的は聖女だったのかとルチアは自分に腹が立った。
自分のせいで家族が危険な目に遭っている。しかも血の繋がりもないのに。
「わかりました。わたし一人で行きます」
「それは危険だ!」
フィデスがルチアの肩を握って言った。
「公爵様、わたしの実力はご存知でしょう。家族の無事さえ見届けたらすぐに力を使います」
「しかし、この間のように薬を嗅がされて気絶してしまったらどうしようもできないんだぞ」
「大丈夫です。犯人はわたしを必要としているから殺したりはしないでしょう。リベルをこっそり連れて行きます」
「しかし……」
「公爵、ルチアの言う通りにしよう。時間がない。それしか方法がないだろう」
フォルティスが口を挟んで言った。




